36.俺の気持ちは ※グレン視点
仕事を終えてホーエンマギーを訪れると、今日は三人で一緒に夕食をとろうと提案された。
というか、既にローナが三人分の食事を用意してくれているという。
ローナが作った料理をいただけるなんて、俺には願ってもないことだ。
喜んで誘いに応じ、三人でテーブルを囲んだ。
途中、ジョセフ殿からプレッシャーとも取れる刺々しい言葉を浴びたが、ローナの前であまりはっきり言い返すことができず、妙な空気が流れてしまった。
しかし、そんな空気もローナの天使のような笑顔を見れば、すぐに溶けていく。
三人で他愛ない会話をしながらとる食事は、本当に楽しい時間だった。
食後のチョコレートケーキと紅茶を食べ終えた頃、ローナは先にその場を離れた。
片付けをするから二人でゆっくり飲んでくださいと言ったローナは本当にいい子だと、改めて感じる。
「いつもローナが家事をしてくれているのですか?」
「ほとんどな。私もやるし、週に一度は使用人を呼んでいるが、あの子が率先してやってくれるんだ」
「店の仕事もあるのに、少しこき使いすぎでは?」
「わかっている。しかし私はいいと言っているんだが、あの子がやりたがるんだよ」
「へぇ……本当にいい子ですよね」
「ああ、まったく。その分給料を上乗せしているが、内心では恩を売っているつもりなのだろう。しかし私から見たら、ただただいい子だ」
ジョセフ殿の言う通り、ローナが内心で得意になって「ふふふ」と笑っているところが想像できる。
そういうところがまた、可愛い。
「それで、昨日は何があったんだ?」
「……と言いますと?」
「とぼけるな。昨日帰ってきてから、ローナはずっと心ここにあらずだぞ」
「! それは本当ですか!?」
「ああ、何かあったんじゃないのか?」
ジョセフ殿から放たれた言葉に、思わず過剰に反応してしまう。
ローナは、俺のことを考えてくれているのか……?
「……俺には想っている女性がいると、伝えました」
「ほう」
「相手の名前は伝えていませんが、ローナはその女性が誰なのか気になっているのでしょうか」
「まぁ……そうだろうな」
ジョセフ殿が頷いた。彼が言うのなら間違いない。
「彼女は俺のことを好きになってくれていると思いますか……?」
「その自覚があるかはわからんな。あの子はとても鈍いから」
「まぁ……確かに」
「おまえのことは気になるし、好きな女性がいると知ってもやもやしているのだろうが、なぜそう思うのかまでははっきりわかっていないかもしれん」
「そうですか……」
やはりあと一押し必要か。
彼女は本当に鈍い。そこがローナの可愛いところなのだが。
「今俺が想いを伝えても、彼女は応えてくれないでしょうか」
「戸惑うだろうな」
「ですよね……」
その姿は、容易に想像できる。
……想像するだけでも可愛いが、できれば気持ちに応えてほしい。
「ですが、こうなったらそろそろ俺の気持ちをはっきり伝えようと思います」
「……」
「戸惑うでしょうが、彼女にははっきり伝えなければ、いつまでもわかってもらえない気がするので」
「そうか。……応援しているよ」
「ありがとうございます」
ジョセフ殿は静かに息を吐いて、そう言ってくれた。
彼もどうせローナが誰かと結婚するなら、相手は俺がいいと言ってくれていた。
だから、少し寂しい気持ちもあるのだろうが、応援してくれている気持ちも嘘ではないだろう。
彼女の気持ちを無視する気はないが、俺の気持ちだけは伝えておこう。
そして、俺とのことを考えてみてもらいたい。
ああ……ローナ、本当は今すぐにでもこの想いを伝えて、君をこの腕で抱きしめたい。
俺はいつも、そう思っているよ――。
お読みくださりありがとうございます!
完結までもう少しです。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
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