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#7 タニグチとリルの実家。

前回のあらすじ。


山に入って昼ごはん食べました。


 昼ごはんを食べ終わり、一息着いたところで再び歩き出す1人と2匹。


「所でさー」

『なんじゃ』

「結局どこ向かってんの?」

 食後の散歩とばかりに、ゆったりと魔物領を行く1人と2匹。


『どこかのう…?どこに行きたいってのがないから適当に歩いとるが…』

〔てっぺんー?〕

『頂上か。それならワシの住み処に来るかの?』

「リルの家?」

『そうじゃ。この山の頂上がワシの住み処じゃ。』

「頂上って…あそこかぁ…」

 まだまだ遥か遠くに見えるあそこ…あんな遠いところからここ一週間ほぼ毎日遊びに来てたんか。リルさんや…1人と1匹大好きかよ。俺はお前の事好きだ。


「行きたいけどさすがに体力持たないよ。乗せて~」

『ええぞ。』

 そうして縮小魔法を解除するリル。


「あとラルさんちょっとこっち来て~」

〔はーい〕


ーーー


〔なにこれ〕

「あなたも乗るためにはこれしか方法がないんですよラルさん。」

 そこには赤ちゃんをおんぶするときに使う「おんぶ紐」を使っておんぶされてるラルさんとラルさんが腰を悪くしないように四つん這いになってる渓口。


『その…何をしてんのじゃ?』

「いやさ、この距離移動するのにラルも疲れちゃうと思ってさ、それをなんとか解決しようと思って。」

『ワシに対しての労りは?』

「いやだってほぼ毎日あそこから通ってるんでしょ?疲れるの?」

『そりゃまあ疲れないけどのう…労ってくれても良いではないか…』

「ハイハイ頑張れ~」

〔がんばえー〕

『………』



 作戦はこうだ。

 まずラルをおんぶ紐で渓口に固定。そのまま渓口がリルに乗る…とラルの腰に良くないと思うから、自分がうつ伏せの状態でリルにしがみつく。念のためにリルと渓口も紐で落ちないように固定する。

