異世界のバレンタイン 中編 三兄弟編
バレンタイン企画 3部作 中編です。
王国中で夢にバレンタインのイベントが起こっている。
皆はそのバタバタに巻き込まれた。
俺は今どこにいるのだろうか?
たしか王都にいて辺境伯の継承式に・・・
「リース様!」とそこには茶色い鎧を着ているリッテがいた。
「それはどうしたんだ?」と思わず聞く。
「なんだか脱げないみたいなのです。一体どうしたらいいのでしょうか?」と困惑顔。
「もしかして呪いの鎧か?」とその鎧を見る。
上半身、下半身まで鎧で覆われていた。
しかし全身が茶色い。
一体このカラーリングになんの意味があるのだろうか?
「呪いならばもっと暗くどす黒いはず。」と考え込む。
「あっ!」と何か閃いたのだろう。声を上げるリッテ。
「なにか心当たりでもあるのか?」とリースが聞いた。
「この王国ではある日ある夢を見るそうです。」
「夢?」と疑問に思う。
「なんでも、王国の人がチョコをを食べれないことに嘆いた女神が、両想いの人の元に現れ、チョコの試練を授けるとか・・・」
「なんだそれは?」とリースが聞く。
そんな話し聞いたことないぞ!
それはそのはずで、男性にその話をすれば体験したことのない者は忘れてしまう。
聞いたことがあるかもしれないが、覚えていないのだろう。
「と言うことでリース様、この鎧のチョコを食べてくださいね!」
リースの顔は引きつっていたという。
そんな試練をなんとか乗り越え、夢から目覚めると。
騒がしい声が聞こえている。
「待ちなさい、シード!」と追いかける母親がいた。
「あーあ。」と一年に一回あるイベントを思い出していた。
そう父親を追いかけるこのイベント。
夢の中で父と母がいてその周りに沢山の女性がいた。
そんな夢を毎年見ているらしい。
「なるほど。」と合点がいった。
こう言うことだったのかと・・・改めて浮気はしないと決めるリースだった。
「浮気発見イベントなんてやるなー。」とか言いながら走っていく父が情けなく見えてきた。
「待ちなさい、今回は殺してあげるわ!絶対に!」と鬼の形相で追いかけるのは、仕方ないことだと思えてならなかった。
そんなリースを抱きしめてくるリッテ。
「ありがとう、私のチョコを食べてくれて・・・」と恥ずかしがりながら言ったのはちょっと新鮮だった。
俺は今どこにいるのだろうか?
それは風呂の中だった。ただの風呂ではないチョコ風呂だった。
そしてなぜかそこにナルミ様がいた。
俺は顔を背け、そちらを見ないようにしている。
向こうも顔を背けているようだ。
俺達はなぜか背中合わせになりくつろいでいる。
ああ、もうなんかこのままでいいかな?と思わなくもなかった。
「クロード、まだまだ入ってましょう。」
「はい、ナルミ様。」と答えた。
「今は二人きりだから・・・ナルミって呼んで!」
お嬢様の顔は真っ赤になっているかもしれない。
「ああ、ナルミ。」と返しておく。
そう呼ばれて恥ずかしさの頂点に達したのだろう。
ナルミの拳がクロードに直撃した。
クロードが気絶したのは言うまでもなかった。
夢はここで終わった。
そして現実でもう一発もらったのはちょっと理不尽だと思った。
俺は今どこにいるのだろうか?
そこはお菓子で出来た不思議な場所だった。
歩くとクッキーを踏みしだいているような音がする。
そしてチョコの家があった。
俺はそのドアを開けて入ってみる。
「えーん、えーん。」と泣いている女の子がいる。
俺はその子に近づいて声をかけた。
「どうしたんだい。」とその子は顔を上げる。
俺は驚いた。
過去に結婚の約束をした女の子の顔をしている。
彼女は遠くに行ってしまった。
もう、会えないかと思う日々。
結局十年近く思っていたのだ。
もう、諦めるにはちょうどいいと思っていた。
所詮子供の頃の約束。
向こうも覚えていない。
だけど・・・忘れられない。
それは呪いなのか?
俺にかけられた呪いなのだ。
「私、寂しいの。約束守れなくて遠くに行っちゃったの。」涙混じりの声。
俺は言葉が出なかった。
その子を気付けば抱きしめていた。
気付けば俺も泣いている。
「お兄ちゃんも寂しいの?」と聞いてきた。
「ああそうだな、俺も寂しいんだ。」と始めて気持ちを吐露したかもしれない。
「一緒だね。」
「一緒だな。」と答えた。
「ねぇ、これを一緒に食べよう。」と小さいチョコを出してきた。
「これは?」
「チョコだよ!どんな呪いも解いてくれる魔法のチョコ!」笑顔で言ってくる。
「そうか。」俺はそのチョコを食べる。
俺の身体が見る見る小さくなり、子供の頃の姿になる。
「トッテ、トッテだったんだね。」と嬉しがる女の子。
「ああ。」と答える。
「迎えに来てくれたの?」
「そうだ!」と俺は力強く言った。
「そうなのね!」と嬉しそうに涙を流す。
そしてその女の子もチョコを口にした。
その女の子が光に包まれ、姿が変わっていく。
「私も呪いにかかっていたみたい。」と抱きしめてくる。
そこには大人になった女の子がいた。
「そうかお前だったんだな。」と耳元で呟いた。
「ええ、そうよ。約束果たしてくれる?」
「ああ、当たり前だろう。」と俺は迷いなく答えた。
「嬉しい。」と二人は夢の中で抱き合い続けた。
現実に戻っても抱き合い続けた。
ようやく二人の時間は回り出したのだった。
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