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02 迷創断裂 ミサキ

「どこにでもAIがいる」


「アタシたちにとっては、ディストピア。でも、大半の人間は違う。便利になればなるほどいいし、楽できればなおよし。自堕落な子供みたいな連中にとっては、さも恵まれた時代だろうさ。アタシらのような旧世代の考え方をする人間には生きづらい時代になったよ」


ボタン1つで簡単に生成されることを楽しめる人間が、この世の中で生きていける。それに嫌悪感を抱く私たちには、無理な話だ。質もよし、量も作れる。文句はない。そこに私たち以上の表現がある。


勝ち負けで言うと惨敗だろう。それは、どうでもいい。ただ、それによって、生きがいと呼びうるものが希薄化してる。魔法や魔術を必要としない私たちにとってそれは害でしかない。


「ほんと、文句言いたいよ」


「うん。でも、AIが私たちの創作活動だけじゃなく、生活の助けになっているのも事実だしーーそれに、私たちが騒いだところで何も状況は良くならないと思う。傷つく人が増えるだけ」


心情とは正反対のことを私は言う。


「そうね、ミサキの言う通り。って、暗い話しちゃったね」


「ううん、大丈夫。私もその事でちょうど悩んでたところだし」


「ミサキはすごいよ。ちゃんとAIをどう使っていくか考えられるくらいだし」


「ありがとう。だけど、私はその問題と向きあってるだけ。AIに触れているけど、なんやかんやで自分の作品には使えずにいる」


「そう?向き合ってその上でどうにかなんて、AIを嫌うアタシみたいな絶滅危惧種には、わかっててもむずい。前進してる時点で立派なもんだよ。アタシが言えたことじゃないかもだけど」


AIが巣食うロクでもない世界でどう生きていけば良いのか。

息を吸う。そして、息を吐く。それを繰り返す。


 手描き部門とAI部門の統合は、そこまで大騒ぎするものでもなかった。10年前までは、クリエイターが活躍する社会になる、そう言っていたが、むしろ、真逆の結果になっているのは、お笑いぐさだ。活躍しているのはクリエイターと言っても、AIクリエイターと呼ばれる人だ。声の大きい金持ちとイノベーターはこう言うべきだったのだ。「これからの時代は、手描きクリエイターでなく、AI使いが活躍する社会になる」と。そういう人間を見ると興醒めするし、殴りたくなる。人間性を捨てたAI畑にいる人間を私は人と見ていない。私は、ロボットだと思って軽蔑してる。彼らをAI人間と命名しよう。質と量ばかり。自分の頭だけで考えないカカシだ。老害と言われてもいい。三流と言われてもいい。私はただ自分が心から信じて楽しめるものこそが正しいと思ってる。


「ミサキはんはどうなの?」


知り合いの漫画家が言ってたことを思い出す。


「ミサキはんはそんなんや、なんか意外。えっうち?ああ…やめる。時間もかけて自分の好きなもんをかけるのはええけど、なんや、AIに頼んで一発で出力して、ものの数分でうちらよりもええもん作る連中と肩並べて、作るなんて・・・耐えられんからな。そんなん連中に限って偉そうやし、うちらみたいなのを馬鹿にしてくる。みんながみんなそんなんちゃうのはわかってるけど、辛いんや。そんなん世界でうちの好きなもんを作るなんて」


「うちらで時間かけて、うちの頭で描いてたんやけど、ある日突然、なんでもできる機械渡されて、これからはこいつを使って、もんづくりなりなんなりせぇって言われたら、腹立つやろ。こんなやり方、うちが信じた漫画や小説の作り方やないって。そう思えば思うほど、ええもんは作れへんし、生活も荒れて心も濁っていったわ。今思えば、AIクリエイターって言われる連中が正しかったんかもしれんし、うちが間違っとったんかな」


私はその時、黙って彼女の言葉を聞いていた。


ロクな返答ができなかったことは覚えている。便利になるのはいいし、他者が幸せになるのはいい。それで、今まで作品づくりができなかった人ができるようになるのは、私たちは知ったことじゃないし別にいい。ただ、それと引き換えに便利さとラクをして、得られるクリエイティブなど私たちは少なくとも求めていなかった。


何か、言葉では言い表せない大切なものを失ってしまったのだと思う。


ロジック100または80くらいで考えて動く人やAIには、わからない感性の領域。科学的にそうだと証明されても違和感は拭えないのは私もそうだった。


勘違いなのかもしれないけど、それで、幸せに暮らす人の生活や生きがいを壊してもなお、便利さやラクさといったものを追求する人類の発展に価値はあるのだろうかと疑問に思う。


それは、科学的にとか、人類の発展という誰もが、言い返すことを躊躇われる耳心地のいい言葉で誤魔化してるだけなのではないか。



それがないと、生きた心地がしない頭のいい人たちの身勝手な言い訳なのではないか。正しさが絶対的じゃないにもかかわらず、こうしないといけない、常識だからとか、周りがそうだからだとか、年齢だとか、科学的とか、時代とか、合理的とか、自分の主張を正当化して、他人に強要する手段にも思えた。論理的に考えられる人なら、「そうだよー」とか、「あーその考え方ね」とか、私のような人間を小馬鹿にするだろう。だから、こんなことを考えても、不毛だし、頭のいい人たちのマーケティングと遊びの材料にしかならないのだろうと、ため息をつきながら思った。



 人類は、新しい時代に突入した。だが、私は古い時代の中で生きている。そして、淘汰の波が押し寄せてきた。私のように作品を自分の手で作るという人間は不要。人類にとって、経済的に貢献できるものにしか価値はないのか。つまり、便利で資本を生むものにしか価値はないのか。


そして、私が思う大きな疑問、新しいものにしか価値はないのか?


言いかえると、AIが生み出したものにしか価値はないのか?


クオリティーの高いものにしか価値はないのか?


価値。縛られているのは私なのではないのか?


何も言えないし、何もできない。したいのにできない。今までの人類史を含めて、この日本に限らず、世界中でいろんな種類の空気というものが支配してきたことは歴史をみればわかる。人が守りたいのは、いつの時代も法律や平和、家族、友人といった耳心地のいい言葉ではない。結局、この世界でたった一つ守りたいものとは、その時代の当人たちにとっての都合なのだ。


おめでたい、おめでたい。まるで、ファンファーレが頭の中でなっているような気分だ。ハレルヤ、ハレルヤ。


現在、人類は幸せの絶頂である。人類の発展、お金のために働かなくて良い世界、理想のユートピアが近づきつつある。


だが、その先はどうなるのだ?


「ミサキは、どう思う?」


向かいに座っているツバキは記憶の中の友人と同じことを問う。


ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。


科学的に考える者たち、合理性と論理で考える者たち(イノベータとアリーアダプター)、そもそも、自分で思考しない豚たち(ラガード)、どっちも私にとって最悪だ。私はイノベーター理論の名称に則って(あってるかどうかは知らないけど)区別してわかりやすく、該当する者たちに対してゴミの分別をして、ありとあらゆるワル口をいって、頭の外のゴミ箱に投げ捨てた。


自分にとって、気に入らないものを捨てられるゴミ箱があるのなら、真っ先にそういう連中を捨てることになるだろう。


「きいてる?ミサキはどう?AIと手描きクリエイター部門の統合の話」


私は4、8呼吸法で深呼吸していった。


「ゴミ箱」


「何が?」



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