#10 思い出の味では無いけれど
前回のあらすじ
ネコンチヤが訪ねてきた。
20**年1月1日(水)
裏山をリルの背中に乗って駆け抜ける。今回ラルさんはお留守番である。あまり長居するつもりはないしね。
「なあリル、サクの家がある街はどこら辺にあるんだ?」
『こっちから行くとワシの住み処の少し先じゃの。』
「ほーんそうなのか。そう言えばリルはなんで初めてあった時あの家に居たんだ?」
『なんとなくじゃ。』
なんとなくで結界破って人の家の敷地(仮)に堂々居座ってたんか。
「ふーんじゃあ偶然なんだな。」
『そうじゃのう。』
「…なあ、俺が死んだらさ、ラルの事頼むよ。まだ死ぬつもりはないけど。」
『なんじゃ藪から棒に…まあ安心せい。ラルはワシの弟じゃからな。任せとけ。』
「いやね、昨日の夜、人間の中では年越しつって大イベントだったわけよ。でも年越しの瞬間に気づかなくて気づいたら新しい年になっちゃってたんだよ。あ、明けましておめでとうリル。」
『うん?アケシテオメデト…?』
「でね、余命1年、長くても2年って言われてるってのは前に話しただろ?そうするともしかしたら最後の年越しだったのかなって少し感慨深くなっちゃって。」
『ふむ。』
「急に死んだあとのことが怖くなっちゃってさ。1匹残されたラルどうしようとかね。挙げ句の果てに、覚悟できてたと思ったのに死にたくないとかすごく弱気になってさ。」
『タニグチ…お主、今もなんか弱気になっとるのう…』
「そりゃあなるよねー………こんな暗い話振っといてなんだけどラルの事以外全部忘れて~(笑)なんか恥ずかしくなってきた。」
そう言ってリルの背中に突っ伏す渓口。
『…はぁ。もうすぐ着くぞ。その前にワシの住み処寄ってそのグシャグシャの顔落ち着かせるのじゃ。背中グショグショにしたのも今回は許してやるのだ。』
「ありがとー…優しいな~リルは。」
ーーー
リルの住み処で息を整えてから歩くこと数分、サクの住む街に着いた。
『サクの家はこっちじゃ。』
リルに案内されてサクの家にやってきた。
〖おはよう、タニグチさん。〗
「おはようサク。"さん"は付けないでくれないか?呼び捨てで良いよー」
〖タニグチ……さん。やっぱり付けさせてください。〗
「…まあ呼びたいように呼んでよ。」
目を細めて(太ってるから割とそのままかもしれない)半笑いを浮かべる。
〖それじゃタニグチさん。紹介するね。私のお母さん。〗
[どうも…今日はよろしくね。]
「あ、そのままで大丈夫ですよ。タニグチです。」
玄関から起き上がって挨拶しようとするママさんが見えたので止める。
「それじゃ早速作るんですけど、その前にママさんに断っときたいんですけど。」
[なんでしょうか?]
