猫のおっぱい
霜月透子事務総長様の『ひだまり童話館』『開館9周年記念祭』に参加しています。
9の話です。
「みゅー、みゅー」
お腹が空いた。私はいつもお腹が空いている。
なぜなら、私は九番目の子だから。
猫のおっぱいは、八個しかない。たまに六個の猫もいるそうだ。
これは、たまに顔を出すお婆ちゃん猫から聞いたんだ。
だから、常に私はお腹が空いている。他の猫が飲んだ後で貰うからだ。
「もう餌を探しに行かなきゃ!」
やっと飲んでいたら、お母さん猫は立ち上がる。
「ミャア! ミャア!」
七番目と八番目の猫も、あまり良いおっぱいに当たっていないので、良いおっぱいで飲んでいたから、文句を言っている。
「お腹が空いたら、おっぱいをあげられなくなるわ」
お母さん猫も痩せている。このままでは、お母さん猫も死んじゃうかも。
「あんたは、何処かに行ったら?」
七番目の猫に意地悪を言われた。まだお腹いっぱいじゃないから、八つ当たりしているのだ。灰と茶色のキジトラ姉ちゃんだ。
「そんなことを言うなよ!」
一番目の猫は、お腹がパンパンで眠そうに仲介してくれた。真っ白なお腹と茶色のシマの背中。可愛いお兄ちゃんだ。
「そうだよ! お母さんが悲しむよ」
二番目の猫もお腹いっぱいだから、優しくできる。全身、茶トラの格好いいお兄さん。
「でも、おっぱいは八個しかない。九匹は育てられないのかも」
三番目は、お婆ちゃん猫に似ているから、可愛がられている。綺麗な三毛猫のお姉ちゃん。
「眠い」四番目は、一番身体が大きい茶トラ姉ちゃん。いつも、寝ている。
「誰かにおっぱいを貰ったら?」
五番目は、しっかり者の白茶トラ。白が多くて、のんびりした顔立ちだけど、お姉ちゃんとして一番頼りになる。
「隣の空き地で、三毛猫が子猫を産んだみたいよ」
六番目は、好奇心が旺盛な、ほぼ白猫。尻尾の先に、茶色のシマがある。このお姉ちゃんは、多分、一番先にこの巣から出ていくのだろう。
八番目が「一緒に行ってみよう!」と私を誘う。鉢割れの可愛い茶トラの兄ちゃんだ。
「うん」このままでは、多分、私と八番目は大きくならずに死んでしまうのだろう。
三毛猫お婆ちゃんが、そう話していた。
私と八番目で、お母さん猫の巣から恐る恐る出ていく。
ここは、元は倉庫だったみたい。埃がいっぱいだけど、雨には濡れない。だから、お母さん猫は、ここを巣にしたのだ。
「ここから、出たら戻れなくならないかな?」
もしかして、六番目は邪魔な二匹を追い出したかったのかも。
私は、一番苦労をしているから、性格が少し捻くれている。それに……見た目も良くないそうだ。
「あんたは、人間に拾われる可能性は無いね。不細工だから!」
お婆ちゃん猫は、配列が綺麗な三毛猫だ。私は、同じ三色なのだけど、ガチャガチャした模様で、サビ猫と呼ばれるみたい。
「八番目は可愛いから、人間に拾われるかも」
「ええっ、人に飼われるのは嫌だな! 雄だと、すぐに去勢されるとお婆ちゃんが言っていたよ」
それは、雌でも一緒だと思う。
「でも、餌は貰えるかも?」
「それは……良いかもしれない。でも、怖い人もいるって……殺されるのは嫌だよ!」
確かにね。生まれたばかりだもの。
「良い人か見極めたら良いんじゃ無いかな?」
どうやって見極めるのか、私にはわからないのが問題だけどね。
「それより、隣の空き地のお母さん猫におっぱいを貰えるか聞いてみよう!」
そうだった! 目的を忘れかけていたよ。
倉庫の壁の穴から、外に出たけど、隣の空き地までは遠そうだ。
「六番目についてきて貰ったら良かったのかも?」
八番目は、もう帰りたいみたい。私よりは、多くおっぱいを飲んでいたから、眠くなったのかも。
「もう帰って良いよ。私は探してみるから」
私は、まだ空腹で眠れない。それに、このままでは死んでしまう。
「そうしようかな?」
鉢割れの茶トラ兄ちゃんは、素早く穴から巣に戻った。
これで一匹になっちゃった。多分、私は要らない子猫なんだ。
隣の空き地へトボトボと向かう。多分、シャーと怒られて、追い払われるだろう。
かなり歩いて疲れた。ここが隣の空き地なのかもわからない。眠くなってきた。
「ミャア!」お母さん! 多分、このまま死んじゃうんだろう。最後に会いたかったよ。
「まぁ、どうしたの?」
お母さん猫ではない三毛猫お母さんだ。
「お腹が空いたの」
「仕方ないわねぇ」と横になってくれた。
これって飲んでも良いんだよね!
「お腹いっぱいになったら、帰りなさい。お母さんが心配しているよ」
眠くて仕方ないけど、グィグイ押されて立ち上がる。
「ありがとう……」
ふらふらと歩いていたけど、眠くて寝ちゃった。目を開けたら、真っ暗だ。
「ミャア! ミャア!」
巣の場所がわからない。暗いし、寝たから、どちらに倉庫があるのか全くわからなくなった。
寒くて、お腹も空いてきた。
「ミャア! ミャア!」
声を上げて、お母さんが気づいてくれるのを待つしかない。でも、もう無理かも? やはり、私は大きくならないのだ。
「九ちゃん! ここにいたのね! 心配させないで!」
お母さんが怒っている。ぎゅっと首の後ろを噛んで持ち上げられた。
脚をきゅっとしないと、運び難いから、丸くなる。
巣に帰ると、他の子猫達は眠っていた。
「お腹が空いたでしょう」
今夜は、お母さんのおっぱいをいっぱい飲んで眠れた。
明日からは、頑張っておっぱいを飲もう!
おしまい