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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
25/40

25.治癒ガーゼと騎士団の皆さん

「君があの治癒ガーゼを作った、魔導具師か!」

「傷に貼って少ししたら、綺麗さっぱり治ったよ! 本当にすごい!」

「あれはいくらだい? ぜひ売ってほしい!」

「俺にも!」

「僕にも!!」

「あ、あの……」

「おい、ローナが驚いているだろう? みんな落ち着け!」


 王宮に到着してすぐ、グレン様は騎士様たちの訓練場に案内してくれた。

 今日、私が来ることを聞いていたのか、グレン様と一緒にやってきた私を見て、騎士様たちがすぐに集まってくる。


 皆さん大きくて屈強な方ばかり……!

 ちょっと圧倒されてしまったけれど、グレン様が庇うように前に出て皆さんをなだめてくれた。


「ああ、いきなりごめんね。でも君が作った治癒ガーゼは本当にすごいよ」

「あれなら気を失って回復薬が飲めない状態になっていても、傷を治癒できるだろうしね!」

「毒にも効くかな? 火傷は?」

「だから、落ち着けって!」


 す、すごいわ……!

 騎士様たちがこんなに興味を持ってくださるなんて!

 師匠、見てください! 私たちはやりましたよ!!


 私も興奮して、心の中でそう思いつつも、ここは深呼吸をして笑顔を作る。

 大丈夫よ。私はホーエンマギーの店員として来たの。師匠に恥をかかせるような真似はしないわ!


「皆さんありがとうございます! 騎士様たちの力になれるのでしたら、とても嬉しいです。ですが、まだ試作段階ですので、完成した際は真っ先にお知らせしますね!」


 にっこりと、得意の営業スマイルを浮かべて皆さん一人一人と目を合わせる。


「ああ、わかったよ」

「ローナちゃんと言ったか? ……可愛いな」

「ローナちゃん、婚約者はいないのかな?」

「好きな男は?」

「え――?」

「おい、それは今関係ないだろう!」


 何か変な質問をされた気がするけど……グレン様が一喝すると、皆さんハッとして姿勢を正した。

 グレン様はなぜか不愉快そうな顔をしている気がする。


「そういうわけでまだ正式に販売はしていないのですが、よろしければまた試作品をお持ちしたので、ぜひ使ってみてください」

「ありがとう! さっきちょうど腕を怪我したから、使ってみるよ」

「!」


 鞄の中から師匠が仕上げてくれた治癒ガーゼを取り出すと、一人の騎士様が声を上げた。


「使うとところを見せてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいよ」

「では、失礼します」


 騎士様が差し出したのは、腕にできた青痣。

 血が出るような傷ではないけれど、打撲も怪我よね。


 せっかくなので私がその痣に治癒ガーゼを当てさせてもらう。

 もちろん、魔法は使わない。治癒魔法を使っては意味がないからね!


 みんなが見守る中、一瞬パァ――っとガーゼが光を放った。


「……うん、もう痛くないよ」

「本当ですか?」

「ああ」


 そう呟いた騎士様の言葉を聞いて、ガーゼを取ってみる。


「おお……!」

「本当だわ、痣が綺麗に消えてる……」

「昨日は切り傷に試したが、打撲にも効果があるようだな」

「はい! 動かしてみても、痛くないですか?」

「……うん、全然平気! もうすっかり治ってるよ! 本当にすごいね!!」

「よかった……」


 元気いっぱい答えてくれた騎士様に、ほっと胸を撫で下ろす。


 軽傷なら切り傷にも打撲にも効くことがわかった。


 でも、先ほど誰かが言っていたように、毒や火傷、それから骨折などの大怪我にはどうかしら?


 もちろん、試すためにわざと大怪我を負ってもらうわけにはいかないので、今度そういう方が出たらぜひ試させ……ではなく、協力させてもらいたい。


 そういう面でも、騎士団の方たちにはこれからも仲良くしてもらいたいわ。


「あの、よろしければ、どの程度の怪我に効果があるかデータを取りたいので、引き続きご協力いただけないでしょうか?」

「もちろん! 俺たちも助かるし」

「いいよな、グレン!」

「ああ」

「よかった……よろしくお願いします」


 治癒ガーゼは何個か持ってきたので、それを騎士様たちに配り、怪我をした際に使用して、後日その効果を教えてもらうことにした。


 大怪我は負ってほしくないけど……でも、貴重なデータが取れますように。



「ローナ、ありがとう。効果は必ず報告するから」

「グレン様。こちらこそ、ご協力ありがとうございます」


 グレン様にも試作品を一つ渡して、改めてお礼を伝える。


「そういうわけだ。みんな、効果は俺に(・・)報告してくれ。俺からローナに伝える」

「なんでグレンなんだよ!」

「俺はホーエンマギーの常連だからだ」

「これからは俺も通うよ」

「俺も俺も!」

「大勢で押しかけたら店に迷惑だろう!」

「ふふふ……何かご入り用の際はぜひ、お待ちしてますね」

「ローナちゃん……」

「天使のような笑顔だ……キラキラ輝いて見える」

「ふふふふふ」


 にっこりと得意の営業スマイルを浮かべたら、騎士様たちは大袈裟に喜んでくれた。


 師匠、私はやりました! ホーエンマギーの店員として、しっかり役目を果たしましたよ!


 グレン様はお店のことを気にしてくれたけれど、繁盛するのはありがたいこと。

 ホーエンマギーには治癒ガーゼ以外にも、騎士様のお役に立つ素晴らしい魔導具がたくさんある。


「でもまさかホーエンマギーにこんなに可愛い看板娘が入ったとはね!」

「ああ、本当に。ローナちゃん、絶対行くからね!」

「はい、お待ちしております」


 騎士様は身体が大きくて屈強で、少し怖いイメージがあったけど、全然そんなことはないのね。

 いい人ばかりでよかったわ!

 これからは一人でもここに来られそう。


 ……それに、聞いていた通り、数人のご令嬢の姿が見える。

 騎士様の訓練を見学に来ているのね。


 王宮騎士団の方たちは、皆さん厳しい試験に受かった優秀な方ばかり。

 貴族の次男、三男が多いみたいだけど、グレン様のような高位貴族の嫡男もいるし、もしかしたら恋人や想い人を見に来ているのかもしれない。


「――それで、ローナちゃんには恋人はいるの?」

「え?」


 そんなことを考えながら少し離れたところにいるご令嬢たちに目を向けた私に、一人の騎士様が質問してきた。


「いえ、私は――」

「ローナ、馬車を用意してある。今日はもう店に戻るといい」


 けれど否定しようとした私の声に被せるように、グレン様が少し大きな声を出した。


「ジョセフ殿が一人で待っているだろう? 訓練の見学にはまた今度来るといい」

「……はい、そうですね」


 そうだわ。今日は突然だったから、師匠は魔法付与の仕事ができずに店番しているはず。


「皆さん、本当にありがとうございます! また来ますので、ぜひよろしくお願いします」

「うん、またねローナちゃん」


 笑顔で手を振ってくれる騎士様たちに頭を下げて、私はグレン様に誘導されながらその場を離れた。


 背中に刺さるような視線を感じた気がしたけれど……誰かしら?



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