「自分は料理人って訳じゃないです。リルって言うフェンリルの紹介でたまたまやってきたに過ぎない一般人です。自分の作る物がママさんの思い出の味に似てるかはわかりません。そこのところ大丈夫ですか?」
[ええ、問題ありません。]
「わかりました。それではちょっと作ってきますね。多分お昼ごはんの頃には間に合うと思いますので。」
[ありがとうございます。サク、貴方もなにか出来ることを彼に聞いて手伝ってきなさい。]
〖うん。そのつもり。〗
ーーー
「それで、キッチンを借りれるご近所さんの家はどちら?」
〖もう見えてきました。手振ってるあの魔物です〗
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!とドンドン近づいてくるあの魔物は…
「あれって、ドラゴン?」
〖ドラゴンじゃなくて竜です。火炎竜のセグトさんです。〗
頭からは短かな角が2本。
背中からは大きな翼。
臀部からは太い尻尾。
指先に鋭い爪。
赤い鱗?で覆われた巨体。
シルエットで言えば某ポケットなモンスターの初代御三家最終進化のような、ガニ股Lv.100って感じの左右に開かれた足。
それが服を着てやってきた。
身長は2mってとこだろうか。
こりゃ驚いた。いや、魔物のいる世界、別に居たっておかしくは無いのだが、こんな平然と居るものなのか。
《よ!火炎竜のセグトだ。よろしくな。》
竜が服着てるのはなんか新鮮だ。真っ裸なイメージ。そんな火炎竜さんが笑顔で手を差し伸べる。握手だろうか?大丈夫?握り潰されない?恐る恐る手を差し出すと…
《よろしくなー!!!!俺にもぐらたん作ってくれよ~手伝うからさ!!》
大胆な身振りの割に、意外にも力加減がされてる。手が無くなる事態は避けれたようだ。
「お、おうよろしく。最優先はサクのお母さん、それとサクだ。材料はそこまで多く持ってきてないんだ。余ったらで良い?最悪また作りに来るよ。」
《それもそうだな。まずはサクのお母さんに作ってやらないとな!》
「それじゃ早速台所借りるよ~」
《おあ!全く使わんからじゃんじゃん使ってくれ!》
そうしてセグトの家へ入っていった。
ーーー
「さて作りますか。」
と言っても下準備はしてきた。あとはホワイトソースを作ってチーズをかけて焼くだけだ。
まずはルーを作る。たっぷりのバターを火にかける。
「あれ、これどうやって火着けるの?」
《おっと、ちょっと離れてくれよ。》
そう言ってコンロに向かって小さく火を吹くセグト。火炎竜と言うだけある。火の扱いに長けている。
《うし、着いた。あとはそこのつまみで火加減調節してくれ。》
なるほど、着火だけ特殊な感じか。まあ日本にもガス栓開けて着火マンで火着けるタイプの串焼き機とかあるしな。そんな感じか。
「それじゃあとは2匹とも座ってて。サクには一番最後に手伝ってもらうからそれまでお母さんのところに帰ってゆっくりしてなよ。」
そう言って台所に向き直る。
〖ではお言葉に甘えて一旦帰宅しますね。なにかあったら呼んでください。〗
「うん、わかった。」
フライパンをに油を敷いて、その上からたっぷりのバターを溶かす。バターが溶けたら火を弱火にして小麦粉をフルイにかけながら入れていく。
入れ終わったらバターと小麦粉を練るようにして混ぜていく。
フライパンから粉っぽさがなくなり、まとまってきたら牛乳を少しずつ投入していく。水気が無くなったら再び牛乳少量、水気が無くなったら再び牛乳少量…と何回か繰り返せば、自然と固形だったルーもなめらかになり、ホワイトソースの出来上がりだ。
今回は塩だけで優しく味付けしてある。普通の人からしたら物足りないだろうが、そこは病人用ってことで。
玉ねぎをバターで炒めて、そこに小麦粉を振るう、そのあと牛乳を少しずつ投入していく作り方もある…と親から教わったし、そっちのが楽だと言われたが…そっちでやると何回やっても必ず失敗する。ので時間はかかるけど俺は前者の方法でホワイトソースを作ってる。
