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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
32/40

32.親衛隊再び

 タルトと紅茶に大満足した私たちは、カフェを出て少し歩くことにした。


「入りたい店があったら言ってね」

「はい」


 師匠へのお土産になりそうなものが売っていたら買っていこう。

 そう思いながら、お散歩がてらゆっくりと街を見て歩く。


 さすが王都なだけあって、人が多く賑わっている。

 思えば街に来て、こんなにゆっくりするのは久しぶりだわ。


 でも――。


「グレン様はお忙しいでしょう? お時間は大丈夫なのでしょうか」

「平気だよ。それに、俺もたまにはこうしてゆっくりしたいから」

「……そうですか」


 それなら、よかったわ。

 ふふ、たまのお休みでしょうから、ゆっくりしてくださいね!


 そんなことを考えながら少し歩いた頃。



「――そうだ、あの店に寄っていいかな? エディに頼まれていたものがあるんだった」

「はい、もちろんです」


 グレン様が足を止めたのは紳士服や男性用の雑貨が売っているお店の前。


「ローナも一緒に来るかい?」

「私はここで待ってます」

「わかった。それじゃあすぐに戻るから、少し待ってて」

「はい」


 グレン様を見送って、私は近くのベンチに座った。

 仕事は楽しいし、もっと魔法を勉強したいという気持ちは本当だけど、たまにはこうして街を歩くのもいいものね。

 美味しいタルトと紅茶もいただいたし、とてもいい息抜きになったわ。


「明日からまた頑張ろう」


 ……でも、さっきは本当にびっくりした。

 まさかグレン様が、私の口元についたクリームを指ですくい取って舐めてしまうなんて……。


 今思い出しても顔が熱くなる。


「――ねぇ、ちょっと」

「?」


 そんなことを考えて一人照れていた私に、刺々しい声が届く。


「あ、あなたたちは」


 声の主は、先日王宮で絡んできた女性三人組。

 グレン様の親衛隊(自称)の方たちね。


「こんなところでお会いするなんて、すごい偶然ですね」

「そんなことよりあなた、今日もグレン様と一緒にいたわよね!?」

「二人で何をしているのよ!」

「グレン様をあんな店に付き合わせるなんて! 信じられない!!」

「え?」


 あんな店って、先ほどのカフェのこと?

 というか、そこから見られていたのね。


 ……もしかして、ずっとついてきていて、グレン様がいなくなった隙を見て私に声をかけてきたとか?


「グレン様は素敵なお店を知っていますよね。あなたたちもあのカフェにいたのですか?」

「はぁ!? 何言ってんのよ!」

「まさか、あなた知らないの!?」

「?」


 こちらは冷静に話しているのに、随分怒っている様子の彼女たち。

 そんなに興奮して、一体どうしたの?


「グレン様は甘いものが嫌いなのよ!!」

「え……そうなのですか?」

「そうよ! そんなことも知らずに付き合わされて……グレン様はきっと我慢して無理をしたのね! ああ、本当にかわいそう!!」


 それは初耳だわ。というか、信じられない。だってグレン様がカフェに行きたいと言って、誘ってくださったのだから。


「……グレン様も美味しそうにタルトを召し上がっていましたよ?」

「だから、無理に合わせてくれたのでしょう!?」

「一体どんな手を使って彼を誘い出したのよ!!」

「グレン様の弱みを握って、脅したんじゃないでしょうね!?」

「まさか、そんなことするはずありません!」


 グレン様の弱み……そもそも、彼にそんなものあるのだろうか?

 ……なんて、ちょっと考えてしまったじゃない。


「とにかく、せっかくのお休みなのにグレン様の邪魔をしないでちょうだい!」

「……邪魔をしたつもりはないのですけど」

「言い訳は聞きたくないわ!!」

「……」


 もう。相変わらず私の話を聞く気がないのね。


「ローナ!」

「あ、グレン様」


 そうこうしているうちに、買い物を済ませたグレン様が戻ってきた。


「……君たちはこんなところで何をしている。ローナに何か用か?」

「グレン様……! 今、この子に注意していたところですのよ!」

「注意?」


 グレン様は彼女たちを警戒するような視線を送っている。その視線は、騎士様のものだわ。

 グレン様を見て、彼女たちは一瞬動揺したように見えたけど、すぐに胸を張って大きな声を出した。


「そうです! せっかくのお休みに無理にカフェなんかに付き合わせるなって!」

「グレン様もはっきりお断りしたほうがよろしいですよ?」

「どっかの魔導具店の店員だか知らないですけど、何か借りがあるとか?」

「私たちが助けて差し上げます!!」


 ピーチクパーチクと、一斉に話し始める彼女たちに私は圧倒されてしまう。

 本当に、一方的な人たちだわ……。


「おい、何を勝手なことを! 彼女のことは俺が誘ったんだ」

「ええっ!? グレン様が!?」

「なぜです!? やっぱり何か弱みを握られて――」

「失礼なことを言うな。彼女に礼がしたくて、無理を言って付き合ってもらったのは俺のほうなのだから」

「そんな……!!」


 はっきりと告げられたグレン様の言葉に、彼女たちはショックと驚きを隠せない様子。


 ありがとうございます、グレン様。

 おかげで少しすっきりしました。


「わかってくださいましたか? それでは失礼しますね」

「…………」


 グレン様の口から直接聞いて、さすがに納得しただろう。

 もう彼女たちのことは気にせず、行こう。

 そう思ったら。


「――何よ、ちょっと可愛いと思って、調子に乗って」

「……!」


 ぼそりと呟かれた言葉が耳に届いて、私はピタリと足を止めた。



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