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奴隷を買ったらハーレムになった(同一人物)

奴隷を買った。


というのも特に理由はない。たまたま立ち寄った国で、たまたまルーレットで大勝ちした。


そしたら胴元に奴隷商を紹介され、購入に至った、という次第だ。


軽蔑されても仕方ないとは思う。だが、悪感情はお互い様で、これまでの艱難辛苦はすべて貴様のせいと言わんばかりの目でこちらを睨んでくる。


ともかく、特に正義感に燃えるわけでもなく、まと、特に罪悪感を抱くわけでもなく購入した彼女と、どこまで打ち解けられるかな、等と考えていた矢先ーー。


「ご主人様に向かってなんたる態度!不敬っ!死ねっ!死にさらせぇ!」


ちょっと目を離した隙に、件の奴隷がマウント取られてボコボコにされていた。


しかも殴っている方も、同じ顔。


「……双子を買った覚えはないんだがなぁ……」


俺の困惑は空に溶けていく。


「で、君は何者なのかな。まあ、自分そっくりの顔をした奴隷がいたら、そりゃ心穏やかにはいられないだろうけど……」

「いいえ、間違っていません。私は確かに、ご主人様が購入した奴隷ですわ」


お巡りさんはどこだろう。奴隷を自称する少女に纏わりつかれている。


「ただし!このタイミングで購入した、そこの無礼者とは違います。私は一ヶ月後の世界からやって来た、あなた様の奴隷なのですっ」


鼻息荒く、頭突きするような勢いをなんとか押さえ込みながら、少女たちを見比べてみる。


確かに顔形は同じだ。服や髪、肌といった清潔さや衛生面は、一ヶ月後の彼女の方が勝るが、ある一定の生活をしていたら多分こうなるだろうな、くらいの類似は見受けられる。


「じろじろ、なに?」


ビフォーアフターの前者がこちらの足元に唾を吐く。


間髪入れずに、ドレス姿のアフター少女(そういやまだ名前も聞いていない)が一ヶ月前の自分の足を掬い上げ、流れるようにマウントに移行する。ボギッ、とバイオレンスな音がするので、慌てて引き離す。


「なんてことするんだ」

「放してくださいませご主人様!これは指導というものですわ!」

「自分で自分を殴るでない」


どうなってんだこの状況。


「……バカみたい。ご主人様ご主人様って、犬みたいに尻尾ふってさ。プライドとかないの?」


血の混じった唾を吐きながら、ついでに悪態をつく少女に、一ヶ月後の彼女は鉄壁の胸で侮辱を跳ね返す。


「でしたらあなたは自分をあの環境から救い出してくれた人へ、見事な礼儀を披露するとんだ恩知らずですわね」

「どうせ、嫌らしいことをするために買ったに決まってんでしょ。それが恩?笑わせないで。大体私は、あんたを私だなんて認めてないし」

「……一ヶ月も経つのに、ご主人様は私の気持ちに答えてくださらないのです!」

「ぜっったい認めないし!」


急に賑やかになってきた。さっきまでの塩対応に比べれば遥かにましだろう。


いくつか疑問は生じる。常識的な疑問もあるが、好奇心がそれを押し退ける。


「……たかだか一ヶ月でそこまで豹変……もとい熱意を寄せられれば、男は誰だって及び腰になると思うけどなあ」

「そうですわね。では結婚しましょう」

「人の話聞いてた?」

「けっ……!?」


「そもそも君は、どうして一ヶ月前に戻ってきたんだい?なにか理由があるとか?」

「ええ。私の運命を左右する、重大な出来事を変えるために、私は過去へと降り立ったのです」

「深い理由があるんだな」

大きく頷いた彼女は、フリルがついたドレス状のスカートで仁王立ちして、強く地面を踏みしめる。

「そう……ご主人様に反抗する私自身を矯正する、という尊い使命がーー!」

「はい、お帰りはあちらですよー」

「どっちよ、バカ」


「私とご主人様のファーストコンタクトは最悪の物だったと思うのです。ですからベターなものにしてしまえば、私とご主人様は、もっとスムーズに深い仲になれるはずなのです!」

「僕には君がマウント取ってた姿が衝撃的すぎて、まだ度肝を抜かれてるんだけど」

「なっ……それではご主人様と私は、ムスバレナイ……?」

「そもそも奴隷を買ってその子と恋仲になろうとするなんて、それこそ軽蔑されるべき気がするんだけどなあ……」


などと呟いていた最中の事。

急に視界が翳ったと思いきや、そのまま煉瓦造りの地面に叩きつけられる。顔を上げれば、鼻と鼻がぶつかり合うような距離に、虚ろな目をしてよだれを垂らす少女の顔。


「えーっと、君は……?」

「私は二ヶ月後からやって来ました奴隷ですわ……ご主人様をドン引きさせてしまったので、この際無理矢理に既成事実を作ってしまえばハッピーエンドになれると思いまして、馳せ参じた次第ですわ……」

「うん、馳せ参じたって言うならまず僕の上から降りてくれないかな」

「申し訳ございません、私腰が抜けてしまいまして、ここから一歩も動けなくて……」

「そうかあ」


後ろで騒ぐ声がする。醜態を批判する声かもしれないし、無責任に煽る声かも知れなかった。


ふと考える。今から彼女を店に返しに行けば、このカオスな状況から逃れられるのでは……。


次の瞬間、僕の上に跨がっていた少女が吹き飛んだ。


「ご主人様っ!私を捨てないでくださいませっ!」

「あー、やっぱりかぁ……」


この無限に増えていく少女たちを、どうしたら元の時間に送り返せるか。僕の頭の中は今、それだけだった。



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