融合
俺は人型をローラータイプに換装した。
ツクモの自動操縦で、ある場所に向かっている。
俺は空を見上げていた。
煙が見える。
「遅かったか?」と呟く。
「スピードを上げます。」と加速する機体。
俺はモニターでエルフの子供の様子を見ている。
どうやら泣きじゃくっているようだ。
俺は目を閉じた。
そこでは家々に火の粉が舞い踊っていた。
兵士たちが獣人たちの死体を跨いでいる。
生き残りがいないか・・・探しているのだろう。
家々を火で炙って燻りだそうとしているのだ。
熱さにに耐えかねた獣人の少年が家から飛び出してきた。
それを追う両親。
「死ね!」とその両親の背中を騎士が切り裂こうとして、恐怖する子供。
その騎士の顔はこの世の人の顔ではない愉悦の表情だった。
しかし、それは届くことはない騎士が吹っ飛んだ。
「召喚!」と俺は亜空から獣人を召喚した。
「えっ?ここは私たちの故郷!」と驚愕するシェリー。
それに女頭目のハル。
それにつき従う獣人の女達。
目の前の死体を見て、状況を察したらしい。
戦闘態勢に入る。
「どうしてこんな!」と泣き崩れるシェリー。
シェリーにはまだ、きつかったかと反省した。
「シェリーしっかりしろ!」とそんなシェリーを叩くハル。
「ハルお姉ちゃん。」とそんなシェリーに笑いかける。
「シェリーまだ生きている人達がいる。その者たちのため戦うんだ!悲しみに暮れるのはその後にしろ!」と戦士の覚悟を問いただした。
「・・・わかった。」と涙を拭い立ち上がる。
「よし、いい子だ。」とシェリーをなでてやる。
「小隊ごとに散会。」と命令を降した。
各々が各地に飛び出していった。
俺はその間、空に向かって魔力を込めていた。
ぽつり、ぽつりとその効果が出始める。そして・・・
「レイン。」と唱えた。そして雨が降ってくる。
火は瞬く間に消えて行った。
貴族は濡れるのを嫌がり撤退したみたいだ。
各地に散った獣人の女盗賊たちは、女頭目のハルに報告をしていた。
「こっち側は全滅だった。」と力なく項垂れるもの熊の獣人。
「こっちは三人だ。後はもう。」と悔しがり夜空を見上げた狐の獣人。
「あっちもいなかったぜ!くっそ!」と物に当たる虎の獣人。炭の家が崩れた。
「あの先は行かない方がいい。」とペッたんと兎の耳が項垂れていて恐い顔で言う。
「一体どうしたんだ。」とそちらに向かおうとするハル。
兎の獣人はその肩を掴んだ。
「行かない方が言いと言った。」
「私だけは知る必要がある。」とその手を振りほどいた。
兎の獣人は恐さで震えている。
それを抱き締めてやる狐の獣人。二人は雨の中、泣いていた。
ハルはその光景を見て絶句していた。
それはもう言葉に現せないほどの行為。
「どうしてこんな、こんなひどいことができる!」と地面を叩き続けるハル。
「誰か教えてくれ!私たちが獣人に生まれたからか・・・それでも人はなんて愚かで、浅ましいんだ!私たちの家族を返してくれ!」と叫び続けるのだった。
俺はツクモの人型の中で吐いていた。
「大丈夫ですか。」と聞いてくる。
「ああ、と返事をする。」
俺はこの光景に祈りを捧げることしか出来ないのだろうか?
「では、やることをやりましょう。」
「はぁー。」と俺は困惑する。
「そりゃ死体の片付けをしないといけないけど・・・」とこのグロいのを片付けるのかと思うと、また吐きそうだ。
「違いますよ。さっさと亡くなった魂を眷属化してしまいましょう!」
「はっ?何言ってんの?」と俺は聞き返す。
「忘れたんですか?わ、貴方は神なんですよ!ある程度の事象なら捻じ曲げて、元の形に戻すことができます。」途中なぜか言い間違えそうになったが、要するに・・・
「魂を集めて元の肉体に戻せってこと?いや元の肉体って・・・」それがわからない。
時間でも逆行しろってことか?
それはあまりにも節理から外れ過ぎている。
なんとなくだけど、それだけはやっちゃいけないと囁いてくる。
「ならどうするか?」
人形に魂を定着させるか?
いや、今死んだばかりのものを生命体以外のものに宿らせることは、結局のところバンやミキシアと同じになる。目的を達して満足した後に崩れてしまう。
もう少し長生きできる生命体を作り出さないといけない。
「ホムンクルスか?」あれはあまりにも魔力を食いそうだ。
はっきり言って倒れてしまう。
できるかもしれないが、そう何人もできるものではない。
となると生き物で人型に近くそれなりに行動ができる。
ゴブリンやオークコボルト、ダメだ。どれも魔力量を食いすぎる。
もっと低コストで百体くらいまかなえるモンスター。
魂を漂着させて頑張れば長生きできるそんな都合がいいモンスター。
「うん、スライムしかないね!」
最初は弱々しくていい。
だけど、強くなれる。存在進化を狙っていく。
それで人型まで持っていくしかない。
魂よ。俺の元に集まれ!
そう願った。ここにいる魂すべてが俺のもとに集まった。
正直見分けが付かないけど!
その魂達は光輝く、俺を主と決めたようだ。
その光を獣人たちは見ていたのかもしれない。
見れない光をこの一瞬だけは・・・見ていたのだろう。
「魂よ新しく生まれ変われ!スライムに転生だ!」俺は手を空に掲げた。
雨が水の塊になり、魂達に降り注ぐ。
そして融合を始めた。
俺は手をギュッと握った。
「掴め!新たな生を!お前たち自身で!」溶け合いそして混ざりあった。
「フュージョン!」手を開いた。
そこにはプルプルした。
正真正銘の獣耳と尻尾のスライムがいた。
「あれれ?失敗した?どうしよう?」
飛び跳ねているスライムを見て途方に暮れる。
「まぁいいか。」
「良くありません。」
現実逃避をさせてくれないツクモさんだった。
そして雨は上がった。
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