お酒の思い出
「ふむ。」俺は今、取り憑かれている。
三体の火の玉が俺の周りをぐるぐる回っている。
非常に迷惑極まりない。
俺たちは領都ユーグに入り、そのまま宿屋に滞在することになった。
今は一階の酒場でご飯を食べているのだが。
「なに!商隊が来てない?」とトッテが言う。
「はい、それで申し訳ないのですが、お出しできるご飯が・・・」と言ってくる。
「想像以上にヤバい見たいですね。」
「どうすんすか!やばいっすよ!」とウッテが言ってくる。
「ぶーぶー。」もうどうにでもなれ。
「とりあえず俺たちはしばらくここに滞在して、魔の森に入って食事の確保をするしかないだろう。」
「そうですね。それしかありませんか・・・。」と三人で天を仰ぐ。
なけなしの食材を宿屋に提供して、その食材で料理を作ってもらう。
保存食のようなスープが出てきたが仕方ないことだった。
「坊やにはちゃんとしたミルクをやらないとね。」と渡してきた。
「バブー。」ありがとう。俺はベビー椅子に座らされている。
「まぁかわいい!」と俺の頭をなでる女将さん。
「それで、そのクロードさんはどこにいるのですか?」と聞くシズク。
「さぁちょっと聞いてみるか?」と返答するトッテ。
「女将さんお酒。」と言おうとするウッテ。
「お前は素面でいろ。」とトッテが言う。
「ええーそんなこと言わないでくださいよ。本当にお酒がなくて日々つらかったんですから、少しくらいいいでしょうと。」働いている娘さんに頼んでいる。
「はぁー。」と席から離れていった。
「まぁお酒ならあるし飲んでもいいけど、はいよ。」と出してくる。
「おおう、ではいただきます。」と飲もうとして、そのジョッキを取られて飲み干す男。
「ぐびぐびぐび。」と一気に飲み干す男。
ウッテは愕然となる。
「お、俺の酒!」と飲んでいるその男を睨みつける。
そして手が出てしまった。
そこから取っ組み合いの喧嘩が始まる。
「お前、人の酒飲んでただで済むと思ってんのか!あん。」とメンチ切る。そして殴る。
その男も殴り返した。扉から何人かお客が来ている。
「おお、喧嘩か。」
「またあいつかー。」
「どっちに賭ける。」と賭け事が始まった。
「あーあ。」と頭を抱えるシズクさん。
「むっ。」と騒ぎに気付いてそちらを見ようとしたトッテ。
「あーあ、またかい。」と女将も頭を抱えている。
娘さんがこちらに逃げてくる。
「暴れてる!暴れてる!」と可愛く言う。
「むっ、あいつはクロード。」と目を開いて立ち上がろうとした。
それを抑え込む女将。
「やめときな!止めようとした奴がいるとね。そいつも殴っちまう。」
「しかし。」
「あんた、ここいらの奴じゃないのか?事情を知らないんだね。」
「?」わかってない顔をするトッテ。
殴りあい続ける二人。
「あいつはね。悲しみのぶつけ先を探してんのさ。この間の野盗の討伐任務の時。親父と呼んでいた奴を殺されちまった。」
「・・・」何も答えることができない。
テトの周りを飛んでいた黄金の球が、彼らの話を聞いている。
「帰ってきたのはあいつだけだった。それからさ、酒におぼれるようになり、暴力を振るい。その結果領主邸を追い出されて、今じゃこの街の郊外に住んでいる。」
「そうか。」と相槌を打つ。
クロードの渾身のストレートがウッテに決まった。
ウッテはそれでも立ち上がる。
「前まではしっかりこの領をとりまとめていたんだけどね。それが今じゃ落ちぶれちっまった。」と女将も昔のことを思い出していた。
「クロードお前も飲め。」
「いただきます。」と言って飲み始め、そしてダウンした。
「おまえ弱いなー。」と親父さんが言った顔を女将は覚えている。
「まぁもう今は昔って奴になっちまった。」
「惚れてたのか?」とトッテは聞く。
「ああ、旦那だよ。」
「そうか。」とトッテは立ち上がった。
「おい、あんた。」
「なんかこう、無性に殴りたくなっちまってな。」
キョトンとする女将。
「男ってやつぁバカばっかりさ。」と言って目元を覆う女将。
「たまーにこう、活を入れなきゃならない時が男にはあるんだよ。」と言ってたバカのことを思い出していた。
「おかーさん元気出して、お父さんも言ってる。」と娘の周りを飛び回っているお黄金の玉。
ただし女将には見えていないようだ。
「そうかい、そうかもしれないね。」と娘を抱きしめて笑顔で泣いていた。
私も我慢してたのかね。
ウッテは殴られても何度も立ち上がり、怒りがその都度増してきている。
「お酒の恨み晴らさずにおくべきか!」と目が狂っている。
あれ。ウッテの陽キャラって?と俺はおしゃぶりをしながら思った。
キャラ崩壊している!
