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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
30/40

30.俺も本気で動かなければ ※グレン視点

「はっはっはっ、そうか、ローナはおまえの気持ちにまったく気づいていないか」

「笑い事じゃないですよ……」


 その日、俺はジョセフ殿と二人で酒場に繰り出ていた。

 ホーエンマギーの営業後にそのままこうしてジョセフ殿と酒を飲みに行くことは、以前から時々あった。


 俺にとってジョセフ殿は、魔法の腕も人柄も、とても尊敬できる存在。


「俺は結構アピールしているつもりなんですけど……彼女はまだ恋愛には踏み込めないようです」

「おまえほどの権力があれば、強引に自分のものにすることも可能だろう?」

「そんなことをする気はありませんよ。……というか、もし俺がそんなことをしたら、一番怒るのはあなたでしょう?」

「まぁな」


 軽く肯定して蒸留酒を舐めるように口にするジョセフ殿に、内心で溜め息を一つ。


 本当にこの人は……。

 俺がそんなことをする気はないと知っていて言ったのだと思うが。


 というか、ジョセフ殿には俺が以前から彼女を捜していることを、話していた。

 名前はわからなかったが、特徴は話していたというのに……。


 自分の教え子が、俺がいつも話していたその少女だと、本当に気づいていなかったのだろうか……?


「……」

「なんだ? 何か言いたげだな」

「正直なところ、俺とローナのことを、あなたはどう思っているんですか」

「ん? 応援しているよ、グレンの気持ちがローナに伝わり、想い合える日がくることを」

「本当ですか? もし俺とローナが結婚したら、ローナはホーエンマギーを辞めるかもしれないのに?」

「そんなことはないさ! ローナは結婚後もうちで働くことを望むよ」

「すごい自信ですね」

「私はあの子のことをおまえよりよく知っているからな」

「……」


 ジョセフ殿は、本当にローナに対して恋愛感情はないのだろう。

 それはわかるが、娘のように大切に想っているのは本当だろうな。


 時々俺に対して、ジョセフ殿から父親のような独占欲を感じる。


「俺からすると、あなたが羨ましいですよ。ローナにとって、今一番特別な存在はあなたでしょうからね」

「はっはっはっ! そうだろう、私とローナには本当の家族よりも強い絆がある!」

「…………」


 否定しないんだな。


 とても嬉しそうに笑って肯定するジョセフ殿に、俺の頰もつい緩む。


 俺も早くローナと特別な絆で結ばれたい。

 しかし、焦って想いを伝えても、きっと振られる。

 ローナはまだ恋愛をする気がない。

 俺への恋心を芽生えさせ、それを自覚させてから想いを伝えなければ、振られてしまうのは目に見えている。


「おまえほどの男が振り回されるとは、ローナはさすがだな」

「そこが可愛いんですけどね」

「普通に惚気るな」

「いいじゃないですか、それくらい」


 俺はこんなに恋い焦がれているというのに……。ローナは少しでも、俺のことを考えてくれたりするのだろうか。

 魔法やホーエンマギーのことでいっぱいか?

