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家を追い出されて自由になった、腹黒令嬢の新しい生き方  作者: 結生まひろ
第二章 唯一の魔導具を作りたい
22/40

22.治癒の魔導具を

「治癒魔法の力を伸ばしたいです!」


 その日の夕食後。

 師匠と向かい合って、私は思い切ってそう口にした。


「……治癒魔法」

「グレン様に聞きました。以前師匠がくれた〝願いが叶う魔法の石〟は、私の魔力に反応して子供の傷を治したのだと」

「……ほう、子供の傷を治したのか。すごいじゃないか」


 私の言葉に、今初めてそれを知ったというように目を見開く師匠。


「私には治癒魔法の素質があるということですよね? 師匠は知っていたのでしょうか」

「いやぁ、まさか。たまたまだよ」

「……本当ですか?」


 いつものように、にこにこ笑っている師匠を窺うようにじっと見つめる。


 あのとき師匠は酔って寝ていたから、私が子供の傷を治したことは本当に知らないのかもしれないけど……でも、願いを何に使ったのかも、聞かれていない。

 気にならないだけ?


 師匠はうっかりしているところがあるけれど、実はすべて計算……なんてことはないわよね?

 グレン様も、師匠はわかっていたのだろうと言っていたし……。

 でも、実際はどうなのかしら。

 こう見えて、やっぱり師匠は師匠だから。私にはまだまだ敵わない相手。


「治癒魔法なんて私にも使えない稀少な魔法だぞ。もしローナが使えると知っていたら、すぐにその力を伸ばそうとしたに決まっているじゃないか」

「……確かにそうですよね」

「そうだ。しかしローナは本当にすごいな!」

「そ、そうですか? ふふふ、ありがとうございます」


 師匠に褒められて、つい頰が緩む。


 そっか。そうよね!

 きっと、グレン様は騎士だから疑り深くて、深読みしすぎたのね!

 やっぱり師匠はあのとき寝ていたし、私に治癒魔法の素質があるなんて知らなかったのよね。


「それで、その力を伸ばしてどうする気だ? 治癒魔法が使えるのなら、宮廷魔導師になることも可能だろう」

「いいえ。私はこの力で魔導具を作ってホーエンマギーで売れないかと思いまして。私を助けてくれた師匠に恩返しができたら、嬉しいです」

「ローナ……君という子は」


 私の言葉に、師匠は感激したように目を細めた。


 ふふふ……やっぱり師匠は師匠だわ!

 グレン様は考えすぎよ。


「ありがとう、ローナ。君の力を魔導具に付与できれば、とても素晴らしいものができる。早速明日から訓練しようか」

「はい! よろしくお願いします!!」



 治癒魔法は使える人間が極端に少ない稀少なもの。

 師匠の話によると、宮廷魔導師団には使える人がいるらしいけど、それでもごく僅かな人数しかいないのだとか。


 師匠も、昔は宮廷魔導師団に籍を置いていたことがある。

 宮廷魔導師団に入ればお給料も格段にいいし、在籍するだけで確固たる地位も得られる。

 その代わりとても難しい試験に合格しなければならないのだけど、治癒魔法が使えるのなら試験は免除されるかもしれないとのこと。


 師匠が王宮に口利きしようかとも提案してくれたけど、やっぱり私はホーエンマギーで働いていたい。


 これから先の人生を考えるともちろんお金も大切だと思うけど、尊敬する師匠のもとで魔法を教わりながら、顔見知りの常連様たちを相手に、楽しく働きたい。


 魔導師団はきっとお堅くて厳しいところだろうし。……私の勝手なイメージだけど。


 それに治癒魔法の効果を付与した魔導具が完成すれば、ホーエンマギーは潤って、私のお給料も跳ね上がるに違いない。


 ふふふ……頑張るわよ!!




「――まずは魔石に魔法付与をするところからだ。下級魔石でやってみよう」

「はい!」


 翌日から、早速お店が暇な時間に師匠に魔法付与のやり方を教えてもらうことにした。


「いいかい、イメージするんだ。子供の傷を治したときのことを思い出して、君の魔力を手のひらに集めたら、石に流し込むようイメージして、送り込む」

「はい」


 そう言いながら実際に魔法付与を私に見せてくれる師匠は、とても簡単なことのように魔石に自分の魔力を送り込んだ。


「さぁローナ。やってみるんだ」

「……はい!」


 魔法は、実際にやってみることが一番の訓練になる。師匠には学生の頃からそう教わっていた。

 だから私も早速師匠がやっていたように、魔石の上に手をかざして魔力を集め、送り込んでみる。


 子供の傷を治したときのように……。私の力で、誰かの傷を治したい――。


「うう……っ」


 けれど、あのときのことを思い出してはみるものの、なかなか上手くいかない。

 魔力を手のひらに集めることはできるけど、師匠がやったように魔石に流れていってくれないのだ。


「……ふむ。まぁ、最初はこんなものだろう」

「師匠はやっぱりすごいです……すごく簡単そうにやっていたのに……」

「では魔石を握ってやってみてごらん」

「え?」


 そう言うと、師匠は私に魔石を手渡した。

 言われた通り、魔石を握って同じように魔力を送り込むイメージをする。


〝パァ――〟


「あ……っ!」

「今度は上手くいったようだね」

「はい……」


 直接触れたからか、私の魔力が魔石に流れ込んでいくのが自分でもわかった。


 なんだ、最初からこうすればよかったんじゃないですか!

 もう。師匠ったら、わざわざ難しいことをさせようとするんだから。


「……おお、確かにこの魔石には治癒の効果が付与されたようだ。君が子供の傷を治したように、この魔石を使えば軽傷程度なら治癒できるだろう」

「本当ですか!」


 師匠には、魔石や魔導具に備わっている魔力を鑑定する力がある。

 私が魔法付与した魔石を手に取り、感心したように呟いた師匠に、私は心の中で飛び跳ねた。


 やった、やったわ!

 魔石に治癒魔法を付与できた!


「これを応用して、傷を治せる魔導具を作ることもできるでしょうか?」

「魔導具に、か……。一般的にその力は回復薬として使うことが多いが……」

「薬ではなく、このお店で販売できる魔導具にしたいです」

「ローナ……」


 回復薬を作って売るとなると、薬を扱う資格が必要になってくる。宮廷魔導師団に入団すればその資格を持つ人がいるから、魔導師がいちいち資格を取る必要はないようだけど。でも私はこの力で魔導具を作りたい。

 魔法付与したこの魔石を直接売ってもいいかもしれないけれど、うちは魔導具店。もっと便利で使いやすい形に変えて販売できたら、唯一無二のものになる。


「……ありがとう。そうだな、治癒魔法を魔導具として使うことも可能だろう。いい方法を考えておこう」

「はい! よろしくお願いします!」


 魔導具は、魔力が強い者が付与した特別な魔石に、人が元々持っている魔力を流すことで使用できる。

 微量な魔力で、強い作用をもたらすことができるというわけだ。


 師匠ならきっと、素敵なアイディアを考えてくれるに違いないわ!



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