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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
35/40

35.彼のことが好き……?

「はぁ~」

「どうしたんだローナ、溜め息なんかついて」

「師匠、すみません……!」


 翌日の夕方。

 昨日から今までずっと、私はグレン様のことを考えてしまっている。


「治癒ガーゼができたよ。これで正式に販売しようと思う」

「わぁ……! ついに!!」


 店番をしていた私に、魔法部屋から出てきた師匠が完成品の治癒ガーゼを持って声をかけてきた。

 今はお客様がいなかったとはいえ、しっかりしなくちゃだめよ!!


「まだ重症の者には使用できないが、軽傷なら切り傷でも打ち身でもこれですぐに治ることがわかった。ローナは本当にすごいな」

「いいえ、まだまだです。これからもっと力をつけて、重症でも治せるものを作りたいですね」

「ああ、君ならきっとできるよ」

「ふふふ、頑張ります!」


 そうよ、グレン様のことばかり考えている場合じゃないわ!

 私はもっと魔法を勉強して、治癒魔法の力を鍛えて、もっともっとすごい治癒ガーゼを作るんだから……!!


「それで、ローナ。何か悩みでもあるのかい?」

「いいえ! なんでもありませんよ!」

「……そうかい? 私にはなんでも話してくれよ?」

「はい、もちろん!」


 とりあえず師匠には笑って誤魔化しておいた。


 本当は、グレン様が昨日言っていた〝想い人〟が誰なのか気になってろくに眠れなかったのだけど。

 でもこんなことを相談したら、師匠を困らせてしまうわ。

 私がハッセル侯爵家の嫡男であるグレン様が好きだなんて……。不釣り合いにもほどがあるもの。


 ……待って、今、好きだと思った?

 私が、グレン様を――?


「…………」

「……グレンは好きなんだろう?」

「え!? いえ、その……! ち、違います――!」

「違う? なんだ、やっぱりグレンは甘いものが嫌いだったのか?」

「え……?」

「これだよ、昨日ローナがお土産に買ってきてくれた、チョコレートケーキ」

「あ……なんだ、その話ですか」


 びっくりした。

 師匠に心の声を読まれてしまったのかと思ったわ。

 さすがの師匠でも、そこまでできるはずないのに。


「ローナはなんの話だと思ったんだ?」

「えっ!? いえ、ちょっとぼーっとしてました……ふふふふ」

「そうか。今日はグレンと飲みに行く約束をしているから、このケーキを半分分けてやろうと思ってな」

「また飲みに行くんですか?」

「ああ、どうやらグレンは私に相談があるらしい」

「……相談」

「何か悩んでいるようだよ」

「へぇ……」

「気になるかい?」

「いいえ! そんな!!」


 嘘。めちゃくちゃ気になっているくせに……!!

 でも、私も一緒に行きたいだなんて、そんなことを急に言ったら、きっと迷惑よね?


「……」

「そういうわけだから、今夜は先に寝ててくれ」

「はい……。師匠、お酒はほどほどにしてくださいね?」

「わかったわかった!」


 軽く笑って返事をする師匠。

 また酔ってグレン様に送ってもらうんじゃないでしょうね?

 ……そうだわ!


「師匠、今日はここで飲んだらいいんじゃないですか?」

「なに? ここでか?」

「はい! 私、何かおつまみを作りますよ。そうしたら師匠が酔いつぶれてもすぐに寝られますし、グレン様への迷惑が減るので!」

「……なるほど、それはいいな」


 私の提案に、師匠は頷いてくれた。


 ふふふ……これなら私もグレン様の相談事を聞けるかもしれない……!


 でもグレン様の相談って何かしら?

 やっぱり、想い人のこと……?


 ……その相手の名前を聞いたら、私はショックを受けるかもしれない。

 でも、応援しなくちゃ。グレン様は、ホーエンマギーの大切な常連様だもの。


「……はぁ」

「……」


 そうは思っても、ついまた溜め息をついてしまった私は、もやもやとした思いを抱えながらグレン様がやってくるのをそわそわと待った。




     *




「――さぁ、どうぞ。遠慮なく召し上がってください!」

「これすべてローナが作ったのかい? どれも美味そうだ」


 仕事終わりのグレン様を迎えて、今夜は三人で一緒に夕食をとることにした。

 食後は師匠と二人きりでお酒を飲んでもらうことにして、食事は三人で囲む。

 用意したのは私。

 今日はグレン様もいると思って、張り切って作った。

 と言ってもそんなに贅沢はできないので、鶏肉を香草と一緒に焼いたソテーに、ミルクと合わせたコクのあるマッシュポテトを添えて、彩りのよいにんじんや葉野菜にトマトのサラダと、昨日から出汁を取っていた牛テールのスープに、ふわふわのパン。


 師匠お気に入りの白ワインを開けて、乾杯した。


「うん、本当に美味い」

「そうだろう? ローナは料理上手なんだ」

「ジョセフ殿はいつもこんなに美味しい食事をしているんですか? 羨ましいな」

「ふふふ、グレン様のお口に合ったようでよかったです。またいつでもどうぞ」


 グレン様には高級タルトをごちそうしてもらった。

 だからこんなものでいいのなら、いつでも大歓迎。

 まぁ、侯爵家の食事とは比べものにならないでしょうから、お世辞だと思うけど。


「ジョセフ殿は本当に羨ましい。毎日ローナとずっと一緒にいられて、食事ができて。ローナを独り占めですね」

「ははは、悔しかったらおまえも魔導具店を始めてみたらどうだ?」

「……俺は違う方法でいきますよ」

「ふ……そうか。だが一体いつになるのかな」

「……?」


 お二人はなんの話をしているのでしょう?

 じっと師匠に鋭い視線を向けるグレン様と、それを受け流すようにワインを飲む師匠。


「食後に、昨日買ってきたチョコレートケーキもありますよ!」

「ああ、昨日ローナが買っていたケーキか」

「ローナが私に買ってきてくれたケーキだが、グレンにも分けてやろう」

「…………」


 ……?

 どうしたのかしら?

 せっかく三人での楽しい夕食なのに、なんだか二人の空気がよくないような?


 グレン様も何か言いたげだけど、私にちらりと視線を向けて口を閉ざすようにグラスに入っているワインを飲み干した。


「……私はうちで師匠とグレン様と三人で食事ができて、とても嬉しいです!」

「ローナ……」

「さぁグレン様、ワインのおかわりをどうぞ!」

「ああ、ありがとう」

「ふふふ、お二人は私にとって大切な家族のような存在です! 本当にいつもありがとうございます!」


 グレン様の空いたグラスにワインを注ぎ、二人に向かってとびきりの笑顔を向ける。


 そうすれば師匠も小さく息を吐き、「そうだね。飲もうか、グレン」と言って改めて乾杯してくれた。


 よかった。お二人は本当に仲がいいもの。

 何があったのかわからないけど、せっかく三人で食事をしているのだから、楽しくないとね!


 今まではずっと一人で食事をとっていたから、本当に嬉しい。

 社交辞令ではなく、こうしてまた三人でテーブルを囲みたい。


 心からそう思った。



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