1-1
「……んあ」
男は草原で文字通り大の字になって寝ていた。
何故こんなところで眠っていたのか男には分からないが、これ以上土で服を汚すのが嫌だったので起き上がる。
「……っ!!」
起き上がった途端、激しい痛みが男の後頭部を襲った。思わずもう一度大地へと倒れ込むが、そうなると当然もう一度後頭部を打ち付ける訳で。
「ってえ〜〜!!」
男は痛みで悶えた。……そして、気づいた。
「……オイラ、何でこんなところで寝てたんだっけ……?」
ここで寝ていた理由が男には分からないのだ。それどころかこの場所も何処なのか分からないようだ。
いやいや、それどころかもっともっと重大な事実を男は忘れていた。
「てか、オイラは誰だ……?」
まさかの主人公が記憶喪失。もはや使い古されたネタだろうとツッコんではいけない。
「さて、どうすっかねえ……」
草原に寝転んだまま、男は思考する。彼は意外と冷静であった。
「オイラ自身、自分が誰か分からない。ここが何処かも分からない。どうして倒れてたかも分からない。分からないことだらけだなあ」
顎に手を添え、うんうん唸って考える。だが考えても何も分からないどころか余計に頭が痛くなってくる。
「……ああ。記憶喪失の原因がこの後頭部の痛みであろうってことだけは、分かったな」
それでは結局、何も分からないのと同じことだが。
「誰かに殴られたのか、自分でぶつけたのか……うーん……」
ガサッ
「……お?なんだ?」
暫く倒れたまま考え込んでいると近くの草が分かりやすく揺れた。自分以外にも人がいるのだろうか。
「ちょうどいいや。おーい」
この辺の人だったら助けてもらおうと思い、男はその体勢のまま揺れた草に向かって声を掛ける。下手に動くと危ないかもしれないからだ。頭だから。
「ガルルルルル……」
しかし、草むらから出てきたのはどう見ても危なそうな狼だった。しかも腹ペコそうな。
「……マジかよ」