3-2
「おやおや!行商人ギルド "馬の蹄" のサブマスターじゃありませんか!」
店主は先程の高圧的な態度とはうってかわってヘコヘコとしている。どうやら彼の方が地位は上らしい。
「どうも。いつもお世話になっております」
三人を止めた男はニコニコしながら答える。
「ところで騒ぎになっていたようですが……何かあったのでしょうか?」
「い、いえいえ!申し訳ありませんねえ!こちらのエルフが不躾なことを……!!」
「なっ……!ボクは……っ!!」
「……エルフ、ですか?」
サンゴが店主に噛み付く前に、男がサンゴの方をジロジロと見る。男の目は細く、瞳が見えない。それがまた不気味さを感じさせる。
「……何?お前もボクのことを差別しようってワケ?」
サンゴも負けじと睨み返すと男はサンゴの手を取って……
「差別なんてとんでもない!!」
「ああ!エルフ!エルフが本当に存在していたなんて!!本に載っていた通り、雪のように白い肌に美しい容姿!そして可愛らしい尖り耳!ああっ!!私はもう感激です!涙が出そうです!!」
……キラキラと目を輝かせて男は熱弁する。これはもうこの場にいた全員がドン引きしている。
「えっ……きも……」
サンゴの口からシンプルな罵倒の言葉が出ても、男は気にもしない。
「わ、私!エルフの生態がどうなっているか気になって仕方ないのです!!だからその身体を少し私に見せていただけませんか!?大丈夫です!痛いことはしません!少し実験をさせていただこうかと……!!」
「変態だーーーーーーー!!!!!!」
サンゴは男の手を振り払い、思わずケンに抱きつく。ケンもサンゴを守るように自分の背中へと隠す。
「ど、どうして逃げるのですか!?」
「いや……流石のオイラもこれは引くわ」
「もうやだ!マンドラゴルァ売りに来ただけなのに店主にはエルフだからって安すぎる値段提示されるし、キモすぎる変態に出会うし……!!ほんとうざいんだけど!!」
「……え?」
サンゴの言葉に男は反応する。変態と言われたのが気に食わないのかと思ったら、そうではなかった。
「明らかに安すぎる値段を提示した、と」
「う、うん」
まさかそっちに反応するとは思わず、サンゴも返事をしてしまう。
「……そうですか」
そして男は店主に不気味なくらいの笑顔を向けて、ぽつりと呟いた。
「……店、潰されたいですか?」