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「た、助けてくれてありがとう……」
襲われかけていたとはいえ、可哀想なくらいボコボコにされる魔物を見てフユミはドン引きしながらもお礼を言った。
「オイラ達のことはいいから。さっさと練習しな」
「ええ。明日の花祭りまでに何とか間に合わせるわ」
「明日ァ!?!?」
まさかそんな急な話だとは思わず、ケンはすっ転ぶ。
「まあ、明日一日だもんな。ケンは気づいていると思ってたが……」
「バッカおめぇ、オイラが記憶喪失なの知ってるだろ!?今日が何月何日なのかすらわかんねーよ!!」
「弥生の三十一日ですね。明日がちょうど卯月の一日になります。桜花の舞にぴったりの時期ですね」
つまり、今の季節は春ということらしい。
「……だけど、土の魔力ってのがどうしたらいいのか分からないわ。花の杖はここにあるけれど……このままじゃダメなのかしら……」
フユミが花の杖をぎゅっと抱きしめて、呟く。
「ああ、その点は心配しないで大丈夫。ボクが何とか出来るから」
「ほんと?どうするの?」
「とりあえず明日、舞の時間に分かるよ」
そうサンゴははぐらかす。ギリギリまでエルフだと言うつもりはないらしい。
「とりあえず今日はここで解散ってことでいいか?」
「あ、それならこの町で泊まれる場所を聞いておきたいですね」
確かにせっかく町に来たのだから野宿ではなく、ちゃんとした宿屋に泊まりたいものだ。シキの町に着くまでに三日程馬車で寝泊まりしていた訳で、身体中がギシギシと痛んでいる。
「あっ、それなら僕の家で泊まっていってくれよ。宿代も馬鹿にならないし……」
「そうね、お世話になったもの。サンゴさんはあたしの家に来るといいわ」
「へ?ボクだけ何で?」
「だってサンゴさんは女の子でしょ?男子だけの家に寝泊まりするなんて嫌じゃない?」
フユミは何の悪気もなく、ただ純粋にサンゴの為を思って提案してくれたのだと思う。それはケン達も理解していた。
しかしその言葉は、彼にとっては地雷ワードなのである。そんなこと、フユミに知る由もないから仕方の無いことではあるが。
「……っ!ボクは、男だから!!」
「ええっ!?男の子だったの!?」
結局、サンゴも他の三人同様にハルトの家に泊まることになり、ひとつしかないベッドは当然の如くサンゴに占拠されることとなった。