38.ローナが振られた!?一体誰に……! ※グレン視点
「――ジョセフ殿、しっかりしてください」
「ううん……」
今夜もジョセフ殿は酔いつぶれてしまった。
しかし今日はすぐに自分の部屋に行って寝ることができるので、動けなくなる前に自分でそうするだろうと思っていたのだが……突然テーブルに突っ伏して動かなくなってしまった。
「ほら、ジョセフ殿、寝るなら自分の部屋に行ってください。こんなところで寝たら風邪を引きますよ?」
「ああ……」
「……だめだな、これは」
返事なのか寝息なのかよくわからないような声を聞き、呆れつつもなんとか彼を立ち上がらせて、二階の部屋に連れていくことにした。
「着きましたよ。靴は自分で脱いでくださいね……!」
ジョセフ殿の部屋はもうわかっている。
彼をベッドに寝かせて、ふぅと溜め息を一つ。
「……グレン」
「なんだ、起きていたなら自分で歩いてくださいよ」
返事がないからそのまま部屋を出ようとしたが、背中を向けたところで名前を呼ばれた。
その声は、割としっかりしているものだった。
「ローナを慰めてやってくれないか」
「え? 何か落ち込むことでもあったんですか?」
「好きな相手に振られたらしい」
「え!? 好きな相手!? 誰ですか、それは!!」
「知らん」
な……っ、そこまで言って、無責任な……!
とんでもないことを語ったジョセフ殿に、俺は身を乗り出して聞いたが、彼は自分の腕を顔の上に乗せていて表情まではよく見えない。
「ローナの部屋は奥の角部屋だ」
「……俺が入っていいんですか?」
「構わん。おまえのことは信用している」
「……」
いくら同じ建物内にジョセフ殿がいるといっても、彼は酔いつぶれているし(たぶん)、俺だって酒が入りいつもより気持ちが高ぶっている。
しかもローナが失恋しただと?
そんなことを聞いた直後に、こんな時間に、ローナの部屋で二人きりになって、さすがに何もせずにいる自信があるとは言い切れない。
「ローナを頼んだぞ、グレン」
「……わかりました」
しかし、ジョセフ殿が冗談を言っているようにも聞こえなかった。
きっと本当にローナは落ち込んでいるのだろう。
俺を信用してくれているジョセフ殿を裏切ることはできないな。
そう思いながら、覚悟を決めて彼女の部屋へ向かった。
「――ローナ、起きてるか?」
ノックをして声をかけてみるも、返事がない。
寝ているのだろうか。
しかし、振られて落ち込んでいるというのは本当なのか、相手は誰なのか、とても気になる。
なんとしてもその相手を聞き出したい。
「ローナ、入ってもいいかな?」
返事はないが……ジョセフ殿に頼まれているのだ。
「入るよ?」
心の中で言い訳をして、ゆっくりと扉を開けた。
「ローナ?」
「……」
彼女は、ソファの上で身体に何もかけずに横になっていた。
「寝ているのかい? そのままでは風邪を引いてしまうよ」
「……」
起きてくれればいいと思い、声をかけながら歩み寄る。
「……ローナ?」
「……」
しかし、彼女は目を開けない。規則正しいローナの吐息が、静かな部屋に響く。
目の辺りが赤いな……。
「泣いたのか?」
「……」
返事をしないローナの前に屈み、指の甲でそっと彼女の目元に触れる。
まつげが濡れている。
本当に、好きな相手に振られて泣いていたのだろうか。
「くそ、誰なんだ、その男は……!!」
顔もわからない相手を想像し、腹が立つ。
ローナに想われて、世界一の幸せ者だというのに、まさか振るとは。
「俺が慰めてやりたい……ああ、ローナ。俺ではだめだろうか?」
ローナを世界で一番愛しているのはこの俺だと、自信を持って言えるのに。
君は一体誰のことが好きだったんだ。
「ローナ……教えてくれ……」
「……」
濡れたまつげからそっと指を滑らせ、白くなめらかな頰に触れる。
その下にある、愛らしい小さな唇が目に留まる。
この唇を塞いだら、彼女は目を覚ますだろうか――。