 紐を結ぶのは…リルが魔法で何とかしてくれるでしょ。これでラル蔵君のスピードに合わせずに最速で向かえるだろう。多分。



「ラルさんや、これで大丈夫?」

〔たぶんだいじょうぶー〕

『本当にこれで行くのじゃな…?』

「最初はゆっくり慣らす感じで走ってくれるとありがたいです。あと出来れば振動少なめで。」

『注文が多いのう…所でおんぶ紐とやらを用意してたってことは最初からする計画じゃったのか?』

「んまあ必要ならやりましょうくらいには思ってた。」

『へぇ…』

「それじゃよろしく!」

〔よろしく!〕

『それじゃ行くぞ。』


ーーー


〔はやーーーい!〕

「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」

『やっぱり走るのは楽しいのう!』

 変則ブレーメンの音楽隊みたいな一行は爆速で頂上へと向かう。頂点の犬と走る狼は気持ち良さそうにしてる。間に挟まれた豚はなんか苦しそうだけど…


ーーー


『着いたぞ』

〔楽しかった!ハッハッハッハッ…〕

「…………」

 頂上にある洞窟の前にたどり着いた1人と2匹。1人はなんだか死にそうだけど。


「この洞窟がリルの家なの?」

『そうじゃ、まあ寝るためだけの場所じゃから特になにもないけどのう。』

〔!!だれかくるよー〕

 土煙とドタドタと言う音が麓の方からどんどん近づいてくる。


『…ッッ!ヤバイ!』

 いつものおじいちゃん口調が崩れ、若者っぽい「ヤバイ」の言葉が漏れる。

 遠くに見えてた土煙がものの数秒で目の前まで近づく。


〖どぉぉこいってたんじゃこの戯けぇぇぇぇぇ!!!!〗

 目の前に現れた白い毛の狼が、勢いそのままに華麗に後ろ脚でドロップキック。こんな動き出来るもんなのか?狼って。いやフェンリルだからもうなんでもありなのかな…

 なんて目の前で狼が狼にしばかれる絵面を、他人事だと言わんばかりに目を剃らし現実逃避する。


『やめて!お願いだから!友達いるの!』

 おお、完全にいつもの口調じゃなくなってる。それに威厳もなにもない。


〖!!!〗

 お、こっちに気づいた。


〖おっとこれはお見苦しいところを見せましたわ。リルの母です。〗

 いや今さら取り繕っても…


「ど、どうも…渓口です。で、こっちが…」

〔ラル!〕

〖タニグチとラルね。よろしく……ん?この子…〗

 ラルを見て少し考え込むママさん。


〖この子、魔物?それにしては見たこと無い種類…不思議ね〗

「一応普通の犬…なはずです。」

〖普通の犬はしゃべらないでしょ。〗

「それはごもっとも。」

 なにか知ってる?わけでもないのか。本能みたいなのでなんか違和感を感じたんだろうか。


〖ここには何もないけどゆっくりしてってね~私はちょっとリルに用事があるから失礼しますわ~〗

「帰りの足になる予定なんで、ほどほどにお願いします~」

〖わかったわ~〗

 嵐みたいなフェンリルだった。いや、フェンリルって風とか操るとか聞くし、ある意味名は体を表してるのか。

 そんなことを考えてラルと少し遊んで待つことに。


ーーー


〖ただいま戻りましたわ~〗

『…ズビッ…ずびばべんでじた……」

 うわー…こりゃこってりと…


〔あはは、あにぼこぼこー〕

 リルを脚で指して笑うラル蔵君。普段からこんな感じで言いたい放題だったのかな…


〖あら、あんたいつの間に弟が出来たの?〗

『成り行きでそうなりました。すみません。』

 おー、一切の言い訳無し。芯までこってり絞られてる。


「所でなんでこんなに怒られてたんです?伺っても?」

〖この子ったら許可がないと持ち出すのを禁止してる魔石を勝手に持ち出したのよ。〗

 あーあるよね。

 自分も昔ゲーム機を外に持ち出すなって言われてたのに持ち出して無くしかけて親に怒られたな。


〖で、それを使って結界の外に出たとか。〗

 ん?


