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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
26/40

26.特別なお客様ですよ

「――それじゃあローナ、また店に行くから」

「はい。今日はありがとうございました」


 グレン様が手配してくれていた馬車まで送ってもらい、私は一人ホーエンマギーに戻ることになった。

 でもここまで用意してくださるなんて、グレン様は本当に優しい方だわ。


「本当は俺が店まで送っていきたかったけど」

「そんな、グレン様はお仕事中ですから。ここまでしていただけただけで十分です」

「……」


 本心でそう言ったのに、どうしてかグレン様は不満そう。


「グレン様?」


 どうしたのかしら? もしかして私、グレン様に何か無礼を……?


「あの、私何か失礼なことを――」


 超常連客であるグレン様に嫌われてしまったら一大事!

 もうお店に来てくれなくなっては大変だわ!


 そう思って焦った私に、グレン様は小さく息を吐いた。


「他の男にあまり可愛い笑顔を振りまかないでほしいな」

「え?」


 ずいっと近づいてきたグレン様は、手を伸ばして私を馬車越しに追い込み小さく囁いた。


 なんですって……?


「妬けるよ」

「妬けっ!? ……またまた、グレン様ほどの方が、何をおっしゃっているのですか」


 グレン様ほどの方ならば、欲しいものはなんでも手に入るだろうに。

 先ほども、先日の夜会でも、ご令嬢たちはグレン様に熱い視線を向けていた気がする。


 だからきっと冗談を言っているのだろうと、ふふふふ、と笑って誤魔化してみたけれど……グレン様は私の髪に触れるほどの至近距離で、見つめてきた。


「俺が見ているのは、君だけだよ?」

「…………」


 そしてとても甘い表情で、この囁き。


 こんなに素敵な方に、そんなことを言われるなんて。

 やっぱり慣れないから、なんと返したらいいかわからずに口ごもってしまう。


「いくら払えば、君の笑顔を俺のものにできるのかな?」

「……えっと」


 笑顔は販売しておりません。

 

 そう答えようとして、思いとどまる。


 グレン様がそんなこと、真面目に言うわけないじゃない。

 きっと冗談で言っているんだわ。


「ふふふ……私の笑顔でよければ、いくらでも差し上げますよ」

「俺だけの(・・・)笑顔が欲しいんだけど」

「え……?」


 それは、どういう意味でしょう……?


 グレン様だけの笑顔。他のお客様には見せない、とびきりの笑顔とか?


「…………」

「……なんてね、ごめん。困らせる気はなかったんだけど――」

「グレン様! いつもご贔屓にしてくださって、本当にありがとうございます!」


 意を決して、これまでにないくらい、とびきりの笑顔を作って顔を上げた私に、グレン様は驚いたように目を見開いた。


「……」

「あれ……? お気に召さなかったでしょうか」

「…………プッ!」

「え?」

「ははははは――! いや……、ありがとう、嬉しいよ」


 グレン様の微妙な反応に余計なことをしただろうかと慌てた直後、彼が突然吹き出したかと思ったら、大笑いされてしまった。


「確かに今のは俺だけの笑顔だね……いや、そういう意味じゃなかったんだけど、今はそれでいいや」

「……? うふふ」


 とりあえず私もグレン様に会わせて笑っておく。


 ぶつぶつと何か言っているグレン様の真意はよくわからないけど、喜んでくれたのよね?


「君は本当に可愛いな」

「え、かわ……っ!?」

「ありがとう、元気が出たよ。気をつけて帰ってね」

「は、はい……」


 まだ混乱している私の髪を一束取ると、グレン様はその毛先に口づけを落とした。


 それだけで私の鼓動はドキドキと大きく脈を打つのに、グレン様はとても楽しそう。



 ……もしかして、グレン様は自分が一番の常連だから、焼きもちを焼いたのかしら?


 あんなに立派な方でも、特別扱いしてほしいと思うのね。


 ふふふ、でも大丈夫ですよ。私も師匠もグレン様にはいつも感謝してます。

 ホーエンマギーにとって、グレン様が一番の常連様ですからね!!



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