ホワイトソースが出来たら、昨日下準備した玉ねぎ、じゃがいも、しめじ、焼いてほぐした鮭を炒めていく。じゃがいもは下茹で済み、鮭も火入れ済みなので、しめじと玉ねぎに軽く火が通ったら、ホワイトソースにいれて煮たたせていく。
この時焦げ付きを防ぐためにずっと…とは言わないが定期的に鍋底をこそぐ動作をする。ゴムべらがおすすめ。
「セグトさん、ちょっとサク呼んできてくれない?」
《さんは付けないで良いぞ。わかった呼んでくる。》
ちなみにさっきから空気なリルさんは、住み処に一時帰宅している。
ーーー
〖手伝いですか?〗
「ああ、ちょっと味見してくれない?」
そう言って小皿に一掬いする。
よくフーフーするサク。やっぱりあまり熱いのはよくないんだろう。
「どう?」
〖!!おいしいです!優しい味でお母さんも喜びそう!〗
「ならよかった。」
ニッと笑う渓口。
「それじゃあとは器に盛ってチーズに焼き目をいれるだけなんだが…セグト、手伝ってくれ。」
《はいよー、んで何をすれば良い?》
「炎操るの得意か?」
《まあ竜並みには得意だけど。》
「そしたらグラタンにチーズを載せるから20cmくらい離れたところでさっきのコンロに火を着けたときくらいの炎をを持続して出してくれない?」
《注文多いな。まあ任せとけ!そんなの朝飯前だって!》
時間はそろそろお昼なんだけどね。
《ほい!》
おお、てっきり口からしか出せないのかと思ったら手から…厳密には手の回りの鱗の間から火を出してるのか。不思議生態だ。
「口以外からも火出せるのね。」
《そりゃな!火炎竜だしな!それに何分も連続で口からは出せんしな。》
「それもそうか。肺活量的に厳しいか。」
納得する渓口。
遠赤外線?で炙ること3分くらい。良い感じに焦げ目が着いた。
「こんなもんかな。それじゃこれをあと2個お願いして良い?」
《任せろ!》
ーーー
早速出来上がったグラタンを持ってサクの家に。3つ作った内、ひとつはセグトのだ。健全だろうセグトには少し薄味に感じるだろうから、念のため持ってきたタバスコを一緒に渡した。
〖ただいまー〗
「出来ましたよーママさん。」
[おかえり。タニグチさんも作ってくれてありがとう。]
「いいえ~やりたくてやったことですしね~暖かい内に食べてくださいな。」
〖それじゃ[いただきます]〗モグモグ…
[…おいしいわ。懐かしい味とは違うわね…でもとても美味しい。嬉しいわ。中の具材も私たちに合わせて小さくしてくれてるのかしら。とても食べやすいわ。]
〖美味しいね。お母さん!〗
[ええ。]
食べながら笑顔になる2匹をみて頬が緩む渓口。
「そりゃ作ってよかった!それじゃあとは2匹でゆっくり食べててくれ。家に待たせてる家族がいるから帰るよ。サク、たまに家おいでよ。リルに乗ればすぐだしね。ママさんも元気になっておいでよ。だからそのためにも元気になろう!きっと元気になるから!それじゃあね!」
そう言って返事も待たずに玄関を閉めた。
「う゛ぅ゛ぅ゛つ゛く゛っ゛て゛よ゛か゛っ゛た゛な゛ぁ゛ぁ゛」
長くないとは言ってたけど…元気になってほしいなぁ。
そう言う渓口の顔は涙でグシャグシャだった。
〖ありがと!絶対母と行くから!!〗
多分外に飛び出てきたであろうサクの声が聞こえた。
答えるように手を振った。流石に恥ずかしくて振り向けなかったけど。
こうして嬉しい気持ちで昼下がりは過ぎていく。
1年経過まで
あと333日。
2年経過まで
あと698日。
どもども。記念すべき?10本目です。
これまたファンタジーもの定番の竜さんが登場。服を着させてみました。あまり見ない気がするので。
ドラゴンの肌?ってどんな触感なんでしょうね。やっぱり鱗だし固くてスベスベしてるんでしょうか。それとも鱗の下の肌の触感が透けて少しモチモチしてたりするのでしょうか。少なくともモフモフはしてないよね。絶対。仮に鱗じゃなくて毛だとしてもなんかチクチク刺さりそうな毛質してそう(偏見)
空想の生き物のあれやこれやを想像するのが楽しくて困っちゃう今日この頃です。