バトンタッチ!
「まぁ、落ち着け。」とリースは言った。
「はぁどんな要人かと思えば、赤ちゃんって!」と頭を抱えた。
「そんなの他の人でも・・・いや待て、そう言えば親父が保護した赤ん坊がいたな?」
トッテは親父がその赤ん坊を気にかけていたことを思い出していた。
「ああ、その赤ん坊だ。」とリースは言い切った。
「兄上が直々に言うことか?親父から頼まれたのならわかるんだが。」
たしか、その赤ん坊も黒髪だったな。
「そうか黒髪か。」と呟く。
「ああ。」と頷く。
「だからって、わざわざ辺境の男爵領まで連れて行かないでもいいだろう。ここには孤児院だってあるんだから・・・」と言い返す。
「それができない。」
「どうして。」と視界にリッテが映る。
「!」何かに合点がいった。
「おいおい、まさかどっかの大貴族の子供だっていうのか!」頭を抱える。
「ああ、詮索はするな。」
「そうか、他の奴には任せられないわな。」と呟く。
兄上にとって事情を話して任せられるのは身内の俺しかいないのか・・・
黒髪は呪われた子。貴族に取って醜聞でしかない。
それが大貴族であるほど、攻撃材料にされ下手したら家がなくなる。
なんかの間違いで、王族なんかに生まれた日には国が傾くだろう。
「まぁ、そんなことはないか。」と呟く、公爵か、侯爵辺りなんじゃないかと思った。
親父も養子の子で継承権のない黒髪の子を保護しているが、直系に黒髪の子がいたとなれば、決して見つからない場所に預けるだろう。
それほど貴族にとっての爆弾なんだ。
「・・・わかった引き受ける。」と黙考した後に答えた。
「トッテすまない、俺はもうすぐにでも出なければならない。」と言って立ち上がるリース。
「お前もできるだけ早く発ってくれ!確かウッテが空いてるはずだ。連れていけ。本当ならキースもつけたいが、先日結婚したばかりの奴を連れては行けんな。」と結婚式のキースはガチガチに固まり、リンズにおんぶに抱っこだったな。と思い出し笑いしている。
「はは、キースの野郎が羨ましいです。」とあまり羨ましくなさそうに言った。
「そうか・・・誰か紹介するか?」と思わず言ってしまう。
「いえ、ちゃんと自分で選びます。」と立ち上がる。
「まぁそれならいいが、行き遅れるなよ。」と弟を心配した。
「はは、まぁ適当に・・・」と言って立ち上がるとこの部屋から出ようとする。
この話はトッテは苦手なようだ。
「まだ彼女のことを忘れられないのか?」と声をかけた。
「子供の頃の約束なんで、笑うなら笑ってください。」とトッテはそう言って部屋を出ていった。
「ふむ、トッテの初恋か・・・まだ思っているとは一途な野郎だ。」と言葉に出して言う。
「ふふ、一途な人は好感が持てますよ!」と、今まで声をかけて来なかったリッテが話す。
「ふー、あれでよかったと思うか?」と聞いた。
「あれがベストでしょう。勘違いしてもらった方が何かと都合がいいはずです。」
「そうか、下に落ちていくほど噂は誇張されるだっけか?」
「ふふ、そうです。バレたとしても、今回はその逆で噂は矮小化されていくはずです。」
「そうなればいいんだがな。テト元気でな・・・」と見送り出来ないことを嘆いた。
リースは立ち上がりこれからある二つのことを考え、溜息を吐いた。
「ふーこれから辺境伯就任と、王太子誕生の祝賀会に参加か・・・気が重い」
「私も父上になる伯爵様と会わなければなりません。」と二人して溜息をついた。
二人は貴族社会が苦手だった。
数日前。
俺はリッテがベットで寝ている間、リッテの本当の仕事の話を聞いた。
リッテは王国の暗部、そのまとめ役らしい。
眉唾ものだと思ったが、そう思えばついてきた理由も納得できた。
そう思った時、少し寂しくも感じた。
そう言う顔をしていることがリッテにバレていたのだと思う。
「大丈夫ですよ。私はリース様のことが好きなんです。この気持ちに嘘偽りはありません。」と堂々と言ってきた。
俺は面食らったと思う。
「そうかありがとうリッテ。俺も好きだ。」と言ってキスをした。
その次の日からメイドとして俺の面倒を見ていた。
正直俺一人だったら、辺境伯を断っていただろう。
支えてくれるリッテがいて本当に良かった。
「ありがとうな。」リッテを見て思わず呟いた。
「はい。」と返事をする笑顔の彼女は世界一可愛かったと思う。
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