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「……ふう。助けられてよかった。無事か?」
マントの男は倒れている男に手を差し伸べる。倒れている男はその手を受け取って立ち上がりながら、申し訳なさそうな顔をした。
「どうした?痛むのか?」
「いや……剣、折れちまったなと思って……」
「気にするな。元々限界だったんだ。すぐに新しい剣を調達するさ」
マントの男は安心させるように微笑みかける。そして肩を貸してくれた。
「俺はカイだ。カイ・アウティナ・リオンギラー。……お前は?」
「オイラは……」
男は名乗れなかった。自分の名前を知らないから。記憶喪失など信じて貰えないかもしれないが、自分を助けてくれた人だ。男はマントの男……カイにそのことを告げようと決めた。
「オイラよお、記憶がねえんだ」
「記憶喪失か?あの狼に襲われたショックでか?」
「いや、それより前からだと思う。訳も分からず原っぱに倒れてたところを襲われたんだよ」
「そうか……大変だな」
カイは男に肩を貸しながら男の頭の傷に気を使って、ゆっくりと歩を進める。
「しかし……狼なんて初めて見たな。ニホンで狼ってまだ生きてたんだなあ」
男にとっては何気なく呟いた一言だったろう。しかし、カイはその言葉に酷く驚いた様子を見せた。
「狼を見たことがない……?生きていれば必ず出会うほど生息しているというのに?」
「……えっ?」
「それに、ニホンという国は初めて聞いたな。遠い国なのか?」
「……ニホンを、知らない?」
というか、自分はニホンという国の出身だったらしいということを男は思い出す。そして、カイはニホンを知らない。つまりここは少なくともニホンではないということになる。
……そうなると、何故男は外国にいるのだろうという疑問が出てくる訳だが。
「……っ!!」
しかし、その疑問を考えさせてくれる余裕は無いらしい。何かを思考しようとすると、後頭部が痛むのだ。
「おい、大丈夫か。無理すんな」
男は思わず倒れそうになったが、カイが支えてくれる。
「俺に体重を預けてくれて構わない。もうすぐ村だから、それまで頑張ってくれ」
「うう……すまねえな……」
男は申し訳なさそうにカイに身体を預ける。無理をしないようにゆっくりと歩いていくと……小さな村が見えてきた。