3-5
「さっきのハーフドワーフのひと……エルフのこと気にしてこないなんて珍しいじゃん」
「思いっきりお嬢ちゃんって呼ばれてたけどな」
「……あっ!そうだよ!ボクは男なのに!」
トワを見送るカイの後ろでやり取りするケンとサンゴ。
待ち合わせの時間までは当然ながらまだまだ時間はある。しかし、先程までマンドラゴルァと死闘を繰り広げた三人にこれ以上動き回る気力は既に無かった。
「ちょい早いけど、宿屋に向かうか。オイラはもう寝たい」
「同感。ボクもMP使いすぎた……」
「カイ、いつまでぼーっとしてんだ?宿屋行くぞ」
「あ、ああ……」
何処か様子がおかしいカイ。二人は不審に思いながらも宿屋に入る。
「ふーっ!宿屋使えるなんて久しぶり!あ、ボクベッドね!」
案内された部屋に入るなりすぐに一つだけのベッドに飛びつくサンゴ。
「あっ!テメェ!そこは公平にジャンケンをだな……!」
「まあ今日くらい良いじゃないか。かのじ……彼はエルフということで差別され続けて宿屋にも泊まれなかったんだろうし」
「カイ、その気遣いは嬉しいけど!今、彼女って言いかけたよね!?」
「うっ……見逃して貰えなかったか」
キャッキャと騒ぎながら荷物を下ろす三人。サンゴの事情が事情なので、ケンはそれ以上反論はしなかった。
「……っておい、そのまま寝るのかよ」
着替えもせずに寝転がろうとした二人にすかさずカイがツッコミを入れる。
「いや、オイラこれしか服持ってねえし」
「そのまま寝るなんて当然じゃない?いつ魔物に襲われるか分からないんだから」
「あー、確かにな。そう考えるとむしろ着替えてのんびり寝てるカイの方が異端じゃね?」
ケンは何処からか来たか分からない記憶喪失の男で、サンゴは野宿が当たり前だったから着替えることがないのだ。
「ケン、サンゴ。村や街には結界が張られているから基本魔物は入って来られないんだ」
「へえ、何それ!知らなかった!」
「この村の中央に大きなクリスタルがあっただろ?アレで結界を張ってるらしい。うちのカナイ・ド村にもクリスタルはあった。……だいぶ小さいけどな」
「またそんなご都合主義というか、便利なものがあるんだなあ……」
「ふーん、ニンゲンも色々考えるんだね」
そう言った後、サンゴはベッドに寝転がって毛布をかける。このまま寝るつもりらしい。
「大丈夫だって言ったのに。着替えないのか?」
「そもそも寝巻きなんて持ってないんだよね。必要無かったからさ」
「なあなあ、マンドラゴルァ討伐で結構儲かったしよ。この後服買いに行かねえ?そろそろオイラの普段着も欲しいんだよな」
「えー、明日で良くない?ボクもうほんとにヘトヘトなんだよ……」
サンゴは毛布を頭まで被ってしまう。もう外に出る気は無いようだ。残された二人はやれやれといった感じで顔を見合わせた。