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「……クリスタルのことを、教える訳にはいきません」
「はあ!?これで教えないってお前バカじゃないの!?」
「ちょ、待て!」
サンゴが今にも掴みかかりそうだったので、カイが慌てて取り押さえる。
「シキの町のクリスタルのことは決して外部に洩らしてはいけない掟なのです。ですから、私は住民にも娘にすらも、伝えて来なかった」
ハルトやフユミが知らなかった理由がハッキリした。彼女は掟を守るために、住民すらも信用しなかったのだ。
……いや、自分しか情報を知らなければ、自分が口を割らなければ掟が破られることはない。もしかしたら彼女は住民を守る為にこの選択を取ったのかもしれない。
「今は緊急事態なんだけど!?掟の方が大事だっていうの!?」
「では逆に問いましょうか、お嬢ちゃん。私はあなたたちとは初対面。自分たちにはクリスタルを直せる力があるとか、そもそもクリスタルの結界が破られているせいで花が枯れているとか……私が信じられると思うかしら?逆の立場ならどう?相手は得体の知れない冒険者。シキの町に害をなす存在でないとは言い切れない。……どう?あなたは信用できる?」
サンゴは黙ってしまった。誰よりも人間を、他者を疑ってきた彼のことだ。きっとこの言葉は刺さったに違いない。
「……俺は、カイです。カナイ・ド村からやって来ました」
突如、カイが自己紹介を始める。周りはカイの気が狂ったのかと思ったが、フユミの母だけはその意図をちゃんと理解していた。
「カナイ・ド村……!随分遠くからいらっしゃったのね……!」
「彼らは道中で出会った俺の仲間です。この前に寄った村でもクリスタルの結界が破られていて……彼らと共に修復したんです」
そこでカイは一旦言葉を切り、フユミの母の顔色を伺う。
「……カナイ・ド村……あそこの野菜は美味しいのよねえ……。私もよく買ってるわ。カナイ・ド村の農作物は、信用出来るから」
フユミの母は、そう返した。……つまりカイは彼女にとって信ずるに値する存在になろうとしているのだ。その為に、自分達のことを少しでも知って貰おうと自己紹介をした。ケン達はようやく理解する。
「そんな遠くの村からやって来た人達ですものね……」
彼女の心は、今揺らいでいる。しかし、彼女にとっても掟を守ることはシキの村を守る為にも大切なことだ。今日出会ったばかりの冒険者に簡単に教えてやる訳にはいかなかった。
「……やっぱり、教えてはあげられない」
「はあ!?そんなのずる……っ!!」
反論しようとするサンゴをケンが押さえつける。
「やめとけ。ここで暴れたら見返りを求めて自己紹介したことになる。そうなりゃこの人は余計にオイラ達のことを信用出来なくなるだろうよ」
「……っ、それは、そうだけど!でもこのままじゃ、ほんとにこの町を守るものがなくなっちゃうんだよ!?」
「……しかし、彼女にとっては我らも怪しい存在ですからね。町の為と言いつつ、本当はこの町を滅ぼそうとしている悪役……の可能性もあるんですよ」
「はあ!?そんなことするワケないじゃん!!」
サンゴも我儘で暴れている訳ではない。彼なりにシキの町を救いたいと思っているから必死なのだ。それはケンにもセーヤにも分かっている。
「人の話は最後まで聞くものよ。私の口からは教えられない。だけど、あなたたちが勝手に見つけるのは自由」
フユミの母は続けた。
「あなたたちの誠意に免じて、ヒントを教えましょう。 "どうして私だけがクリスタルの場所を知っているのか" ……これを考えれば自ずと分かるはず」
「……!あ、ありがとうございます!」
カイは深々と頭を下げ、他の三人もそれに倣う。
「私だって、シキの町を滅ぼしたくないもの。……よろしくね、冒険者さん達」




