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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
31/40

31.これからも末永くお願いしたい

 次の定休日に、私とグレン様はカフェに行くことになった。

 今日はたまたまグレン様もお休みだったらしい。


「本日も迎えにきてくださりありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」


 馬車で迎えにきてくれたグレン様は、紳士的な動作でエスコートしてくれる。

 大きくて男らしいその手に触れるだけで、ドキドキする。


「……」

「どうかした?」

「いいえ、なんでもありません……!」


 そんなグレン様をじっと見つめてしまった。

 だって、なんだか今日のグレン様はいつもと雰囲気が違うから。


 ホーエンマギーに来るときはいつも爽やかな好青年の印象で、仕事中のグレン様は騎士服をピシッと着こなした頼もしい雰囲気。


 そして今日は、そのどちらとも違う、エレガントでスマートな大人の男性……。

 グレン様は私より五つ年上だから、大人の男性であることは間違いないのだけど。


 高位貴族として相応しい、その服装のせい?

 それとも髪型がいつもと違う……?

 いえ、表情かしら? 今日はいつもより引きしまったお顔をされているような――。


「そのネックレス、つけてきてくれたんだね」

「あっ、はい」

「嬉しいな。とても似合っているよ」

「ふふふ、ありがとうございます」


 今日は私も、少し張り切って出かける支度をしてきた。

 グレン様とカフェに行くのは二度目だけど、気持ち的に以前とは違う。

 あのときよりグレン様のことがわかってきたし、こんなに素敵な贈り物までいただいたし。


 そういうわけで、私が持っている中で一番新しいワンピースを着て、念入りに梳かして艶々させた髪を軽く結って、グレン様にいただいたこのストロベリーピンクの魔石のネックレスをつけてきた。


 グレン様と並んでも恥をかかせることのないよう、少しでもおしゃれをしようと、私なりに頑張ってきた。


「……」

「……? グレン様?」


 そんな私を、今度は向かいに座っているグレン様がじっと見つめている。


「ああ、すまない。ローナがあまりにも可愛いから、見とれてしまった」

「……っ! もう、グレン様ったら、お上手なんですから……ふふふふふ」

「お世辞ではないんだけどなぁ」

「?」


 一瞬にして鼓動がバクバクと激しく脈打つのを悟られないように、なんとかいつも通りの笑顔を作った(つもりの)私に、グレン様は小さく息を吐いた。


 お世辞ではない?

 ……でも、それなら一体どういう意味で言ったの??


「まぁいいや。今日は楽しもうね」

「は、はい……!」


 それでもすぐににこりと微笑んでくれるグレン様に頷いて、今日はどんなフルーツタルトがいただけるのかしらと、期待を膨らませることにした。




「――わぁ! 美味しそう……!」


 そのカフェの看板メニューは、高級いちご〝スイートキングベリー〟をふんだんに使ったタルトだった。


 以前一緒に行ったカフェで食べた色々なフルーツが乗ったケーキも美味しかったけど、この店で使われているフルーツはどれも高級品らしい。

 特にスイートキングベリーは王都でもなかなか食べることができない、稀少な品種のいちご。


 死ぬ前に一度は食べてみたいと思っていただけに、見るだけでよだれが出そうになる。


 でも、さすがに高い……!


「遠慮なく食べて。今日は俺がごちそうするから」

「え……、ですが!」

「騎士たちに治癒ガーゼを使わせてくれた礼だ」

「あれは、私も貴重なデータが取れて助かりました」

「それでも、君の力のおかげで彼らの傷はあっという間に完治したんだ。傷跡も残らずにね。皆とても感謝している。これでは足りないくらいだ」

「……そうですか?」

「そうだよ。それなのにタルト一つで手を打とうなんて、足りないよな? ……やはりもっと高級なものを贈ろうか。いや、あの価値に合った金銭を払わなければ――」

「ふふふ、そんなものいらないですよ! それでは、ありがたくいただきますね!」

「ああ、ぜひ」


 わざと怪我をして試してみるという、痛い思いをせずに済んだのよ。

 私は騎士団の皆さんに協力してもらえて本当に助かった。

 そのおかげでこんなに早く製品化できるわけだし。


 それなのに、こんなに感謝してもらえるなんて。

 グレン様がいい人すぎて申し訳ないくらいだけど、試作品にお金を支払われても困るので、ありがたくタルトをごちそうになることにした。


 もちろん師匠の力が大きいので、何かお土産を買っていこうと思う。


 そういうわけで、私は遠慮なくスイートキングベリーのタルトを注文させてもらった。



「……っとっても美味しいです!!」

「それはよかった」


 噂通り甘くて、瑞々しくて、いちごそのものが新種のスイーツみたい!


 本当にすっごく美味しい。こんないちごは食べたことがない。


「ああ……こんなに美味しいいちごを食べられる日がくるなんて……生きててよかった」

「そんなに喜んでもらえるなら、毎日でもごちそうしたいよ」

「ふふふ……たまに食べるからいいのです。これまで頑張ってきたご褒美に」

「そうだね。しかし君は本当に謙虚で可愛らしい」

「……!? もう、グレン様ったら」


 グレン様がまたお世辞を言ったけど、タルトが美味しすぎて私の頰は緩みっぱなし。


「……あ、ローナ。少しじっとしてて」

「?」


 そんな私に手を伸ばしてくるグレン様。

 どうしたのかと思っている間に、グレン様の長くてしなやかな指が私の唇のすぐ横に触れた。


「クリームがついているよ」

「…………!」

「甘いな」

「な、な……っ!?」


 ドキリとしたのも束の間、グレン様はなんでもないことのように私の口元についていたクリームを指で拭うと、その指をペロリと舐めてしまった。


「ふ、拭いてください……! すぐに!!」

「はは、大丈夫だよ。そんなに擦らなくても」

「あ……っ、失礼しました……!」


 慌ててグレン様の指をナプキンで拭き取る私に、グレン様は爽やかに笑う。


 いやいやいや……! 今私の口元についていたクリームを舐めたんですよね!??


「……そんなに赤くならないで? 直接舐めたわけでもあるまいし」

「直接……?」


 くすっと笑うグレン様がそんなことを言うものだから、ついそれ(・・)を想像してしまった。


 だ、だめです、そんなこと……!! 甘すぎます!!!


「あ、えーっと……こっちの紅茶もいい香りですね!」

「紅茶にもいちごが使われているんだよ」

「え! なんて贅沢な……!」


 顔が熱い。きっと真っ赤になっているに違いないわ。


 それを誤魔化すように紅茶を一口飲んで、気持ちを落ち着けようと深く息を吐く。


 ……この紅茶、確かにいちごの香りがする。

 紅茶のほうには、ほどよい酸味のあるいちごが使われているんだわ。


「甘すぎない爽やかな風味がタルトによく合いますね!!」

「そうだね。気に入ってくれたようでよかったよ。また〝ご褒美に〟来ようね」

「はい、ぜひ……!」


 大丈夫よ。私は腹黒悪女なんだもの……!

 いつも通り、接客だと思って、笑顔、笑顔……!


 それにしても、こんなに素敵なお店を知っているグレン様がホーエンマギーの常連様で、本当によかったわ。


 どうかこれからも、末永くよろしくお願いします……。



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