2-6
「カイ!大丈夫か!?」
「あ、ああ……大丈夫だ。何かされた訳じゃない」
むしろ、少女の魔法に巻き込まれそうなのが怖かったと言いたかったが言わなかった。次に燃やされるのは自分かもしれないと思ったからだ。
「そこどいて!邪魔!」
マンドラゴルァから逃げ回って疲れ果てた二人を無情にも突き飛ばし、少女は倒れたマンドラゴルァに近づく。
「ふふ……やったあ……!」
少女は恍惚そうな表情を浮かべるとマンドラゴルァの傍らにしゃがみこみ、傘に仕込んであったナイフでマンドラゴルァの身体を削り始める。
「お、おい……何してんだよ」
「マンドラゴルァは高く売れるの。気絶してるうちに採取しとかないと」
「高く売れる!?こんなん何に使うんだよ!?」
ケンの言葉を聞いた少女は分かりやすく溜息をつき、やれやれと首を横に振った。
「そんなことも知らないの?これだからニンゲンは……」
「な、何だよ!馬鹿にしやがって!」
「マンドラゴルァの身体はね、薬になるの。鎮痛剤にもなるし……まあ、あんまり大きな声では言えないアブナイ薬とか、オトナの薬とかにもなる。だから需要があって、高く売れるんだよ」
「オトナの薬……?」
「カイ、分からないならアンタはそのままでいてくれい」
「お、おう……?」
「こんなに育ったおっきい個体は初めて……!声も最高にデカかったし、ふふふ……!これは高く売れるぞ……!」
首を傾げるカイを尻目に少女はせっせとマンドラゴルァをバッグに詰め込む。
「あっ、そういやアンタ!金返せよ!」
突然戦闘に巻き込まれて忘れかけていたが、ケンの当初の目的は財布を返してもらうことだ。
「チッ、ちゃんと覚えてやがったか……。いいよ、大した金額じゃなかったし臨時収入も手に入ったから」
少女はポケットに詰め込んでいたケンの財布から奪った金を手渡した。
「つーか、そんなに強い魔法があるなら何で冒険者登録して稼ごうとしないんだ?」
ケンは少女に訊ねる。確かに少女の強さならば魔物を倒してEXPを稼ぎながら素材を集めた方がもっと簡単に金をかせげるだろう。しかし、少女にはそれが出来ない理由があった。
「……エルフは、差別されてるから」
少し間を置いて、少女は答える。
「だから、冒険者登録出来ないの。ほんとニンゲンって馬鹿だよね。君らが使ってる薬草とかも、元はと言えばエルフから与えられた知識だっていうのにさ」
そして、少女は自分の過去を語り始めた。