4-12
卯月の一日。ついにやってきた花祭りの日。
踊り手は色々と準備があるから先に祭りを楽しんでおいて、とフユミが言うので四人はお言葉に甘えさせて貰うことにする。
……というか、フユミがあまりに緊張していたので自分達はここに居ない方がいいと、気を遣ったと言う方が正しいかもしれない。
ハルトはフユミの元に残りたがったが、「ケンさん達はお客様なのだから祭りを案内してあげて」と頼まれては嫌とは言えず、こちらに来ることとなった。
「やっべー!屋台とかいっぱい出てるじゃねえか!なあなあ!どれから回る!?」
「カナイ・ド村にも祭りはあったがせいぜい皆で踊って飲み食いするくらいだ。これはすごいな……!」
「そう言って貰えて嬉しいよ。特に今回はシキの町を元気にしようって皆本気出したからね」
嬉しそうに笑いながらケンとカイを案内するハルト。……あれ?他の二人はどうしたのだろう?
「このタコヤキというのは美味しいですねえ。ヤキソバというやつも私の好みですよ」
「あーもー!見るとこ多すぎ!……あっ、これ美味いじゃーん!」
前方からやってきたのはたこ焼きに焼きそば……色々飲み食いしてるセーヤと、わたあめにかぶりついて口の周りを汚しているサンゴ。頭にはお面なんか付けちゃって、どうやら物凄く祭りをエンジョイしているようだ。
「いやいや!何勝手に楽しんでんだよ!」
「はぁ〜?わざわざ案内に頼ってトロいのが悪いんじゃん!クソザコニンゲン♡」
「言いやがったな!サンゴ!オイラと勝負しやがれ!!」
「へえ、ニンゲンのクセにボクに勝てるとでも思ってんの!?」
がるるるる……と唸り声が聞こえてきそうなほど威嚇し、挑発し合うケンとサンゴ。もう一周回ってこいつら仲良しなんじゃないかなと思えてくる。
「つってもさあ、どんな勝負するつもり?ま、どんな内容でもボクが負けるなんてありえないけど─────」
ドン!!
サンゴの目の前に山のように盛られたかき氷が置かれる。ちなみにいちご味だ。
「はあ?何だよこれ?」
「かき氷大食いで勝負だ!!」
ケンの目の前にも同じ量のかき氷が置かれている。こちらはメロン味だ。
「普通に食べればいいのに……」
「ま、まあまあ!お祭りだから、ね!」
「そうですね。こういうノリもアリでしょう」
残った三人は普通サイズのかき氷を食べている。カイはブルーハワイ、ハルトはレモン、セーヤは宇治金時だ。セーヤだけ妙に渋い。
「大食いならボクに勝てるってこと!?やってやろうじゃん!余裕勝ちしてやるんだからな!!」
「その言葉、後悔すんなよ!?」
「では……よーい、始め!」
セーヤの合図と共にケンは一気に氷をかき込むようにして食べる。
「〜っ!!いってぇーーーー!!」
当然、頭にキーンと来たようだ。しかし食べる手は止めない。相手は小柄なサンゴ。負ける訳がないが、勝負をするなら手は抜かない。それがケンの信念だった。
一方サンゴは全く持って動いていない。氷を口に運ぶ気配すらない。冷たいものは苦手だったのだろうか。
ケンは勝ったと思った。しかし、こうも思った。あの煽りまくりのサンゴが?人を見下しまくっているサンゴが?勝てもしない勝負に乗ってあんな大口を叩いたと?
いや、有り得ない。まだ短い付き合いだがサンゴはそういうことをする奴じゃないとケンは分かっている。彼は勝てるからこそ勝負に乗ったのだ。……ふと、ケンがサンゴの足下の魔法陣に気づいたのは……その時だった。今更気づいてももう遅い。
「……ファイア!!」
サンゴが小さな炎を出し、その炎でかき氷はみるみる溶けていく。そして溶けきった氷……いや、もはや水を一瞬でぐいっと飲み干し、勝負はついた。
「いやずるくね!?」
「ずるくないもーん。だって、溶かしちゃダメなんてルールなかっただろー?」
「でも!普通そんな食い方するなんて思わないだろ!!」
「はあ……ほんとケンってザコ脳みそだよねー。皺入ってないんじゃない?ツルツルなんでしょ!」
「テメェこの野郎!!」
「……やっぱり、普通に食べた方が美味いのになあ」
「それはまあ、同意します」
シャクシャクと音を立てながらかき氷を食べるカイに、苦笑いをするセーヤ。
「あ、あれ……どうやって溶かしたんだ?マッチでも使ったのか?」
そしてサンゴの正体を知らないハルトは一人、困惑しているのであった。