06 迷創断裂 兎河うさぎ
そもそもの発端を振り返ると、3日前に遡る。
「なんですか?コレ?」
「ああ。終わり<死>を知るのにちょうどいい」
古びた本を渡された。
「これ、死霊のはらわたに出てくる本に似てるようにもみえるんですけど・・・」
「でっ操作になれたか?」
「アタイさん、スルーですか?」
キセルを加えつつ煙を吹かす。赤い髪に赤い瞳、赤いチャイナドレスの上に赤いコートを着ている。服装の一部に黒が混ざってもいるが、赤一色で全身を包んでいる。赤いものしか着ない変人である。妖艶な雰囲気を醸し出しており、側から見ると、近寄りづらい印象を持つだろうが、姉のように気軽に喋れるので変に緊張はしない。人見知りのオレでも自然と話せる数少ない人である。ちなみに彼女が吸っているのはタバコではなく、レロレロキャンディーとのこと。すごくレロレロしてるから煙が出るので、副流煙の害はないらしい。
その証拠に部屋中に甘いイチゴキャンディーの匂いが充満している。
「別にその本に意味はないよ。知り合いからかっぱらってきた資料さ」
「WSO、世界維持機関の知り合いからでしょ、どうせ。また、怒られますよ」
俺はそう注意するが、アタイさんは話を続ける。
「わかる範囲の終わりの能力の細かな歴史と記録はそこにまとめておいた。対象にあう前に熟読しておくことだ」
「ところで慣れたかい?その目」
「なれるわけないでしょ」
オレは不満げにこたえる。目のコントロールがどれだけむずかしいのか、その当人にしかわからない。そう簡単に慣れるわけがない。
「ははあ〜ん。あら、意外。てっきりメイに教えてもらってるもんかと思ってたよ」
「いや、それは…」
ぶっちゃけると、まともにコミュニケーションが取れてない。メイと先日ちょっとした喧嘩になって、ここ3週間は口を聞いてもらえてないのだ。
経緯をざっくりいうと、にやけた顔でアタイは言った
「君も遅い青春を迎えたということだねー。イヤはや、めでたい、めでたい」
言ってる意味がわからない。
「目のコントロールは教えてはもらってますけど、そこまで本格的に知りたいとまでは。それに…」
そこで、頭と胃に痛みが走った。嫌なことを思い出すと体のどこかに痛みが走ることがある。一度は誰もが体験したことがあるだろう。それが言葉を詰まらせた。
「なるほど。まだ、ひきづってるといった感じか。君の心はガラスなのか。殊勝だね。メイを知ること、そして、目の力を恐れていると言ったことかい?」
「はい。まあ、そんな感じです」
おれは適当にいう。
「アタイも、君たちのサポートはしてあげたいのは山々だが、あいにくと、いまは、海外のお客人とASI関連の仕事がきててね、今回、君の力になれそうもない」
能天気にあくびしながら、おれのほうをみて、壁によりかかる。
「海外の?つーことは日本からでるのか?」
「近いうちにね。あくまで、今回はリモートでのお誘い」
「AIねえー」
「日本だと規制規制、うるさいだろ?やれることもかぎられてるしねえ~。金持ちに手厳しい国だから。日本政府、いや、民衆のバカさ加減には愛想がついてるよ、このサーバー(国)内にいる民衆のAIとITの知識のなさは発展途上国かそれ以下。
国というコミュニティを運営している代表とその周辺を固めてるやつらが時代の変化についていけてない。暴論だが、マスメディアと人間の政治はアタイには気持ち悪くてしゃあない。個人の人生に必要というわけでないし、個人でなく、人類そのものに害をなすと言ってもいい。存在価値としてはゼロに近いね」
むしろ、マイナスかな?とぼやく声もきこえた。
その2つの概念、存在。もしかしたら、メイなら消せるのでは?と、ふと、思ったがすぐにないなと思った。それをやる愚かさは2年前にメイとオレは味わってる。
話が脱線しそうだったので、オレは本題に戻す。
「それで?おわりとはじまりは循環していて表裏いったいときくけど」
「へっ?あっああ、そうだった」
気を取り直してアタイさんは話を続ける。
「もちろん、その認識で間違ってはいない。だから、おわりははじまりを脅威と感じる。その逆も然り、と言いたいところだが、それはあっているようであってはいない」
「どういうことだ?」
「この際、メイの場合は異質だということだ。この万物、すなわちメイは、存在というカテゴリーにも現在属さない、円環のしくみ、ようはアタイたちがいうはじまりではないということ。循環しているはじまりではないということ」
何言ってるんだ、この人は?と思った。
それを察したのかアタイさんは困った表情をする。
「アタイ、説明が下手かな・・・それとも傾聴してる者の理解力の問題か?」
「さりげに俺をディスるのやめてくれません?」
俺のツッコミを無視して、説明を続ける。
「アタイらのいうはじまりではない。はじまりとおわりは表裏一体で循環しているともいわれている。まあ、ここではそう前提としよう。その円環にメイは含まれない。話は変わるが、生者と死者、単純にどちらが多く自分の意志で現実世界に干渉し、結果としてモノを生み出すことができる?この場合、オカルト的な考えは抜きで、現時点で科学で立証された現実世界のルールにのっとった上で考えてくれたまえ」
恐る恐るだが、オレは迷うことなく答えた。
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