4-10
……ハルトに案内して貰った休憩所に、フユミはいた。そして少し離れたところにサンゴも。どうやら先を越されてしまったらしい。
「サ─────」
「しーっ!レナ・ニ・カズシ……!」
サンゴが余計なことをしでかす前にケンは声をかけようとした訳だが、サンゴが呪文を唱えるとどういうことかケンの声が出なくなってしまった。
「素晴らしいですね、どういう魔法なのか教えて頂いても……!」
「うるさい、お前らもかけられたいっての?」
サンゴは八重歯を剥き出しにして威嚇する。本気で静かにして欲しいようだ。
「フユミ……」
そして、その理由をハルトは理解した。
「ここで右手を上げて、ターンして……」
フユミは逃げたんじゃない。オウカの舞を舞うつもりなのだ。今の自分では無理だと分かっていたからこそ、練習をしたかったのだ。
「……わかった?あの子、ちゃんと自分でやるつもりなんだって。だからボクらが邪魔するワケにはいかないだろ?」
「うん……、うん……!」
まだ不安定さが残る舞ではあるが、それでも彼女の懸命な気持ちは伝わってきた。ハルトは思わず涙ぐむ。
「……っ!誰!?」
突如、フユミが振り返る。ケン達のことがバレてしまったのかと思ったが、そうではなかった。
「グルル……」
「きゃあっ!な、何よこいつ!!」
魔物だ。セーヤが危惧していた通り、本当に魔物が出現してしまったのだ。こうなったら隠れている訳にはいかない。ケン達は魔物の前に飛び出した。
「〜〜〜〜!!」
「え?えっ?まさか、見てたの!?」
「〜〜〜〜!〜〜〜〜!!」
「……あ、そっか。忘れてた」
サンゴがパチンと指を鳴らすと、ようやくケンの声が解放される。
「おいサンゴ!さっさと魔法解けよ!何か変な感じになっちまっただろうが!!」
「はいはい。解いてあげたんだからやり直せば?」
「今更遅いんだよ!飛び出した瞬間かっこよく決めたかったってのに……!!」
「二人とも!危ないっ!!」
ハルトの忠告は間に合わなかった。言い合いをしていたケンとサンゴは魔物の攻撃をモロに喰らってしまう。
「…………」
「…………」
吹き飛ばされた二人はむくりと起き上がり……
「……っテメェ、上等じゃん……!!」
「バットでドタマかち割んぞゴルァ……!!」
……ブチギレていた。
完全にカタギではなさそうな二人にボコボコにされる魔物を見て、「ああ、心配したけれど案外余裕そうだなあ」とハルトは思ったのであった。