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04.美味しいご褒美いただきました!

「せっかくのお休みだったのに、申し訳ありません」

「いや、暇だからいいんだ。本当に気にしないでくれ」

「ありがとうございます」


 グレン様はさすが、王宮騎士。

 彼の胸の中に抱えられるように乗馬しているけれど、こうして近くで見ると腕も胸板もたくましくて、絶対に落ちることはないだろうなと、安心できる。

 グレン様の体温がすぐそばに感じられて、心臓が少しだけドキドキと高鳴った。


「それに、ジョセフ殿にはいつもよくしてもらっているからね」

「グレン様は、師匠とは長い付き合いなんですか?」

「ああ、俺が騎士を目指して登城したばかりの頃からだから……もう八年になるな」

「まぁ、そんなに前から」

「あの人の魔導具は本当にすごいよ。質が他と全然違う」

「わかります。魔法学園に講師として教えにきてくれていたときも、師匠の魔法はどの先生よりもレベルが高く、それでいて教え方も上手でわかりやすかったです」


 師匠は面倒見がいいだけではなく、私にとってはどの先生よりも尊敬できる人だった。

 時々しかない師匠の授業が、私は楽しみで仕方なかった。


「……ローナさんも、魔法が好きなの?」

「はい。あ、ローナでいいですよ」

「そう? ありがとう。ローナは、ジョセフ殿と随分親しいんだね」

「師匠には昔からお世話になっているので」

「学生時代からの付き合いなのかい? 随分可愛がられているようだね」

「はい。うちにはちょっと事情があって、以前から困ったときは師匠に助けてもらっていて」

「事情?」

「ふふ、また今度お話ししますね。それにしても師匠はあんなに素晴らしい方なのに、本当に優しくて面倒見がよくて、素敵ですよね」

「……そうだね」


 グレン様も師匠を慕っているように見えたけど、私の言葉を聞いて複雑そうな表情を浮かべた。


 ……どうしたのかしら?


 実家でのことは別に内緒にしているわけではないけれど、話すとグレン様のことまで暗い気持ちにさせてしまう。

 だからそれはまた今度にしようと思い、師匠のことへと話題を逸らした。

 師匠はウィッター伯爵という高位貴族でありながら、下位貴族の私にも最初から他の人たちと変わらない態度で接してくれた。


 魔法に興味があって、授業の後に残って夢中で魔法書を読んでいた私を見つけて、声をかけてくれたこともあった。

 わからないことを質問すると、嫌な顔一つせずになんでも教えてくれた。

 直接魔法を見せてくれたこともあった。

 本当に、師匠がいてくれてよかったわ。




「――着いた、ここでいいんだよね?」

「はい、ここです」


 師匠や魔法のことについてお話ししていたら、案外あっという間に魔石店に到着した。

 グレン様のおかげね。


「どうぞ」

「……ありがとうございます」


 乗るときもだけど、馬から降りるときも、グレン様は紳士的な動作で私の手を取り、身体を支えてくださった。


 詳しいことは聞いていないけど、やっぱりグレン様はどこかの高位貴族のご子息なのではないかしら?


 その洗練された所作を見て、そう感じた。



「いらっしゃいませ」

「すみません、上級魔石をいただきたいのですが」

「お待ちしておりました、レイシー様ですね?」

「はい、ローナ・レイシーです」

「こちら、ウィッター様から承っております」

「わぁ、ありがとうございます」


 この魔石店は師匠の御用達店。

 私たちが来ることは、通信用の魔導具で伝えてくれていたのね。


 店主の方が既に用意してくれていた上級魔石を確認し、お金を支払って受け取る。


 おかげで、思ったより早く師匠に魔石を届けられそう。よかった。



「すまない、これをいただけるか?」

「はい、ありがとうございます」


 そんな私から少し離れたところで、グレン様も何かを購入していた。


 この魔石店には魔法付与をするための原石となる魔石から、既に魔法が付与された魔石まで、色々取りそろっている。


 中にはとても美しい魔石を使ったアクセサリーなんかもあって、恋人同士や想い人へのプレゼントとしても人気。


 ……もしかしたら、グレン様にもそういう相手がいるのかもしれない。

 それはそうよね、あんなに素敵な方なんだから。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、おつかいを終えた私たちは再び『ホーエンマギー』へと急いだ。




