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男はもはや笑うしかなかった。後頭部の痛みで立ち上がれないのやられる以外の選択肢がなかったからだ。
ここで死ぬのか……と自嘲する。まだやりたいことがあったというのに。そのやりたいことすらも彼は忘れてしまっているのだが。
「あー……せめて自分の名前くらい思い出してから死にたかったなあ……」
男は覚悟を決めて目を閉じる。
せめて、一瞬で殺して欲しい。生きたまま自分の肉が食われるのを感じるなんて死んでも御免だった。
「……いや、死んでもごめんって。今から死ぬんだけどさ」
地の文にツッコミを入れるのはやめて欲しいものである。
とにかく、男は目を閉じた。そしてそんな男に向かって狼は向かってくる。男にも、気配で分かった。
「一瞬で頼むぜ。後生だからさ」
男がぽつりと呟いた、その時であった。
「……やらせはしない!」
一人の男が倒れている男の名前に躍り出た。
「はあ!?」
倒れている男はその男の気配を感じ、目を開けるとそこにはマントを背負った男の姿が。
「大丈夫か!?」
マントの男は今にも男に喰らいかかりそうになっていた狼の口を剣を盾にして塞いだ。
「立てるか?逃げられるか?」
「……すまねえ。オイラ、頭が痛くて動けやしねえんだ」
「そうか。ならばすぐに仕留める!少しだけ待っていてくれ!」
マントの男は狼を弾くように盾にしていた剣を振るう。そして狼が体勢を崩したその隙を狙い、剣を思い切り振るった。
「ギャッ!!」
狼は短い悲鳴を残し、その場に倒れ伏す。しかしその一撃で限界だったのか、マントの男の持っていた剣もポッキリと折れてしまった。