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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
33/40

33.腹黒は簡単に直らない

 ……そういえば、この人たちには以前も絡まれたのよね。これで二回目だから、次もあるかもしれない。全然納得していないようだし。


「……」

「ローナ?」

「……確かに、私はグレン様に対して慣れ慣れしくしすぎかもしれませんね」

「え? 何を言うんだ、ローナ」


 だからふと俯いて、グレン様に向けてそう呟いた。


「……そうよ!! やっとわかった?」

「ほら、グレン様! この子も認めましたわ!」

「やっぱりそうよね、調子に乗っていたのよ!!」

「っ、ローナ、そんなことはないぞ?」


 途端に、彼女たちは嬉しそうな声を上げる。

 グレン様は否定してくれたけど、私は声を震わせながら続けた。


「私は、ホーエンマギーの店員として接していたつもりだったのですが……まさかグレン様が本当は甘いものが嫌いだなんて知らずに、無理をして付き合わせてしまったなんて」

「はぁ? 俺が甘いものが嫌い?」

「はい……この方たちが教えてくれました。教えてもらえなかったら、私はずっと勘違いしたまま今後もグレン様に無理をさせてしまうところでした。教えてくださり、感謝いたします」


 顔を上げ、今度は彼女たちにうるうるとした視線を向け、真ん中にいるご令嬢の手を握る。


「え? ……あ、いや、別に」

「そ、そうよ、グレン様のためだもの!」

「うんうん、わかればいいのよ……」

「まぁ、なんてお優しい……!」


 子爵家にいた頃を思い出す。

 いじわるな使用人にもこうしてしおらしく接したら、その後いじめが減った。


 もちろん、腹の中では彼女たちを〝優しい〟だなんて、まっっったく思っていないけど。

 でも、よほどの極悪人じゃないかぎり、そう言われたら本当に少しは優しくしなきゃいけないと思うのが、人間というもの。


 自分にこんなに感謝している相手に、それでも冷たくできる極悪人はほんの一握り。


 ああ……でも私の腹黒はやっぱり直っていないわね。


「いや、ちょっと待て! 俺は甘いものが嫌いではない!」

「……え? ですが、彼女たちは嫌いだと……」

「そうですわ、グレン様! 以前焼き菓子を作って持っていったときは、確かに『甘いものが嫌い』だとおっしゃっておりました!」

「……それは、君たちからの差し入れを断るためについた嘘だ」

「え!?」

「そんな……!」

「嫌いとでも言わなければ、君たちは差し入れのお菓子を持ってき続けるだろう? だから、そう言った」


 あらあら。彼女たちが嘘を言っているのかと思ったけれど、本当にそう思っていたのね。


 グレン様の親衛隊を自称する彼女たちにとって、グレン様の好みを間違えて把握していたことがよほど悲しかったのか、途端にしょんぼりしてしまった。


「だいたい、そんなことを君たちがローナに忠告する必要がどこにある」

「…………」


 ちょっとやりすぎたかしら?

 彼女たちはもう、返す言葉もないらしい。


 でも、真実が知れてよかったですね……?


 とは、さすがに言える雰囲気ではないけど。


「君たちが騎士の訓練を見にくるのは構わないが、ローナや他の者たちに、迷惑をかけるようなら今後は出入りを禁ずる」

「ま、待ってください!!」

「そうです、それだけはご勘弁を……!」

「グレン様を拝見することが私たちの生きがいなんです!!」


 厳しいお言葉を聞き、涙ぐみながらすがるように懇願する彼女たちに、グレン様は鋭く言い放つ。


「では、二度とローナに絡むのはやめてくれ」

「……グレン様は、この子のことを特別に想っているのですか?」


 そうしたら、とんでもない質問が返ってきてしまった。


 そんなわけないじゃないですか! 私とグレン様はただの店員と常連様という関係で――!


 私が慌ててそう答えようとしたけれど、動揺している間にグレン様が口を開いた。


「そうだ。ローナは俺にとって特別な女性だ」

「……!」


 そして、グレン様は迷いなく、はっきりとそう答えた。


 特別な女性……?

 って、一体どういうこと?


 グレン様の一言に、ドキドキと鼓動が高鳴っていく。


「……そうですか、わかりました」

「行きましょうか」

「ええ……」


 けれど今度こそ納得してくれたのか、彼女たちは悲しそうに肩を落としつつも、とぼとぼと帰っていった。




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