     *




「――ん~っ! すっごく美味しいです!」


 私は目を閉じて、至福の表情で溜め息をついた。

 こんなに美味しいものを食べるのは久しぶりだわ。


「よかった。今回はローナのおかげで本当に助かった。ありがとう」

「いいえ、当然のことをしただけです。それに、グレン様のおかげで早く行くことができましたので」

「そうだな、グレンも本当にありがとう」

「俺もいつも世話になっている礼です」


 グレン様は控えめに笑いながら答えた。私たちの間にあたたかい空気が流れる。


 グレン様の馬に乗せてもらったおかげで早く魔石を買ってこられたから、なんとか師匠は約束の時間までに魔法付与を終えることができた。


 その日の夜、お礼として、師匠は私とグレン様を最近評判のレストランに連れていってくれた。

 美味しいものを食べられると聞いて、私は期待で胸が膨らんだ。


 師匠は「好きなものを頼め!」と豪快に言って、私は今まで食べたこともないような豪華な料理を注文してもらった。

 テーブルに並べられた料理は、まるで絵画のように美しかった。


 ローストされた牛肉は、見るだけで食欲をそそる。

 口に入れると、深いコクとともに香ばしいローストの風味が広がって、とろけるようなやわらかさ。ソースは甘さと酸味が絶妙なバランスを奏でていた。

 噛むたびに肉のジューシーさとソースの濃厚な味わいが混ざり合い、一層深い満足感をもたらしてくれる。


 ポテトは、外はカリカリ、中はほくほくで、塩加減とバターの相性が抜群。

 ソーセージの盛り合わせは種類豊富で、一口ごとに異なる風味が楽しめるし、皮まで食べられる種なしぶどうはすごく珍しい品種で、高級品。甘くてすごく美味しい。


 ああ……こんなに美味しい料理が食べられるなんて、生きててよかったわ……。


 心の中でそう呟いて、しっかりとこの料理を堪能する。


 食事が与えられなかったわけではないけれど、子爵家ではいつも家族とは別々に食事をとっていた。

 だからこうして楽しく会話をしながら食事をする時間が、本当に幸せに感じられた。


 美味しい料理とともに供されるワインは、口当たりが滑らかでフルーティーな香りが広がる。

 私はその一杯をゆっくりと楽しんだ。


 魔石店は確かにちょっと遠いのだけど、グレン様のおかげであっという間だったし、美味しいご褒美もいただけたし。


 やっぱり行ってよかったわ!


 ふふふ……。腹黒いと言われても、たとえ偽善だとしても、人助けはするものね。


 そんなことを考えながら、滅多に食べることができないごちそうを堪能する。


「ん~、本当に美味しいわぁ……」

「随分美味しそうに食べるね」


 グレン様が笑顔で私を見つめている。その視線に私は少し照れくさくなったけど、正直に「とっても美味しいので!」と答えた。


「……そうか」


 するとグレン様は、優しい目で私を見つめ続けた。

 その視線に、私の心が少しだけ跳ねる。


 あまりの美味しさに、頰を押さえて満面の笑みを浮かべてしまった。貴族令嬢としてはしたなかったかしら? と少し反省し、姿勢を正す。


「そうだ、ローナ。今回の礼に、これをやろう」

「なんですか?」


 ワインを一口飲んでからご機嫌にそう言った師匠を、私は興味津々で見つめる。


「願いが叶う魔法の石だよ」

「願いが叶う石?」


 師匠がポケットから取り出したのは、小さい魔石だった。まるで星の光を閉じ込めたかのように、キラキラと輝いている。


 願いが叶う魔法の石……きっと、何か特別な魔法が込められているに違いない。


「願いが叶うのは一回だけだ。嫌いな相手を懲らしめたり、好きな相手と想い合えたり、いい夢が見られたりするぞ」

「へぇ……そんなすごいものをいただいて、本当にいいんですか?」


 もしそれが本当なら、この石はとても貴重で高価なものだ。

 さすがに、師匠でもそんな魔法を付与できるとは思えないから、どこまで本当かはわからないけれど、なんだかとても面白そうなのでぜひちょうだいしたい。


 ……でも一応一回くらいは、謙虚なふりをしておこう。


「いいよ。ローナが来てからとても助かっているし、私は毎日本当に楽しいからね」

「ふふふ、私も楽しいです」


 優しく微笑む師匠に、私も感謝の気持ちを込めて微笑み返す。


「俺も店に行くのが楽しみで仕方ないよ。一緒に食事もできたし」

「え?」

「そうかそうか! それはいいことだ!」


 ぽつりと呟かれたグレン様の言葉が少し気になったけど、ご機嫌にワインを追加する師匠の声でかき消えてしまった。



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