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青年の食事の邪魔をしておきながらその言い草は流石に聞き捨てならないと思い、ケンは女性達に文句のひとつでも言ってやるつもりでいたが、それは叶わなかった。
「クソババアですって!?何よこのチビ!失礼ね!」
「はあ〜?何それ自己紹介かよ。勝手に声掛けて勝手に幻滅して失礼なこと言ってさ」
そう、彼が……煽りの鬼がケンの前に割り込んで来たのだ。やれやれ……と言いたげに首を振るサンゴ。その仕草に女性達の怒りのボルテージが上がっていく。
「てか、お前ら自分が選ばれるような器だと思ってんのかよ。激ウケるんですけど!」
更にサンゴは煽る。ケンは頭を抱えるが煽りならばサンゴの独壇場である。ケン自身も女性達の身勝手さにめちゃくちゃ腹が立っていたので寧ろ思い切りやれとすら思っていた。
「な、何よ!何なのこいつ!」
「こっちからしたらお前が何なのって感じ。自分だけが選ぶ立場だと思ってる?お前らもしっかり吟味されてるから」
「う、うるさいわね!たかが冒険者の癖に!貴族のアタクシ達に口出ししないでもらえるかしら!?」
どうやら女性三人組は良い立場のお嬢様のようだ。そう言われれば着ているドレスも高級そうに見える。
「ぷっ……!貴族……!マジかよ!」
突如、サンゴはキャハハハ……と大口を開けて大笑いする。
「貴族!お前らが貴族とか!そのカッコ、貴族の地位も大したことないって言ってるようなもんじゃん!ざぁこざぁこ♡ダサダサニンゲン♡」
「んまーっ!!貴族のお洒落が何も分からない貧乏人が偉そうに!!」
「分かるよ、お前らにも分かるように教えてやろっか?」
サンゴは大笑いをやめ、にこりと微笑みかける。そして続けた。
「お前はメイク崩れてる。お前はその髪型似合ってない。お前に至ってはドレスのファスナー締まりきってないんだが?もしかして、無理矢理ワンサイズ下のドレス着ちゃった感じ?逆にダサすぎるんですけど!」
「な……なっ……!」
「まあ、これが貴族サマのお洒落ってんなら話は別だけどサ。一般人のボクにはクソザコダサファッションにしか見えないけど。貴族サマにしかわかんない感じかな?いいね、貴族サマのお洒落……ぷぷっ……あーっはっはっは!ボクは絶対真似したくないけど!」
わなわなと震えるお嬢様三人衆に対して更に煽り続けるサンゴ。やっぱコイツ強過ぎるわ……とケンは苦笑いした。
「こ、このガキ!言わせておけば……!!」
しかしここまで言われて黙っていられないお嬢様の一人(ちなみにサンゴにドレスのことを指摘されたお嬢様)が怒りのあまり手を振り上げる。頬を張り飛ばすつもりだ。
「……はあ、図星だからって逆ギレかよ。めんどくさ」
サンゴはいつもより低めの声でぼそりと呟くと、魔法陣を展開しようとする。
「ば、ばかサンゴ!それは流石にやめろ!!」
ケンがふたつの意味で庇おうとし、サンゴとお嬢様の間に入ろうとしたその時であった。