20.明日から、また
「ずっと君を捜していた。あのときの少女に、礼を言いたかったんだ。ローナ、君で間違いないよね?」
「……私だと思います」
「やっぱりそうか。あのときは本当にありがとう。君は母上を亡くしたばかりで辛い思いをしていただろう? それなのに、俺の命を救ってくれた」
「大袈裟ですよ。それに、当然のことをしただけです」
「君にとっては、覚えてもいないほど当たり前のことだったんだね。やはり君は優しい人だ」
「そんな……」
「これを君に」
「……?」
そう言うと、グレン様は懐から何かを取り出した。
「大したものではないが、受け取ってくれるだろうか?」
「これは……魔石のアクセサリー?」
差し出された箱を開けると、中にはストロベリーピンクの可愛らしい魔石が付いた、ネックレスが入っていた。
「素敵……」
「気に入ってくれた?」
「とても……。これを私がいただいてよろしいのですか?」
「ああ、君に似合うと思って買ったんだ」
これはたぶん、以前一緒に魔石店を訪れた際に買っていたものだと思う。
でもまさか、私に贈るために買っていたなんて。
「ジョセフ殿に魔法付与を頼んだのだが、自分でやってみてはどうかと言われて。それで時間がかかってしまった」
「それではこのネックレスには、グレン様が魔法付与してくださったのですか?」
「ああ、俺程度ではまだまだ大した付与はできないが……君の身の安全を願って、付与させてもらった。いつでも君を守ってくれるように」
「グレン様……」
すごいわ……。騎士様が魔法付与してくださったネックレス。
とても心強い。すごく嬉しい。
「ありがとうございます。お守りにします!」
ネックレスを握りしめてお礼を口にしたら、グレン様も嬉しそうに微笑んでくれた。
グレン様こそ、本当にお優しい方だわ。
そんな昔の話なのに、ずっと覚えていて、私を捜してくれていたなんて。
「……ですが、今の私は自分の得を考えて動く人間になってしまいました。私はグレン様が思っているような女ではありません」
でも、だからこそ、そんな優しい人に勘違いされたままではいけない。
そう思い、改めて白状したけれど、グレン様は軽く笑ってそれを否定した。
「俺は君の優しさを本物だと思っているよ。君がなんと言おうともね」
「ですが……」
「知っているかい? 君が以前怪我をした子供に使った、願いが叶う魔石。あれは、心の綺麗な人にしか使えないんだよ」
「え?」
「やはりジョセフ殿から聞いていないんだね」
「……初耳です」
心の綺麗な人にしか使えないなんて……師匠ったら、一体どんな仕掛けをしたのかしら。
もし私が使えなかったらどうするつもりだったの?
……もしかして、私を試したんじゃないでしょうね?
いえ、私になら使えると信じていたのかしら。
「それに、どんな願いも叶うわけではない。君の魔力に反応して、あの子の傷は治ったんだ」
「私の魔力……?」
「そう、人には皆それぞれ得意な属性があるが、君にはとても珍しい、治癒魔法の素質があるということだ」
「……え!」
治癒魔法が使える者は、とても稀少。
一般的に怪我をした際は、薬草で作られた傷薬や回復薬が使われる。
薬草なしで、魔法だけで傷を癒やせる者は、そういるものではない。
師匠にだって、使えない魔法だ。
「だから君に手当てしてもらった俺の傷は、すぐに治ったんだな」
「そうでしたか……」
「ジョセフ殿にはわかっていたんだろうね」
「もう……師匠ったら」
でも、私に治癒魔法の素質があったなんて。
もしかして、この力を伸ばしていけば、私にしか作れない魔導具が作れるのでは……?
そうよ。傷を治すことができる魔導具を作ってホーエンマギーで売れば、とっても繁盛するはずだわ!
助かる人も大勢いるはず!
「……随分嬉しそうだね」
「はい! この魔法がちゃんと使えるようになれば、師匠に恩返しができます……! それに、たくさんの人を助けることができますよね?」
「そうだね」
ふふふ、そうすれば私がここにいる価値を見いだせるわ!
また師匠に恩を売れるし、たくさんの人に感謝してもらえる!
「私、明日からも頑張ります!」
「ほらね。君は本当に人助けが好きなんだよ」
「えっ」
グレン様はそう言ってまた嬉しそうに笑った。
私は人助けが好き……?
人を助けると、「ありがとう」と感謝されて、お礼に私もいい思いをできることがある。
結果的に私の居心地もよくなる。
だから自分の得のためにやっていることだと、思っていたけど――。
「とにかく、明日からもこの店にいてくれるよね?」
「……はい、師匠がいいと言ってくれるなら」
「よかった。俺は、これからも君のことを応援しているよ」
「ありがとうございます」
お店を閉めたら、改めて師匠と話をしなくちゃ。
師匠が本当にすべてを知ったうえで私を置いてくれていたのか、治癒魔法をどう活かしたらいいか。
「……それから、これからはもう少し俺のことも見てくれると嬉しいな」
「え――?」
そんなことを考えていると、グレン様が少しだけ不満げな声を出した。
どうしたのかと彼を見上げた直後。グレン様は紳士的に腰を折ると、私の手を取りその甲に優しく口づけを落とした。
「……グレン様!?」
「明日から、またよろしくね」
「…………はい」
思考が停止したまま頷くと、いつものような爽やかな笑顔でにっこりと微笑まれる。
そんなに嬉しそうな顔をするなんて……。
ドキドキと鼓動が高鳴っているし、身体が熱い。それになぜだか、無性に胸の奥がきゅんと疼いた。
ここまでで1章完結です!2章も予定しておりますが書き溜めがないです!( ;ᵕ;)(頑張ります)
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新作短編書きました!
軽く読めるお話ですのでよろしければぜひ!!(*^^*)
『私にベタ惚れだった婚約者が結婚式前日に記憶喪失になって「君を愛することはできない」と言い出しました。……本当にいいの?』
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下からもいけます!