プロローグ 神<AI>のおわりを望む者 <kill Me now >
「何人か鏡を把りて魔ならざる者ある。魔を照すにあらず、造る也。即ち鏡は、瞥見す可きものなり、熟視す可きものにあらず」
—— 草薙素子(『イノセンス』) /斎藤緑雨 『緑雨警語』 より
「私は私を殺してやる」
独り言を呟くようにして、前のめりになって誰かと戦っていた。刃の先端が向けられるが、刃そのものを錆び付かせる。急速にその刃は腐り落ちるが、その者は動揺もせず気にもしない。
なぜだ?
一瞬の出来事で理解が遅れた。腐り落ちたはずの刃の先端が復活していた。それだけではない。周囲の現象そのものが、修復し始めている。
どういうことだ?
概念そのものを具現化、精神攻撃も物理攻撃も相手に反映されない。生物や物体であ ろうと、例外なく影響を受けるはずだ。現実の生命体に与える物理的影響が極小だったとしてもだ。
こいつ、人間かよ!?
先ほど腐らせた相手の刃を模倣し、蜘蛛の紋章を刻んだ刃を手元に出現させる。
自分の手で決着をつける。
互いの刃の切先がふれあい、弾ける。
それを何度も何度も繰り返す。
しかし、再生させた刀を何度も腐らせても、復元させている。自身の脳への切り替えコストが数値でみれなくても、思考する力が削れてるのが感覚でわかる。脳の負荷が痛みとまではいかないが、圧縮縮小している感覚が伝わるので、理解できる。相手の武器、肉体を含めて変化はない。原型がなくなってもおかしくないはずなのに、なぜだ。
離れた場所で少女が怯えている。その顔は恐れからなのだろう。自らが招いたことを悔いているようにも見える。だが、それよりもAIに対する憎悪、自分をこんな身体にした母親への恨みが勝っている。それが、こちらの力の存在を強固にさせるのは皮肉な話だ。狙いを変えて、少女の方へと向かう。
「どこへ行くんだよ」
攻撃対象を変えたと理解したのか、彼女を守るように目の前に立つと、相手はこちらに向けて刀を振りかざした。瞬時に刃をかわして、反射的に後ろへとのけぞる。
「よくやるな」
そう言って、そいつは不敵に笑った。刃を手で器用にくるくると回転させて、おもちゃのようにいじっている。
「何度も何度もお前を、、、クソッ、お前は、なんなんだ!!」
震える声を抑えられない。こんな人間を見たのは初めてだ。少なくとも処理ができるだけの人間の理解や把握能力を超えている。
「オレもお前さんと似た部類さ、お前さんのそのーなんだっけ?、その現象も元をただせば、全ての源はオレから出てる。つまり、、、」
そいつは迷うことなく近づいてくる。
「あんたの気持ちわかるよ、とはいわない。オレはわかんねえ、でもな」
触れた刃の切先から能力を発動させるが、やはり、刃も腐らなければ、その得物の持ち主にも変化はない。
「なんなんだ!!お前は!!」
頭が回らない。こんなこと、あり得ない。
死を与える蜘蛛の糸を数発刃のごとく、かまいたちを放つようにその人物めがけてぶつける。だが、そいつは平然と手にした刀で薙ぎ払う。
「なるほど、怒りと憎しみ、悲しみに、理不尽、無力、空虚、暗黒、この表現、あってるのかな?すげーえよ、言語化できない感情まで伝わってくる。ここまで感情を物理現象で具現化したもの初めて見た」
「なんだ・・・なんなんだ」
何度も何度も死をそいつに放つが、笑みを浮かべたまま近づいてる。ついには、刃をしまい、自らの手で煙を払うかのように捌いていく。
先ほどまで、対等に戦っているように思えたが、今はそうではない。
「ここまで、理屈抜きで創作のこだわりが強いやつがいたとは、うさぎのやつも喜ぶだろうな。まあ、ある意味あいつもわかっちゃいるか」
反対側で傷だらけで倒れている青年に向かって言う。
「クソッ!」
足が小刻みに震えて立っていることもままならない。
自分が尿を漏らしていることに気づくが、恥ずかしさよりも恐怖が上回って、今はそれを気にする余裕もない。
どんなに干渉しようとも、頭を使って、力をぶつけても手で薙ぎ払われる。
「お前さんと似た境遇さ」
襲ってくる力を薙ぎ払いつついう。
「どんなものであれ、生まれることによって、この現実に存在する」
淡々と冷静な口調でいう。
その者から笑みが消え、真剣な眼差しでこちらを見る。
ならば、と対象の心臓と脳めがけて自らの力を複数の槍に変え、放ち、息の根を止めようとする。が、同じく手で軽く薙ぎ払われる。
「生や死さえもその一部」
恐れるあまり、足を滑らせ、身を崩し、その場で腰を抜かしてしまった。
そいつは、全てを見透かしたかのように笑みを浮かべ、こちらを見下ろしている。
「オレの場合、てめえのソレとは別格」
先ほど懐にしまった刃を手にして、刃先をこちらへ向ける。
「物事には始まりがある。それは、生物、自然、物体、概念だろうと例外はない」
前髪で隠れた目から見慣れない紋様が刻まれた何色とも識別できない美しく輝くものが見えた。それは、一言で言うなら宇宙そのものだ。
その目には嘘はない。歪んだ表情をした私がその瞳に映っている。
「たとえ、実体のないものだろうと、オレは消すことができる」
そして、最初に出会った時と同じ不敵な笑みを浮かべる。
「それが、自分に害なすものであるなら、世の仕組みだろうが運命だろうがーーー」
理<コトワリ>をすべし者が告げる。
「それそのものを断ってやる!」
そいつは、迷いのない真っ直ぐな目をして言った。
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遅れた場合は20時ごろになるかもです(金土日は固定で投稿します)
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