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私はアゲハ。胡蝶と書いてアゲハと読ませる。
私はこのキラキラネームとも言える自分の名前が大嫌いだったが……幼なじみのおかげで好きになった。
「アゲハってさ、綺麗な名前で羨ましいよな。俺なんて犬の名前からだぜ?」
私の幼なじみは、いつも私の名前を褒めてくれた。……多分、私はこいつのことが好きだったんだと思う。
幼なじみはファンタジークロニクルというゲームにハマっていた。
「アゲハはやらないのか?」
「私はゲームが苦手だからな。お前がやっているのを見る方が好きだ」
正確に言うと、お前がゲームをやっている楽しそうな横顔を見るのが好きだった。ゲームに興味はなかったが、今からやるぞと呼ばれた日には必ず向かった。
「もうすぐさ、弐が発売されるんだってよ」
「続編か。楽しみだな」
「今度こそお前も買えよな」
そんな話もした。だからこそこんな日がいつまでも続くと私は信じていたのだ。
……だから幼なじみが不登校になったと聞いた日は信じられなくて、すぐに家へと向かった。
「おい、どうしたんだ!何があった!?」
しかし、何度声をかけても幼なじみは答えてはくれなかった。
「今日、ファンタジークロニクル弐の発売日だろ。買ってきたんだ」
大好きだったファンタジークロニクルの話なら乗ってくれるかもしれない。私はそれを期待してファンタジークロニクル弐を持って家に向かったこともあった。
「一緒にやろう。自分でプレイするのは初めてだから、色々教えて欲しいんだ」
それでも、幼なじみからの返事は一切無かった。
私は諦めずに毎日毎日、幼なじみの家へと向かった。
「なあ、そろそろ顔を見せてくれないか」
しかし一年家に通っても、幼なじみが私の声に答えてくれる日は一度も無かった。
……だからもういいやと、思ってしまった。
毎日通っていた幼なじみの家だったが、ある日私は風邪をひいてしまい、その日は行けなかった。
その日に心がポッキリと折れてしまったのだ。風邪が治ってからも私は幼なじみの家に行かなかった。……行きたくなかった。どうせ無駄だから。
そしてその日から、とうとう一度も行かなくなってしまった。
「……ファンタジークロニクル弐、一緒にやりたかったな」
私は幼なじみがいつ遊びに来てもいいように説明書を読み込み、本体にゲームディスクをセットして待っていたのだがそれももうおしまいだ。
結局ゲームは一度もプレイすることがないまま、私は幼なじみのことを諦めた……。
ファンタジークロニクル弐、開幕。