不可解な言動と瞳の人外だったか
すでにあたりは薄暗く、細い糸のような笛の音だけが闇に吸い込まれていくようだ。
空絵師一行は、昼間に見た時と同様にゆっくりと歩を進めていた。
門で家中の者に案内されてからは、笛も止み、屋敷のなかの静寂がさらに際立った。
しばらくすると案内を済ませたセンがシンの所へ戻ってきた。
「入られました。」
シンは何も言わず、ゆっくりうなずいて会合の間へ向かった。
サイは手をついて礼を示す姿勢のままシンを待っていた。
「おもてをあげられよ。」
座ると同時に発した言葉にもサイは姿勢を変えようとしない。
「どうした、聞こえなかったか?」
もう一度、声をかけてようやく静かにサイは顔を上げシンを真っ直ぐみつめた。
その目にシンは、わずかに狼狽した。
光を反射し、輝くような髪に透き通るような白い肌の中央には、姿勢を変える度に色を変える玉虫色の瞳がこちらを見ていた。
脇に座る家中の者から小さく声が漏れる。
やはり美し過ぎる。目の前にいる人間の存在がにわかに信じがたい。
人ではないのだろうか。
「恐れ多くも人形使い様の家中でごさいます。」
一瞬、何を言っているか分からなかった。
「礼儀はいい、用件を聞きたい。」
「私は空絵師の家の第三席を預かるサイと申します。使者よりお伝え致しました通り、人形使いシン様にお目通願いたい所存でございます。」
まどろっこしい、自己紹介しろとでも言うのか。
「シンは俺だ。」
やや間があった。
「シン様は当主様でしょうか?」
この人外は、さっきから何を言っているんだ。人の言葉を解さないのだろうか。
「だったら何だ。」
シンの言葉で、サイの後ろに控えていた取り巻きたちがわずかにざわついた。
脇に詰めていたゲンが耳打ちしに近寄る。
「やつら当主がシンだと知らずに来たのでは?」
ゲンの推測はあり得ないように思えるが、その推測以外にざわつく理由が思いつかない。
当主に会いに来たのではないのか?
その時、わきの襖が静かに開いて、祖母が悪びれる様子もなくいまさら入ってきた。
「遅れました。シンの祖母、ギンでございます。」
シンの隣に座ると簡単に自己紹介した。
「それでどこまで話しは進みましたかな?」
「いや、まだ何も。俺がシンだと言っただけだ。」