 少しでも、俺のことが彼女の頭の中にあればいい。


「他の男にやるくらいなら、おまえがいいとは本気で思っている」


 突然真剣味を帯びた声でそう呟いたジョセフ殿に、この人は本当に父親のつもりでいるのだなと思いながら口を開く。


「……では、もしものときは惚れ薬を作ってください」

「何を言ってる。そんなもの、私に作れるはずがないだろう?」

「いいや、あなたほど優秀な魔法使いになら作れますよね?」

「無理だ、無理。馬鹿なことを考えず、地道に頑張るんだな」

「…………」


 もちろん俺も薬に頼る気はないから、(ほぼ)冗談だが。今の反応……。

 やはりこの人ほどの魔力があれば、その気になればそのような薬も作れるのだろう。


 ジョセフ殿は妻を亡くし宮廷魔導師を辞めてしまったが、王宮に仕える身の俺としては本当にもったいないと思う。


「ローナに治癒魔法の素質があることは、いつから見抜いていたのですか?」

「なんのことだ」

「あなたほどの方が、あんな貴重な力を放っておくとは思えない。まさかそれで学生の頃からローナを?」

「いやいや、あの子が本当にいい子で努力家だったから、目をかけていただけだ」


 本当だろうか。

 この人は、何を考えているのか時々わからない。


 やはり本当の腹黒は、ローナではなく彼ではないだろうか……。




「――ローナ~! 帰ったぞ~!」

「ジョセフ殿、声が大きいですよ」


 結局酔いつぶれてしまったジョセフ殿を、俺はホーエンマギーまで送り届けてきた。


「まぁ、師匠ったら、また飲み過ぎたのね?」

「そうみたいだ。ベッドに寝かせてやろう」

「はい、いつもすみません、グレン様」

「構わないよ」


 ジョセフ殿を部屋に運んでベッドに寝かせたら、俺はすぐに帰ろうと思った。


 しかし、


「グレン様、よかったらお茶をどうぞ」

「……ありがとう」


 ローナがお茶を淹れてくれた。

 せっかくだから一杯ごちそうになることにして、ローナと向き合って席に着く。


「本当にいつもありがとうございます。師匠ももう少し加減して飲めばいいのに……」

「いいんだ、楽しい時間だったから」

「グレン様はお優しいですね」

「そんなこと……それに、こうしてローナと二人きりでお茶もできたし」

「え?」

「ジョセフ殿に感謝したいくらいだよ」

「もう……グレン様ったら」


 俺は本気で言っているのに、ローナは貴族の嗜みとして受け取り、流してしまう。

 だが、そのなめらかで白い頰がほんのり赤く染まったことは、見逃さない。


「ローナは最近、調子はどうだい?」

「はい、グレン様や騎士団の皆様のおかげで、治癒ガーゼの効果もわかってきましたし、もう少しで正式に商品として販売できそうです」

「そうか、それはよかった」

「本当にグレン様のおかげです。ありがとうございます」

「俺は何もしていないよ。むしろ騎士団のみんなも本当に喜んでいた。販売されたら、必ず買いに来る」

「はい、ぜひ!」


 にこにこと、本当に嬉しそうに笑っているこの笑顔が本物なのか、はたまた営業スマイルなのか。

 俺にはわからないが、どちらでも構わない。


 ローナがホーエンマギーのため、そして人のために治癒ガーゼを作ったことはわかっている。

 彼女が純粋すぎて、俺たち騎士を利用したと思っているのだろうが、俺たちにとっては本当にありがたいことだったのだから。


 むしろそんな純粋な彼女が今後誰かに騙されないか、心配になるくらいだ。

 まぁ、俺がローナから目を離す気はないけどな。


「……プライベートでは、最近どう?」

「プライベートですか?」

「ああ、気になる相手とかは、できた?」

「……え」


 核心に迫る問いに、ローナはわかりやすく視線を彷徨わせ、動揺を見せた。


「えっと……どうでしょう? ふふふ、特にはいないです……」

「……そうか」


 もじもじとしているローナは、本当に可愛い。

 少しは俺のことを意識してくれているような気もするが……もう一押し必要だな。


「今度、またカフェに付き合ってくれないかな」

「以前行ったお店ですか?」

「いや、今度は違う店だ。とても美味いフルーツタルトがあると評判なんだが、俺一人では入りづらくて」

「……わかりました! ご一緒します。あ、でも今度は私が自分で払いますからね!」

「ははっ、わかったよ」


 ローナが果物好きだということは調査済みだ。

〝美味いフルーツタルト〟と聞いて目の色を変えるのが、可愛くてたまらない。


 ローナには好きなものを好きなだけ食べさせてやりたい。

 彼女の笑っている顔をずっと見ていたい。


 ――そのためにも、そろそろ俺も本気で動こうと思う。



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