叶わぬ恋のはずなのに・・・
俺達は帝都に入った。
帝都は賑わいを見せているように見える。
「皇帝が死んだのに呑気なものだな。」
「死んだことは公表されているそうですが、普段通りに生活しろとの通達だそうですよ。」
「なるほど。」それで経済活動を停止するわけには行かないよな。
美味しそうな食べ物や、見たことのない食べ物がある。
俺はそんなものを食べたくて涎垂らしたりする、目もランランだ。
「テト様はまだ赤ちゃん、食べられませんよ!」と俺はツクモさんが画面越しに涎を垂らしているのが見えた。
「ツクモさんもね!」と親指を立て返しておく。
「あらら。」自分の涎に気付いたのだろう。拭っている。
ツクモさんが見ていたのは美味しそうなクリームたっぷりのデザートだろうか胸焼けしそうだ。
「ははは。ツクモさんも美味しいものに目がないんだね。」と俺は笑うのだった。
「ええ、この形態では腹は減りませんが、別の形態にもなれますからね。」と答えるツクモさん。
「別の形態?」
「私をなんだと思っているんですか?」と聞いてきた。
「うーん、便利なナビ?」俺は考え、可愛い仕草をして答える。
「違います。一応精霊ですよ。」と答えた。
そう言えば前にそんなことを言っていたような気がする。
「本当に?」
「本当ですよ。」
俺は悪戯的な精霊のイメージをする。
「ああ。」とポンと相槌を打った。納得いったのである。
「そのイメージは違います!」
否定してくるツクモさんをいなしながら、俺達は帝都の中を進んでいくのだった。
ダストとウッテの手配書がたまーに張っているのを見つける競争を俺はツクモさんに提案して一緒に探して遊んだ。
「ふむ、ちょっと寄り道して行きますよ。」と言ってクロンと離れて、ゴースは店の店主と話す。
「何かあったのですか?」と肉の串焼きを頼む。
「皇帝が死んじまってな、悪くはなかったんだけど・・・良くもなかったからな。悲しめずに皆、複雑な顔だったんだ。」と串焼きを焼きながら答えた。
「だったとは?」ゴースは疑問に思ったのだろう聞いてみる。
「あーあ、第三皇子殿下が俺達に普段通りに生活してくれと、声明を発表してから活気を取り戻した。次期皇帝は皆、彼だと思っている。帝国の未来は明るいな。」
「なるほど。」と何かに得心がいったようだ。
「はい、お待ちど!オークと大鶏の串焼き四本ずつだ。」
「ああ、ありがとう。」
「彼女さんにもよろしくな!」とウィンクしてくる。
「ああ。」と後ろにいるクロンに向かって歩き出す。複雑な顔をしていた。
「ゴースさ。」と呼ぼうとした口にオークの串焼きを放り込んでやった。
私が店主と話している間に露店で何か買ったのかもしれない。
「もごもごもご。」とやっている。
大人しく食べ始めた。
「ふふ。」そんな姿を見て笑う。
なんかすっきりした顔をした。
この子を紹介されたのは王国辺境伯の屋敷に兵士として雇われた時だった。
前任者に帝国との繋ぎとして紹介されたのだ。
彼女は普通に可愛い子だった。
そしてその前任者はその日の内に辺境伯領都ラーズを脱出。
しかし、ドジを踏んだのか王国の暗部に殺されたらしい。
私たちは二人でこの辺境伯の情報を集めないといけなくなった。
彼女クロンは優秀ではなく、ドジを踏んでしまうほどの愛される存在だった。
私は任務を通じて彼女を好きになっていたと思う。
しかし、彼女にはもうウッテ君と言う好きな人がいた。
帝国のスパイと王国の兵士、そんな恋が叶うはずないと私は思っていた。
そのことで思い悩み苦悩する彼女。
私はそんな彼女を励ます事しか出来なかった。
いや、何度ウッテを暗殺してやろうかと思ったくらいだ。
影ながら殺気を私が放てば、彼はビクッとなって周りを見回していた。
そしていつも不思議そうな顔をしていた。
そして彼はお酒に溺れるようになる。
私はなんとなく彼がクロンの正体に気付いて、お酒に逃げたのではないかと思った。
二人の恋がうまくいかないことを察知しての事だろう。
それに私は同情した。
二人の恋が決して実らなくとも・・・二人は別れる。
そんな時までは応援してやろうと決めたのだった。
私はクロンを妹のように接することに決めたのだった。
それからの日常は私と同じ名前のゴース様に取り入り、兵の中でうまく出世して行った。
やりたいことをやれる立場まで来たと思う。
その情報を帝国に流し、ダストと帝国とのパイプを作り、それとなくゴースを言い含め。
ダストに決起を促す。帝国側による完璧な辺境伯領乗っ取りの計画だった。
どうして失敗してしまったのか今でもわからない。
いや、たぶん擁立した二人があまりにも出来が悪かっただけなのだろう。
妹に別れを告げずに去るのは忍びなかったが、去るしか道はなかった。
辺境伯領を混乱させるという本当の目的は達成されたのだ。
これ以上を望めば命はないだろう。
そう思い、私はここを去る決意を固めた。
その手土産に領主の息子を帝国に献上しようとした策も破れ。
そして王国の子爵領に流れ込み、今度は男爵領の混乱に手を貸して・・・
本国から召喚状が届いた。
王国中にいるスパイ全員にこの召喚状が届いたのである。
私は再びクロンに会う事ができると歓喜した。
ここでウッテの事を諦めていたら私は・・・と考えていた。
なのに・・・そのそばにウッテがいた。
私は負けたと悟ったのだ。
ウッテはクロンを追って王国を出てきたのだ!
これほどの思いを持っていたとは!
私はウッテの肩を叩いて、今日は飲むぞ!と気合を入れようとして三人に近づく。
しかし、ダスト様ウッテ君、共々クロンに殴り飛ばされ星になり行方不明になるとは・・・
そして懸賞金を掛けられて、私は笑うしかなかった。
ダスト様共々!
まぁ妹の前でウッテのことを笑うわけには行かなかったが・・・
しかし、これほどの思いだったとは、そこに懸賞金額、金貨一億枚。
「貴方は・・・そこまでの思いでクロンさんを追いかけてきたのですね。」
胸にジーンときながら、机を叩き、そして笑いは止まらなかった。
「ふふ。」と今でも思い出し笑いをしてしまう。
「?」と言う顔をするクロン。
私はそんな妹をなでてやるのだった。
私たちは百人ほどの集まりに参加していた。
どうやら分けられて別々に、次の任務に当たるらしい。
私とクロンも分けられてしまう。
「それじゃまた。」と声をかける。
「待って、これあげるね。」と私の手の中に万年筆が握られていた。
「へへ、ゴースさんのことお兄ちゃんみたいだって思ってて、いつもお世話になっていたから感謝の気持ちです。」と言って照れながら渡してきた。
私は戸惑いながらそれを受け取った。
「それじゃ。」と言って私のもとから去って行くクロン。
去って行く彼女を見続けていた。
私はそんな彼女を止めなかったことを後悔する。
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