独り言の代償
俺はそんな二人の戦いを後ろで見ながら、水魔法を時々放っていた。
顔に水を被っている野盗が溺れる、水がはじけて崩れ落ちる野盗。
その野盗を俺は異空間に投げ入れる。
夢の中で教えてもらったことを試したら出来ていた。
俺はその機能を使いどんどん気絶した野盗を、その別空間にしまっていく。
これは実験だ。向こうの世界がどうなっているのかわからない以上、この野盗たちで試さなけれんばならない。
「あれ、俺もうちょっと無双する予定だったんだけどなー。」
「仕方ありません。彼女らは別格なのでしょう。」とツクモが言ってくる。
最後の一人を倒したようだ。
「もうその辺にしてやりなさい。」と二人に声をかけた。
その頭目っぽい男は顔が腫れ、身体のいたるところも・・・以下略。
俺の出番が殆どないまま、この二人が片付けてしまった。
なんと複雑な心境なのだろうか。
その二人がグール達を見た。まずいと思って俺は叫ぶ。
「そいつらは味方だ!手を出すな!」と水魔法のアクアショットで足元を攻撃した。
二人の動きは止まる。
「主様がそう言うなら。」と納得する獣人のシェリー。
全身が真っ赤に染まっている。どうすればそんなに真っ赤に染まるんだろうか。思わず引いてしまう。恐い。
「はっなに?あなたグールも使役しているの。引くわー。」と言っているファー。
相変わらず敵意を向けてきているんだけど、そのドス黒い剣で切らないよね!
「これには色々と事情があるんだよ!」と抗議した。
「イーツ、こいつを拷問して、情報を聞き出してくれ。」と俺は頭目っぽい男をイーツに投げた。
「はい、しかしこの二人は?」と警戒している。
グールもその二人を警戒して、戦闘態勢を続けていた。
「ああ、味方だ。変なこと言わなければ大丈夫だ。たぶん。」さっきの戦闘を見ていたから、あまり自身がなくなっていた。
「はーそうですか。グールたちはここが限界のようです。」と森に帰っていく。
「ありがとうな!」
「グオー、グオー。」とか言っている。意思疎通できるんだな。
「森で寝て、また夜に動き出すんだとよ。」と声をかけてきた。
「そうか、って寝るのか?」
「はい寝るそうです。」
「まぁ今は置いておこう。さて、食料を回収してここを離脱しよう。」
「わかりました。」と俺たちは食糧庫にあった食料を根こそぎ奪い。
山に火を放って、ここを後にするのだった。
「お前たちはこれからどうするんだ。」と近くの川に来ていた。
彼女たちの汚れてしまった身体を洗い、服はどうしようか?
「あ?」と俺はアイテムボックスに入っていた一着の服を取り出し、シェリーに渡した。
水浴び中の彼女たちの近くにいるわけにはいかない。
俺はイーツのゴーレムを・・・
戦闘中に受けた血を水で洗い流していた。
洗車中だ。いや、洗ゴーレム中かもしれない!
何が悲しくて、ゴーレムの洗車などやらなければならないんだ!
「やっぱりシェリーたちの方に行きたいかもしれない。」
「剣で切り刻まれたり、拳でいつまでも殴り飛ばされるのが趣味なら止めませんよ!」とツクモさんが言ってくる。
「彼女たちが恐いのはわかってますよー。」と一応言っておこう。
「むっ、そう言えば遠視機能があったはず?見えるのではないか?」
「一応言っておきますが、もしやろうとしたら彼女たちに言いますからね。」と答えが帰ってきた。なんかツクモさんが恐いぞ!
「わかっている。わかっているよ。」
ただ、異世界だから無意識に使ってしまうこともあるじゃないか!
「その言葉も聞こえてますからね。」
「心を読むな!」と俺はコックピットの中で反論した。
「さて、これからどうするか?」と俺は考える。最近は考えてばっかりだな。
当初の予定では、食料を奪取して逃げる予定だったのだが・・・
この二人のせいで、いやおかげでと言った方がいいのか?
野盗団の討伐ができた。
しかし、まだ油断はできない。
なぜなら、野盗団本体がまだいるらしいとの話だ。
あの盗賊の頭目っぽい男から聞いた。
実際は頭目代理だったらしいのだが・・・
異空間に入れるとき怯えていたけど、自業自得だよね。
「そうだよな。そう簡単には事が運ばないな。」
だが、ある意味ラッキーというべきか・・・
各個撃破と言うのは大軍を相手にする上で大事なことだ。
ここで一個部隊を撃破したのは大きい。
「さて、相手はどう出るかな?ふふふ。」と笑っている。
「さっきから独り言と言って恐いですよ。テト様。」
「はっ!」とびっくりする。
「すまない考えをまとめる時の俺のルーティーン(工程)みたいなものだ。」
「そうなのですね。」
「さて、これからどうするか?」うん?
「そうだよな。そう簡単には事が運ばないな。」俺の顔は青くなっている。
「さて、相手はどう出るかな?ふふふ。」顔を伏せった。
〝お、俺の独り言!〟
「その機能は何ですか?」と俺は恐る恐るツクモに聞いた。
「この機能はですね。テト様独り言名言集です。」と自分はやってやったぞという顔になっているだろうか。
「その機能は削除しようね。」と俺は笑顔で言う。
「ダメです。これは貴重な記憶になります。未来永劫残さなければなりません。」と強い意志で言ってきやがった。
そして奴は独り言を再生しまくった。
それを聞いて俺の存在は痛い奴だと認識してしまった。
俺は魂が抜けたかもしれない。真っ白に。
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