ユーグ男爵領の愛すべきものたち
俺は追撃に加わろうとして、俺の前にバンとミキシアが現れた。
「行くのか?」と俺はただ一言聞いた。
俺が作ったゴーレムの一部が消えたり、あったりしている。
「はい、お世話になりました。」
「楽しかったわ。最後に魔法を使える事ができたし。」二人は満足そうだった。
「そうか・・・達者でな。」と俺は声をかけた。
「「はい。」」二人は声を揃えて行った。
「それと家族には挨拶していけよ!これは命令だからな!」と言明した。
「ありがとうございます。」
「ふふ、テト様らしいですね。」
二人は別れ際も二人だった。
俺はすでに走り出した。悲しみを隠すように追撃部隊を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返した。全員亜空間行きだ!
俺はこの日、この世界に来て初めて、本当の仲間との別れを経験した。
泣いたのか泣いていないのか、俺自身にもわからなかった。
この時イーツもまた別れをしていた。
グールたちである。
日の光を浴びてそのダメージが蓄積したのだ。
弱点の日の光を浴びない様にと皆の団結で大きくなるすべを考え付いた。
皆の魂が一つの塊になり大きな化け物を生み出した。
その無理も祟ったのだろう。
そう言う言い方もおかしいかもしれないが・・・
「俺はいい部下を持った。」と生前のアイツらの顔が見える。
大グールから魂が抜けていったのだろう。俺の前に現れる。
「先に行っていろ、俺もいつか行く。その時にはまたしごいてやるさ。」
こいつらと一緒に過ごした日々が蘇った。
泣いていないはずだ。
イーツは人型のゴーレムになっている。
そんなものに涙など出るはずはなかった。
アイツらはそれぞれ家族に別れを告げに、領都の中に飛んでいった。
それ以外の場所にも飛んでいく。奇麗だ。
こういう時こそ一杯やりたいのだが・・・飲めないことを思い出す。
イーツの背中は寂しそうだった。
流れていないはずの涙を腕で拭い。
それを誤魔化すようにイーツも追撃戦を開始した。
戦闘が終わったことを知った執事長のセルスは領主邸を出て、ナルミ様を迎えに行こうとしていた。
しかし、領民たちの前に死んだはずの者たちがいる。
それは異様な光景だった。
皆が皆、涙を浮かべ惜別を惜しんでいた。
「ここは愛すべきいい領地だったのですね。」
実はセルスはあまりこの領を良く思っていなかった。
できるなら王都で働きたいと思っていたくらいだ。
辺境伯領にいる叔父に手紙を出し、そちらに仕えたいとも手紙で書いたことがあるくらいだ。
だが男爵夫婦やクロードやナルミお嬢様の人柄に触れ、仕える事も悪くないと思っていた。
しかしあの日あの時、男爵夫婦がなくなった時から歯車が狂いだした。
お嬢様は引きこもり。
イーツは野盗の討伐に失敗して討ち死。生き残ったクロードは人が変わってしまった。
執事長としてそんなクロードを追い出した。
正直見ていたくもなかった。
好きだったものがこんなにも変わってしまった姿を・・・
私は執事をやめようかと思った。
このまま惰性で執事をやるよりも・・・と思わなくもなかった。
ある日クロードは立ち直って私の前に現れた。
そしてお嬢様を引っ張り出して、あの場所に案内した。
私も目を疑った。
そこには男爵夫婦とイーツの銅像があった。
そしてよく見るとミキシア様が赤ちゃんのナルミ様を抱いていたのだ。
使用人皆が暗い雰囲気を払拭した。
あるものは泣き崩れ、あるものは私がこの領を支えるんだと誓う。
皆、前に向かって歩き出した。
特にナルミお嬢様は皆に積極的に話しかけ、この領の雰囲気を変えてくれた。
まだ、戦える。そうして私たちはこの戦いに勝利した。
奇跡が起きたのだ。
私はその結果に震えた。
しかしこの領の本当の姿を私は今、体験していたのだ。
皆が皆この領を愛している。
だからこそのこの奇跡。
そしてこの光景なのだろう。
私は目頭を熱くした。
「お兄さんどうしたの?」と聞いてくる女の子。
見てみれば子供を抱き、さっきの子供の狼も側にいる。
「いや、この領にいられて本当に良かったと思っただけだよ!」と頭を撫でてあげた。
「ふーん、そんなのあたりまえだよ。」と笑顔で返してくれる娘。
「ああ、そうだな。」とこの笑顔を護って行かなければと決意が固まった。
バンとミキシアの二人は今、娘ナルミの元に来ていた。
前にはクロードが剣を構え立ちはだかっていた。
そこに光の魂達が飛んでくる。まるで流星のようだ。
この街に満たされる優しく温かいもの。
お嬢様達は何が起こっているかわからない。
そしてその人型は消えかけていた。
よく見ればどことなくお父様や、お母様に似ている。
「まさか、そんな。」と私の顔には涙が溢れていた。
「お父様、お母様なのですか?」と思わず呟いていた。
「ああ、そうだ。」
「ええ、そうよ。」と二人は言う。私は駆け出し二人の元で泣いた。
「戻って来てくれたんですね!」と笑顔になる。
「ごめんなさい。貴女をまた一人にしてしまうわ。」優しい声で言った。
「えっ!」と困惑する。
「ナルミ。私たちは死んでしまったんだ。だけどこうして最後の機会を神様にもらったんだよ。」とバンはテト様のことを思い出していた。
「ええ、ナルミ元気で私たちの分も生きるのよ!」優しそうな母の顔。
「そんな、また会えたばかりなのに!」と放さないように抱きつこうとして、すり抜ける消えていく身体。
「えっ、うそ、なんで!」と戸惑う。そんな娘を見て視線をクロードに向ける。
「クロード、娘の事を頼んだよ!」
「・・・わかりました。」と答える。クロードも内心別れは辛い。
「ちゃんと貴方たち結婚すること!」と強めに言ってくるミキシア。
「えっ。」
「なっ。」と二人して赤くなる。
「返事は!」とちょっと強めに言うミキシア。
「「はい!」」とクロードとナルミの声が重なる。
「クロードここで誓いなさい。娘を幸せにすると!」とバンが言う。
「私も聞きたいわ。」ミキシアがせがむ。
クロードは二人の前に近づいていく。
「私はナルミ様を幸せにすると誓います!」と男らしく誓った。
「そうか!そうか!」としか声を出せないバン。
「おめでとう二人とも。これで貴方たちは生きていける。」
「私たちも安心していける。」
光の魂までも消滅してきていた。
「お父様、お母様。」と見上げる。涙が溢れる。止まらない。
「幸せを願っているよ私の娘ナルミ。」どこまでも優しい父。
「とびっきり幸せになりなさいナルミ。」どこまでも愛してくれた母。
「はい。」と泣きながら笑顔で答えた。
「私は大丈夫。だから・・・見守っていてね!お父様!お母様!」
後ろからクロードが抱きついてきた。彼も泣いているのだろう。
男爵夫婦を愛していた周りの人間も泣いている。
二人は最後、笑顔を残し青い空に消えていった。
私はその空を涙で見上げ続けていた。
ブックマーク、評価お願いします。