「あれ、上級魔物は結界破れるんじゃ無いんですか…?」

〖破れるわよ。でもこの子まだ子供だしそこまで強い力持ってないのよ。〗

 リルから聞いてる話と少し違う。


「リルさん」

『…はい』

「ちょっとこっちに。」

 ラルをママさんに任せて、離れたところへリルを呼び出す。


「あなた魔法に関してはまだまだなの?」

『うむ…』

「それで魔石使って結界破ってたの?」

『うむ』

「それって私が悪いんじゃない?」

『そんなことない!ワシが勝手にやったことじゃ!』

 と言ってもなぁ…これ間接的に自分も悪いじゃん…しゃーない頭下げるかぁ。


「俺がママさんに話すから、お前はそれに合わせて謝ってくれ」

『え…?』

「お前が悪くてもその理由作ったのは俺だろ。だから一緒に謝るの。」

『え、イケメン…』

「本物のイケメンに失礼だぞー冗談はそのくらいにしてさっさと謝るぞ。」


ーーー


〖密談は終わったかしら?〗

「その…すいません!魔石使わせたの自分なんです。」

 ガバ!っと頭を下げ、渾身の謝罪を披露する。伊達に数年間社会人してた訳じゃない。


〖あら、そうなの?〗

「自分がこの山に来てみたいって言ったから…だからリルは悪くない…とは言いきれないけど自分の方が過失大きいです。申し訳ございません。」

『ごめんなさい』

 リルも続けて頭を下げる。ラルもよくわかってなさそうだけどリルの真似をする。兄の真似をする弟。尊い。


〖…お客に頭下げられちゃしょうがないわね。もうこの話しはおしまいにしましょ。リル、ラルちゃんとちょっと遊んできな。〗

『ごめんなさい』

「わかったからさっさと行き」


ーーー


〖タニグチ、あなたに1つお願いがあるの。〗

「なんでしょう?」

 声色からして真面目な話をするのだろう。自然と背筋が延びる。


〖リルとこれからも仲良くしてくれない?〗

「…それは大歓迎ですが…ずっととはいかないですねー」

〖なぜかしら。〗

「自分は病気でもう先が長くないんですよね。あと1年…長くても2年くらい。」

〖そうなの…でもその間だけでも良い、仲良くしてあげれないかしら。〗

「…はい」

〖実はさっきのコソコソ話聞こえてたのよね。フェンリルだもの、耳は良いの。〗

「それは犬系全般に言えることなんじゃ?」

〖それもそうね。〗

 少し和やかな雰囲気になった。


〖リルが勝手にやったことなのに、あなたが責任を被ってたわね。〗

「まー勝手にやったと言っても、自分が関係ないかって言われたらそんなこと無いですしね(笑)」

 リルママの顔を見上げるように笑顔を作る。


〖そう。でもそう言うのやりすぎは注意よ。ナメられるわよ。〗

「ハハハ、今回は自分にも非があったから謝っただけですよ。」

〖そう。〗

 そう言って微笑む。


〖あとラルちゃん、あの子ちょっと特別ね。〗

「特別…と言いますと。」

〖あの子魔力量がものすごい多いわ。〗

「てことはやっぱりラルは魔物なんですか?」

〖おそらくね。それに多分…〗

「…なんです?」

〖いや、想像に過ぎないから下手な発言はやめとくわ。とにかくラルちゃんは特別な子ね。そこら辺ちゃんと見てあげてね。〗

「…わかりました。」

 そこまで言ったなら言って欲しいのが本音…まあいっか。


〖あとあの子…リルが困ってたら助けになってほしいの。〗

「なにができるかわかりませんが助けますよ。」

〖そう。ならよかった!〗

 少し含みのあるリルママの言葉に違和感があったもののスルーした。


ーーー


「よしこれで準備できた。」

〔またはやいの?やったー!〕

〖なんと言うか…すごい格好で来たのね…〗

 1人と2匹は来たときの格好に合体した。


「準備できたし行きますかー」

〔はーい〕

『それじゃしゅっぱーつ!』

「ありがとうございました!」

〖ありがとうって…私なにかしてあげたかしら?〗



夕暮れに染まる赤い空の下、颯爽と白い矢が走ってく。




こうして大冒険の1日が終わってく。




1年経過まで

    あと348日。


2年経過まで

    あと713日。


ーーー


〖さてと。もう行ったし出てきて良いんじゃないかしら。〗

〈あちゃーバレてましたか。〉

 なにもない空間から黒い靄が現れる。


〖フェンリルは鼻も耳もいいからね。〗

〈それは犬系全般に言えることなんじゃないっすか?〉

〖このやり取り…あの頃にはもう居たのかしら〗

〈ええ、その少し前からっす。それにしてもラル蔵君の存在に気付く者がこんな早々に現れるとは思ってませんでしたっすね。〉

〖てことは予想が当たってるってことかしら。ところで名前を伺ってもよろしくて?〗

〈そうっすね。"頭を覗いて"見た感じ大体あってるっすね。残念ながら名前を名乗ることはできませんね。強いて言えば天の声っす。〉

 頭を覗く…こっちの考えは筒抜けのようだ。


〖……それじゃ…あなたはあの子をどうするつもりなの?〗

 ママさんが慎重に質問する。


〈私はこの物語の行く末が気になるだけなので。遠くから見届けるだけっすよ。〉

 ケラケラ笑い声を響かせながら黒い靄が再び見えなくなっていく。


〖あれに攻撃しても意味なさそうね。"アレ"の言うことを信じるなら害は無さそうだけど…一体"アレ"は何…〗

靄の消えた方向を見つめて呟く。



〖あ、あの子魔石持っていってない……はぁ。仕方ない追いかけますか。〗




こうして大冒険の1日が終わる裏で、なにかが蠢く。

 今回で探索編は終わり…かな?とりあえず一区切り。

 リルのじいちゃん口調のメッキが剥がれたままにするか再度貼り付けるか迷ってます。個人的には「より一層仲良くなった証」みたいな感じで剥がれたままで良いのかな~と思う半面、フェンリルとしての威厳が消え去ってるな…とも思うし少し悩みどころ。転生/転移ものの狼系は大抵威厳が消え去ってる?……それはそう。


 本当は最後の流れでリルママを退場させようかと思ったんですけど…非情になりきれず出来なかった…感情移入しすぎだろと思うかもだけど自分で作ったキャラを自分の手で退場させるのって…こう……胸がキュッてなった。

 リルママ…これからどうなるんでしょうね?

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