お前にとっての疫病神!
俺の首を切った貴族はやってやった顔をしていた。
しかし、よく見れば平然とそいつは立っている。
「なぜだ!なぜお前は立っている!」と声を上げる。
確かに切ったはずだった。
その貴族は刃物を見て、血の一滴も付いていないことに気付く。
「切ってないだと!」と驚き、剣を振り出した。
その男は剣をやみくもに振ってくる。それは全部当たっている。
カーン、カーンと言う音がしながら・・・
まるで剣を合わせている音のようだ。
「お、お前たち攻撃しろ!」
と兵士の皆が攻撃した。
その剣は当たっている。
しかし、どれも効いてない。
「なぜだ、どうして、何なんだお前は!」とそこでフードが脱げた。
その顔は黒髪を地面までなびかせている男だった。いや女なのかもしれない。
それに後ずさる兵士たち。
「どうしてここに・・・黒髪が!」
「疫病神、憑かれたのか!」
「殺してやる!」とそれぞれ声を大にして叫んでいる。
黒髪が嫌われている。よほどの原因があるのだろうか?それに・・・
「ツクモ、俺の幻術に自分の幻術まで入れやがって!」と抗議する。
前のモニターに人型の姿が映し出されていた。
「何のことでしょうか。と惚けている。」
「何をわけのわからないことを!」と皆が皆殺気立っている。
「あーあ、お前たちに聞きたい。なぜエルフを追っている。」俺は理由が気になった。
ある程度は予想ができるが、シェリーとファーの顔がよぎる。
俺の許容を超えていたら・・・手を出そうと決めた。
「そんなもの、道楽に決まっている。獣人族を狩って、その戦果を皆で比べ合うのだ。帝国貴族のたしなみだ!」
「へぇー。」と俺はこいつをゴミのように見ていたと思う。
「それにお前は・・・それ以上の価値がある。殺せ!こいつを討ったものに金貨百枚は出す!こいつの首を俺の貴族の格を示す道具にするんだ!」と命令を降した。
皆が皆、我先に争うように俺に剣を振ってきた。
そのすべてが弾かれる。
何度も何度も懲りずに叩いてくる。
いい加減この音もうっとおしいな。
「なぁ、そろそろ反撃していいよな。」と、俺はコントローラーを握り込んだ。
「ばかな、なぜ攻撃が通らない!この、疫病神が!」と取り乱している。
兵達は何度も攻撃したことで肩で息をしていた。
俺は地面から剣を作り出した。
それは人が持てるサイズではない。
4メートルはあるかもしれない大剣だった。
それを俺は横なぎした。
刃は潰してある。
近くにいた兵達は鎧が割れて吹っ飛んでいった。
遠くにいる兵も風圧で飛ばされる。
「この程度ですか?」とツクモが言っている。
「それ俺が言うセリフだからな。」
俺は貴族に近づいていく。
「ひぃー。」と叫ぶ。
運よくこの攻撃から逃れたのだろう。
兵士の誰かが盾にでもなったのだろうか?
俺から逃げるように手をついて後ずさる。
大剣を天高く掲げた。
「た、助けてくれ!」と俺に懇願してきた。
俺はその大剣をゆっくり振り降ろした。
「疫病神め!」と恐ろしい者でも見ている声で叫んだ。
「お前にとってのな!」と悪い顔で返しておいた。
その貴族は意識を失っている。
俺の大剣は貴族の右横の地面に深く突き刺さっていた。
その衝撃で深く地面が抉れている。
その剣をアイテムボックスにしまう。
スピーカーをオフにした。幻術も解いておく。
「ああ、私とテト様との融合が!」と残念がる。
俺は貴族の男を持ち上げた。
「ピッチャーー振りかぶって投げた!」と解説するツクモさん。
それに乗ったようにこの貴族の男を亜空間に・・・投球した。
「ストライク。バッターアウト!」
「あと2ストライクはどうした?」と俺は聞いていた。
「それはノリですよ。ほらあれ、ストライク1つで3つ分になるみたいな?」
「はいはい。」と答えておく。
俺は辺りを見回した。
どうやらエルフを追ってきた兵は全滅しているようだ。
しかし、呼吸の音は聞こえてくる。
怪我はしているが自業自得だと思っていてもらおう。
「残りの兵は置いて行こうか。」と考えている事を言った。
「よろしいのですか?」と聞いてきた。
「罰が必要なのは貴族だろう。こいつ等が罰を受けるのもなんか違うさ。」と答えた。
「それに亜空間にこれだけの兵を入れるのも恐いしな。」
武力で制圧行為に出られても困る。
数と言うのはそれだけで武器なのだ。
それに野盗達と違って、こいつ等は軍らしい動きをしていた。
まとまる事を覚えた軍はそれだけで怖い。
改めて帝国の強さを理解した。
あの俺が破れた百面相の顔がよぎる。
いつか絶対倒してやると決めた。
様子見に歩いていると、盾を構えながら気絶している男が俺の前にいた。
なんとなくこいつは強くなりそうだとわかる。
きっとこいつが俺の一撃から貴族を護ったのだろう。
その男の傷だけヒールで治しておいた。
「お優しいことですね。」と言ってくる。
「それが俺だからな!」と格好付ける。
「少しだけカッコいいと思いましたよ!」
「あのな、言ってて結構恥ずかしいんだぞ!スルーしとけ!」と答えておいた。
俺はこの場を静かに立ち去った。
「そう言えばさっきはなんで笑ったんですか!」
「はははは。」と何のことか忘れた俺は誤魔化すしかなかった。
未だに根に持っているツクモさんの機嫌は、悪くなる一方だった。
もう一仕事、入る前に機嫌なおしてくれないかな?
「そんなことありません。」
「だから心読むのやめてくれ!」と抗議した声は、虚しく響き渡るのだった。
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