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「不服だが、一応オイラの呼び名も決まったってことで。これからのことを考えようぜィ」
「……これからのこと?」
カイは何を言っているんだと言いたげに首を傾げる。それを見てミルフィーはちっちっちっと人差し指を振った。
「決まってんだろ?アンタと俺とで冒険に出るんだよ」
「はあ!?」
ミルフィーからの突然の提案にひっくり返りそうになるカイ。ミルフィーは声を押さえろと言うように口の前に人差し指を立てた。
「ぼ、冒険って……別に俺の夢にお前まで付き合うことないだろ?」
「いつまでもカイの家にお邪魔する訳にもいかねーだろ?それに、オイラが記憶を取り戻す為には世界を回った方が都合がいい。どうやらここは、オイラの知らねー外国らしいからな」
どうやらミルフィーはニホンという国に戻るつもりらしい。
「でも、オイラは記憶喪失で魔物の怖さとかそういうのも知らないし一人で冒険するには危ういだろ?そこで、だ」
ミルフィーは人差し指をビシッとカイに突きつける。
「カイっていう護衛が必要なんだよ。アンタも旅するのが夢だってんから、悪い話じゃねーだろ?」
……カイは迷った。かなり魅力的な提案だが現実的じゃない。自分には武器が無いのだから。それに、母を一人で残していくのも心配だ。
「あ、もしかしてオイラにも金が無いってことで護衛の給料が出ないってこと心配してるのか?そこはほら、冒険で貯めた金で出世払いってことで……どうだい?」
「いや、そういうことじゃない。そもそも俺には武器が無いからお前のことを護衛してやることも出来ないんだよ」
「なるほど。武器があれば良いんだな?」
そう言うとミルフィーは立ち上がり、部屋の隅の机に置いてある一冊の本を手に取った。
「……ふーん、エクスカリバーねえ」
「あ、ああ……この村に古くから伝わっている伝説の剣だ。そんなもん、存在する筈ないだろとは思っているが……もしあったのなら使ってみたいと思っていて……」
ミルフィーはその本を何ページかペラペラ捲り、ポイッと投げ捨てる。カイは慌てて受け取った。……御伽噺みたいなことしか書いていないとはいえ、自分の大事に読んできた本なのだからもっと丁寧に扱って欲しい……そうカイは思った。
「よっしゃ、じゃあ今からその剣を頂戴しに行こうぜィ」
「はぁぁぁっ!?」
今度こそ大声が出る。すぐにミルフィーに塞がれてしまったが。この男はいったい何を言っているんだ、本当にあるかどうかも定かでは無い、しかも伝説の剣を今から取りに行く、だと!?……自分は頭をぶつけていない筈なのに、カイは頭がクラクラしてしまう。
「で、伝説の剣だぞ!?そんなの……!」
「伝説の剣だからだろ?それならタダで手に入るし、護衛するにもピッタリだ」
「た、タダで手に入るとか、そんな理由で!?」
「おうよ。他にどんな理由があるってんでィ」
この男、あまりにも罰当たりすぎる。伝説の剣をいったい何だと思っているのだろうか。
「そうと決まればさっそく……って言いたいところだけどよ、夜の方が良いな。昼間は目立ち過ぎちまう」
本気で言っているのだろうか。カイは頭を抱える。