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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
28/40

28.親衛隊がいるなんて

 今日は週に一度の、ホーエンマギーの定休日。

 師匠に予定がないかぎり、この日は魔法を教えてもらったり、一緒に美味しいものを食べに出かけたりしている。

 師匠に予定がある日はお店のお掃除をしたり、一人で魔法の練習をしたりするのだけど、今日は王宮に行き、騎士様たちの様子を見てくる予定。


 またグレン様が迎えに行くと言ってくれたけど、毎度仕事中に抜け出してきてもらうのは申し訳ないので、丁重にお断りした。

 一度一緒に行ってもらったから、もう一人でも大丈夫だし。

 それに、王宮に行けばグレン様はいるからね。


 そういうわけで、一人王宮へ向かうため、馬車に乗り込んだ。



「えーっと、騎士団の訓練場は確かあっちよね……」

「ちょっとあなた」

「はい?」


 王宮に到着し、広場へ向かって歩いていた私に、誰かが声をかけてきた。

 振り返ると、知らない女性が三人。私より少し年上に見えるけど、皆さん怖い顔をして私にじろじろと視線を向けている。


「あなた、最近よく見かけるわね」

「……そうですか?」


 私は知らない人たちだけど、会ったことがあったかしら?


「騎士団の訓練場に向かうの?」

「はい。あ、こっちで合っていますでしょうか?」

「騎士団になんの用よ」

「ええっと……」


 騎士団の訓練を見学するのに、この人たちの許可が必要なのかしら?

 ううん、そんなことないと思う。グレン様はそんなこと一言も言っていなかったし、そもそもグレン様の許可は得ているもの。


「だいたいあなた、一体誰なのよ!」

「あ、初めまして。私王都西側で魔導具店をやっている――」

「以前夜会でグレン様と踊ってらしたわよね!?」

「え……はい」


 これはホーエンマギーを宣伝するチャンスだわ! そう思い名乗ろうとしたけれど、被せるように続けて質問してきたので、私の話を聞く気はないのだと悟り口を噤む。


「グレン様とはどういうご関係かしら」

「どういう……」


 ただの店員とお客様ですけど。

 そうとしか答えようがないけれど、私はまだホーエンマギーの店員だと名乗っていない。

 でも、名乗る隙はまったく与えてもらえない。


「あの方はハッセル侯爵のご子息なのよ!? とっても高位なお方なの! あなた、それをわかってる!?」

「……はい、存じ上げております」

「知っているなら、これ以上グレン様に近づかないでちょうだい!」

「そうよ、グレン様の周りをうろうろして! 迷惑なのよ!」

「そう言われましても……グレン様はうちの大切な常連様なので」

「まぁ! 口答えするのね!?」

「…………」


 口答えじゃなくて、事実を言っただけなんですけどね?


 あまりに大きな声に、耳が痛くなる。

 困ったわ。ここは適当に頷いて誤魔化しておいたほうがいいかしら?


『わかりましたー! 以後気をつけますね! それでは~!』


 なんて言って、後でグレン様と話しているところを目撃されたら、かえって逆上されてしまうかしら。

 この方たちはグレン様のことを慕っているようだし。

 ……もしかして、グレン様のファン? すごいわ、さすがグレン様。


 あれだけ素敵な方なのだから納得できるけど、なぜだか胸の辺りがもやもやする。


「ちょっと、聞いてるの!?」

「……はい!」

「とにかくこれ以上グレン様に近づかないでちょうだい!」

「失礼ですが、あなたたちはどなたでしょうか」

「……え?」

「グレン様のご友人ですか?」

「友人というか……」


 にっこりと笑みを浮かべながら今度はこちらから尋ねてみたら、彼女たちは途端に口ごもってしまった。


「今度グレン様にお会いしたら、『ご友人の方にグレン様に近づかないよう言われた』と、お伝えしてもよろしいですか? 突然避けたら、グレン様が驚いてしまうと思うので」

「はぁ!? あ、あんた何言ってんのよ……!! グレン様にそんなこと言ったら許さないわよ――!」


 おかしなことを言っているのはそちらだと思うんですけどね?

