39.では、二人とも ※グレン視点
しかしそんな野蛮な真似、できるはずがない。
「ローナ……」
抱きしめて、好きだと伝えたい。
失恋して傷ついている彼女にそんなことをするのは、反則だろうか?
「好きだ……好きだよ、ローナ」
「……」
それでも溢れてくるこの想いを止めることができずに呟き、白くなめらかな頰を撫で、引き寄せられるようにそっと顔を寄せた。
いけないとわかっているが、止まらない。彼女に引き寄せられていく。
「……――ローナ」
「ん……」
「……!」
互いの唇があと数センチの距離まで迫っていたとき、ローナが身じろぎ目を開けた。
俺は今、何をしようと――!!
「……グレン様?」
「あ……ローナ、その……」
「……私、寝てしまっていたのですね」
「ああ……、ジョセフ殿が心配していたから、様子を見に……勝手に入ってすまない。声をかけたのだが、返事がなかったから心配で」
「……そうでしたか」
瞬時にローナから距離を取り、全力疾走した直後かと思うほどにバクバクと高鳴る鼓動を必死に落ち着かせながら、努めて冷静に言葉を紡ぐ。
「ご心配をおかけしてすみません。師匠はもう寝てしまったのでしょうか?」
「ああ、いつものように酔いつぶれてしまったから、部屋に運んだよ」
「またですか? もう……。グレン様、本当にいつもありがとうございます」
「いや、そんなことはいいんだ。それよりローナ」
「はい?」
身体を起こして、いつものように笑みを浮かべたローナに、俺は改めて向かい合う。
「君には、好きな人がいたのかい?」
「え? ……さては師匠ですね? グレン様に話すなんて……」
「その相手は、誰だ?」
「えっと……」
「俺の知っている奴だろうか」
口ごもって視線を下げてしまったローナに、俺は追求する。
どうしてもその相手が気になる。
そして、俺ではその男の代わりになれないか、問いたい。
「……よく知っている人です」
「そう、なのか……」
俺がよく知っている相手――。
その言葉に、衝撃を受ける。
ということは、騎士団の誰かだろうか。いや、ホーエンマギーでよく顔を合わせる常連客か?
……まさか、ジョセフ殿ではないだろうな!?
「……っ」
「グレン様……?」
「俺はとても悔しい」
「……悔しい?」
「君の想いに気づけなかったことも、君の気持ちを俺に向けられなかったことも」
「え――?」
「俺では、その男の代わりにはなれないだろうか?」
ぎゅっと拳を握り、ギリ、と奥歯を噛んだ俺に、ローナは心配そうな視線を向けていた。
「今すぐには無理だろう。だが、いつか必ずその男以上に君の想いを得てみせる。俺が君を幸せにしてみせる。だから、どうか――」
「お待ちください、グレン様! ……何をおっしゃっているのです? グレン様には、想っている相手がいるのでは……」
「それは君だよ、ローナ」
「……私?」
「ああ、俺は君のことが好きだ」
「そんな……」
ローナの手を取り、この想いをまっすぐに伝えた。
ずっとずっと伝えたかった想い。
こんな形で伝えることになるとは思わなかったが、今伝えずにいつ伝えるというのだ。
「突然こんなことを言って、困惑させてしまっただろうな……それでも、俺の想いを知っていてほしい」
「グレン様……」
俺の熱い眼差しを受けていた彼女の瞳に、じわっと涙が浮かぶ。
「そんな……、まさか、そんな……」
「!? すまない、泣くほど困らせてしまったか!?」
「違うんです……、私の好きな人も、あなただから」
「なに――?」
ぐすっと鼻をすすりながら紡がれたローナの言葉に、一瞬耳を疑う。
「グレン様、私も、あなたのことが好きです」
「なんだって!? しかし、君は振られたと……! 俺は君を振ったつもりはないが?」
「……聞いてしまって。グレン様が好きな人に想いを伝えると……まさか、相手が私だとは思わなかったので」
「そういうことか……」
なんと。俺の気持ちに気づいていないとは思っていたが、そこまで勘違いしていたとは……。
「では、二人とも他の相手がいると勘違いしていたということか?」
「そうみたいですね」
「はは……っ、おかしな話だ」
「ふふふ、本当ですね」
しかしそれはそれで、ローナらしくて愛おしい。
「では本当に、ローナが好きな男は俺で、間違いないんだな?」
「はい……そうです」
「それでは、改めて伝えさせてくれ」
「はい」
「好きだ、ローナ・レイシー。君のことを心から愛している。どうか俺と結婚してほしい」
「……ありがとうございます! 私も好きです、グレン様! どうぞよろしくお願いいたします!」
ずっと伝えたかったこの想いを伝えたら、ローナはとても嬉しそうに笑ってくれた。
俺はそれが心から嬉しくて、我慢できずに彼女の身体を強く強く抱きしめた。
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あと1話で完結です!
最後までお付き合いいただけますと幸いです。