そんなウッテに俺は周りを見る。誰も俺に注目してない。
「あう。」よし!
「あうあういー。」ウォーターボールをウッテの上から顔にぶっかけた。
「きゃきゃ。」成功だ。と喜ぶ。
しかしそんな俺を訝しそうな目で見ていたものがいた。
シズクさんやそんなに見ないでおくれ!そっぽを向く。
よし寝たふりだ。何か視線を感じる。
ね、寝れない!と汗をかいていたかもしれない。
「ウッテ選手交代だ!」と言って濡れているウッテの方を掴む。
「しかし、こいつが!」
「カウンターに行けばお酒飲めるぞ。」と言ったら、ウッテはごっさんですとか言いながら向かっていく。
「まぁたまにはおごってやるか。さて、久しぶりに兄弟喧嘩と行きますか。」
「おおう交代しちまった。」
「これはどうなるんだ。」
「おれはこのままクロード。」
「あんちゃんだ、あんちゃん!」と掛け声が聞こえる。
「・・・」目の前にいる男が誰かわかっていないようだ。
殴りかかってくるクロード。
そんなクロードを投げ飛ばした。
あれだ。柔道の一本背負いだ!
奇麗に決まったね。
「ぐはっ。」と地面に衝突する。
ふらふらと起き上がるクロード。もうなんかふらふらだ。
投げられた衝撃で酔いが早く回ったか?
「わるいがクロード!お前が弟だ!」と顔面をぶん殴った。
俺たちが喧嘩をするときは勝った方が兄になるという決まりがあった。
クロードはそれでも起き上がろうとするが、気を失ったようだ。
シズクはそんなクロードを見ていた。
「うわー勝った!」
「あーあ負けちまった。」とか賭け事をしていた連中は言っている。
「悪い女将さん、上の部屋にこいつ寝かせるから。」と言って肩で担ぐ。
「あーわかったよ。」と言って頷いた。
「テト様は今日は私と一緒に寝ましょうね。」
「あう。」と返事をした。
ウッテはカウンター席でまだ飲んでいた。
クロードをベットに寝かせる。
「クロード辛いだろうが、乗り越えろ!きっとお前の親父さんもそれを望んでいる。」と語りかけた。
「わかっているさ。」
「お前!起きてたのか。」と驚くトッテ。
「身体が訛っちまってる。今の俺じゃお前に勝てないな。」
「ふん、すぐに追い越せるさ。だが、兄と呼べ。」としばらく沈黙が続く。
「そう言えば兄よ、何でここまで来た?」疑問に思ったんだろう。
「ちょっと頼まれごとをされてね。」と顔をかく。
「そうか。」と呟く。
「明日、話すさ。」と何気なく言う。
「ああん?」
「お前に関係あることだからな。フッ。」とちょっと笑った。
「はっ?なんだよ、余計に気になって寝れなくなったわ。」
「今日は寝てろ。身体動かないんだろう。」
勝ち誇った顔で言いやがる。
「ならせめて酒を・・・」
「酒に逃げるな!」トッテはクロードを睨みつける。
「お前そこまで好きじゃないだろうお酒。」
「ああ、お前・・・兄にはわかるか。だがな、あの味はあいつ等との思い出の味なんだ。忘れたくないんだよ!俺は!」と泣きじゃくる。
今まで泣けなかったのにな、最近は特に涙もろくなってやがる。
「泣けるときは泣いとけ。」
「あほう、男の前で泣けるかよ。」
「フッ。」と笑ってトッテはその部屋から出て行った。
「だがな、一人になるとまた泣けなくなっちまうもんなんだよ。」と呟いた男の目には・・・
「ウッテ、俺もお酒もらうぞ。」と言って、自分の木のジョッキに注いでいく。
「ああ、珍しいですね。」
「たまにはな。俺たちの勝利に!」
「勝利に!」ウッテとトッテはジョッキを合わせた。
ウッテは一気に飲み干した。
トッテは一気に倒れた。
「はっ?ちょ、ちょっと。トッテ、トッテ―!」と言う声が宿屋中に響いていた。
俺達はお酒がダメだったのだ!
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