 私の言葉に、変なものでも見るように顔をしかめる女性たち。


 まぁ、この方たちはご友人ではなさそう。

 友人だとしても、本人のいないところで彼の知人に勝手にこんな態度を取って、いいわけはないけど。


「ローナじゃない」


 この重苦しい空気をどう切り抜けようか頭を悩ませていたとき。


 その場に響いた美しい声に、私たちは一斉にそちらに顔を向けた。


「アルマ王女……!?」

「どうしたのよ、ローナ。騎士団の訓練場はこっちよ。迷子になったの?」

「えっと……?」


 アルマ様が、まるで私と約束をしていたかのように話しかけてきたけれど……もちろん私は王女様と約束なんてしていない。


「なぜ、アルマ王女が……」

「どうしたの? 何か問題かしら?」

「……っ、酷いんですのよ! この子ったら、私たちが話しかけているのに無視をして、うるさいと怒鳴りつけてきたんです!」

「え?」


 ちょっと待って、そんなこと言ってないわ。

 それに無視もしていないし、そもそも名乗らせてくれなかったのはあなたたちじゃないですか。


「あらそうなの。でも彼女は私の客よ」

「え? アルマ王女の……?」


 アルマ様が表情を変えずに一言そう言うと、彼女たちはギクリと肩を揺らしてもう一度私に視線を向けた。


「嘘……、グレン様だけではなく、王女様とも……?」

「本当に、何者なのよ……あんた」

「私は王都西側にあるホーエンマギーという魔導具店で店員をしております、ローナ・レイシーと申します。ご入り用の際はこのローナになんなりとお申し付けください!」


 アルマ様と約束はしていなかった。というか、お客様になるのは私ではなくてアルマ様だけど、やっと名乗る隙ができたのでしっかりお店の宣伝をさせてもらう。


「……魔導具店?」

「はい! グレン様は常連様です!」

「常連……」

「行くわよ、ローナ」

「あ、はい……!」


 本当に今日はアルマ様とお約束はしていなかったけど、王女様の言葉に逆らえるはずもない。

 だからおとなしくついていくけど、まだアルマ様が求めている、〝発育をよくする薬〟はできていない。

 さすがにこんなに早くは無理ですと説明しなければ。でもアルマ様が十八歳になるまでには、なんとか完成しなくちゃ!


「ローナ! ……アルマ様とご一緒でしたか」


 そんなことを頭の中で考えていると、今度はグレン様の声が聞こえた。

 慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる。


「グレン様、こんにちは」

「そこであなたの親衛隊に絡まれていたわよ」

「えっ……、そうでしたか。ありがとうございます」

「?」


 親衛隊?

 彼女たちはグレン様の親衛隊だったのね。

 というか、グレン様には親衛隊がいるの……? すごい。


「ローナ、すまない。やはり俺が迎えに行けばよかったな」

「いいえ、あの方たちはグレン様の親衛隊だったのですね。とても仕事熱心な方たちでしたが、アルマ様のおかげでホーエンマギーの店員だと名乗れました。これで安心してもらえるといいのですが」

「……いや、彼女たちが勝手に親衛隊を名乗っているだけで、俺にはそんなもの存在しない」

「え?」


 はぁ、と困ったように溜め息をつくグレン様。


 勝手に親衛隊を名乗っているだけとは……一体?


「それより、ローナは今日騎士たちの訓練を見学しに来たんでしょう?」

「はい、そうです」

「だったら私と一緒に、こっちに来なさい」

「え? アルマ様と一緒に? ……よろしいのですか?」

「いいわ。あなた面白いから」

「……? ありがとうございます」


 面白いことを言った覚えはないけれど、アルマ様がそう言ってくれるなら。


 そう思い、王女様のあとを付いていくことにした。

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