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酒を飲む口実が欲しいだけなんじゃないのか

 人形使いの家は、分家も本家もまとめて分け隔てなく一つの屋敷で生活している。

 だからシンは幼い頃から一緒に遊んでいたゲンが分家で自分が本家だと知ったのは、人形を操り始めて何年も経ってからだった。

 シンだけでなく、同じ屋敷の中で暮らす人々も自分たちが分家ということは知っているが、ただそれだけという程度でしかなかった。

 その理由としては、今では本家と言えるのは当主のシンとその祖母ギンのたった二人しかいないことが大きな要因となっている。

 そのような生活が営まれている広大な屋敷の中には、普段は別々の家族たちが集まるための集会場があった。

 今回の空絵師の件についてもこの集会場を使うことになった。

 昼間のこの場所は、柔らかく陽の光が入り、どこか牧歌的とも感じさせる平和な雰囲気に包まれていた。

 集会場のそんな雰囲気とは対照的に一夜明けてもシンの祖母に対する苛立ちは消えていなかったが、普段から似たようなものだ。

 すでにかなりの人数が思い思いの場所に腰掛けて、シンが来るのを待ち構えていた。

 どかどかと足早に入室し、中央付近に腰掛けたシンは周りを見渡した。

 思いの外、この件に関心があるみたいだ。

「会合に同席していた者からすでに聞いているかも知れないが、空絵師がこの家と婚姻を結びたがっている。」

 集会場全体に響くような大声で注目を集めた。

 シンの声を聴くと、あちこちで歓声や指笛が鳴る。

「やったな大将!」

「空絵師は見る目がある!」

 ん?

 何か思っていた反応と違う気がする。

「待て待て、空絵師は婚姻と言っているが、どうもきな臭い。」

 そこまで言って、シンは奥にいる中年どもが酒盛りをしていることに気づく。

「人形使いの益々の発展を祝おう!」

 そう言って盃を持ち上げたのは古株のアザンだ。

 アザンの声に地響きのような声が上がる。

 アザンの周りを祖母が動き回り、あちこちで酒を配っている。

 あのババア、また余計なことをしている。

 いや、おそらくアザンは祖母に懐柔されている。

 あっという間にシンのそばまで寄ってきたアザンは、シンの目の前に盃を勢いよく置いた。

「お前は血生臭すぎる。嫁を取るといいとは思っていたんだ。」

 アザンがむさ苦しい髭面を寄せてきてわめく。

「やかましい、大きなお世話だ。」

「それは俺も思っていた。お前は女気がなさすぎだ。」

 横からゲンが口を出す。

「お前は黙ってろ。」

 だが、周りからは、そうだそうだという合いの手が入る。

「誰か酔っ払いどもをつまみ出せ。婆さんもそれ以上酒を配るんじゃない」

 忙しなく動き回る祖母に向かって声を張り上げる。

「何言ってんだい、孫を祝ってくれてるのに酒を配らないババアがどこにいる。」

 全く言っている意味は分からないが、分かることはやはりちゃんと痛めつけておくべきだったということだ。

「真面目な話、シンよ。」

 アザンが真顔で盃を置く。

「空絵師が何かを企んでいたとして、天下無敵の人形使いが何を恐れることがある。お前の後ろには我ら郎党もついておる。千手のギンと呼ばれたオババもほれ、あの通りまだまだ健在よ。」

 見ると、祖母は巨大な酒樽に直接口をつけて酒をラッパ飲みしている。

 周りは止めようともせず、むしろ祖母が飲む調子に合わせて手を叩いて盛り上がっている始末。

「ババア、死んでも知らねえぞ。」

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