トッテの使命
「お兄ちゃん!」と駆け寄ってくる子供たち。
「おう、元気にしてたか?」と答えるトッテ。
「うん、元気!」
「いい子してた。」という子をなでた。
この孤児院には、戦争や病等で引き取り手がいない子を引き取って育てていた。
しかしそれ以外にも、色々な事情で引き取られ育てている子たちがいる。
「兄ちゃん。」と今近寄ってきた。タダンもその一人だ。
その男の子は黒い髪をしていた。
この王国では黒髪をしているだけで差別を受けたりすることがあり、それがこの子たちが親から捨てられた理由だったりする。
辺境伯は影からこの子達を守るため保護し、育てている。
ここまで聞けば、立派なことだ。
「にぃにぃ。」と駆け寄ってきたのは俺の妹のジーンだった。
そうこの孤児院には、俺の親父の子が十人ほどいたりする。
それを理解したときは頭を抱えたものだ。
「どうした、ジーン。」と俺は高い高いをしてやる。
「うわーありがとう、にぃにぃ。」と答えたジーン。
ジーンはこの高い高いがお気に入りで、いつもせがんできていた。
「ああ、お前もお姉ちゃんなんだから、そろそろしっかりしろよ!」とトッテは笑って言う。
「うん。」トッテはジーンを下ろし、他の子を高い高いし出した。
「やっぱり子供はいいものね!」とどこから現れたのか。
トッテの後ろから声がかかる。
「お前は!」と驚いて振り向く。
「お久しぶりですね。」と声をかけてきたのはあの宿屋であった忍者娘だった。
今はシスターの姿をしている。
「どうしてここに!」と警戒を努める。
「あ、お姉ちゃんだ。」と子供達にもみくちゃにされる。
「ああ。」と頭を抱えた。
その女は意外にも抵抗はしなかったらしい。
まぁ一人ずつ、怒られていたが。
「ずいぶん様になっているんだな。」と声をかけた。
「ふふ、まぁね。私も面倒を見たりすることが、多かったりするからね。」
と何やら思い出している。
「で、ここに来た目的はなんだ?」と単刀直入に聞く。
「ふふ、なんでしょうか?」と惚ける。
「お前達が意味もなく、俺の前に現れるのはおかしい。何か言いたいことがあるんじゃないのか?」と心して聞こうとする。
「ふふ、今回は違いますよー。これは罰なんです。」と悔しそうに言う。
「罰?」と聞き返す。俺たちはいつの間にか、他の女性に子供たちを任せて二人で話し込んでいた。
「ええ先日の件でドジっちゃいまして、上司に怒られちゃったんです。」
「なるほどな。何をやらかしたかは聞かないことにするわー。」とトッテは答えた。
「ここは女の子が落ち込んでいるので、慰める所ですよ。」と抗議しながら、近づいてきた。
そして俺に抱きついて来て・・・
「右手が動いてるぞ!」と何かしらしそうになっている。
「ああ、いつもの癖で、今は抗ってる最中だから、気にしないでね!」と笑顔で言う。
「いや、何をしようとしているんだ。」と首を傾けるトッテ。
「盗んだらダメ、盗んだらダメ・・・」何か呟いているがトッテには聞こえなかった。
「まぁなんだ。お前はお前で頑張っているんじゃないのか?」と言って無意識に頭をなでるトッテ。
その女忍者は顔を赤らめていた。
「ああ、姉ちゃんと兄ちゃんがイチャイチャしてる。」とタダンが指を差して言う。
「えーうそーにぃにぃわたしというものがありながら・・・」とはぶてて(拗ねて)怒るジーン。
俺たちは再び子供たちに囲まれて逃げ場をなくしてしまった。
体中に子供たちが抱きついてくる。
「おいおい!」
「あらら。」と言いながら、二人で子供たちの相手をする。
大夫時間が経っただろうか。皆が疲れ果てて寝てしまった。
「そう言えば名前は?」と聞いたトッテ。今まで聞いてなかったことに気付いたのだ。
「ふふ、私はシズクと言うから覚えておいてね。お兄さん。」と言った彼女は、どこかで見たことがあるような。女の子だった。
その次の日、トッテは辺境伯の執務室前に来ていた。
ドアをノックした。
「失礼します。」と言ってドアを開け入る。
執務に励んでいるリースを見た。
「トッテか。」と顔をあげるリース。
「リース次期辺境伯様におかれま。」言葉にかぶせるようにリースは言ってくる。
「ここには身内しかいない、いつもの通りにしてくれ、それはからかっているのか?」と笑っている。
「ええ、からかってますよ兄上。」と拳を二人合わせる。そして肘を二人で合わせた。
メイドのリッテがお盆を落として・・・
「失礼しました。こちらにお茶をご用意しました。」と言って頭を下げる。
「ああ、すまない。」とリッテに返す。リース。
頭を下げるリッテ。部屋の隅に移動して待機している。
「元気そうだな。」と声をかけるリース。
「ああ兄上もな。」と二人見つめあう。お盆が落ちる音が再びした。
「大丈夫かリッテ!」と駆け寄るリース。
「はい、だ、大丈夫です。」と答える。
「?体調が悪いようだったら、部屋で休んでいてもいいんだぞ!」と声をかける。
「いえ、なんでもありません。」といつも通りのリッテのように見える。
「そうだ、改めて紹介しておこう。こっちが俺の弟のトッテだ。」とリッテに紹介する。
「そしてこっちが俺の妻のリッテだ。」と紹介するリースは顔をかいて多少赤かった。
まだ慣れていないのかもしれない。
「トッテだ。よろしく。」と頭を下げて、手を差し出してきた。
「リッテです。」と二人は握手をした。なにか少しリッテが恐い顔をしている。
「リッテさんか、じゃあ。姉上になるか?」と呼び方を聞いてきた。
「そうですね。そうお呼びください。」と今度は嬉しそうだ。
「リッテ姉上も言葉使いを変えられては?」
「いえ、私はメイドでこの言葉使いに慣れてますので、このままでお願いします。」と断ってきた。
「まぁリッテ姉上が言うなら、いいか。」と納得する。
「それでお願いがあるんだ。」とリースは話し始める。
「なんだどうした?」と置いてあったお茶に手を伸ばし飲みながら聞く。
リースは目を閉じながら言った。
「俺は辺境伯になることに決まった。」
「おおう、良かったな!」と喜ぶトッテ。
一拍おいて、言葉を紡ぐ。
「それが、今から王都に向かわなければならなくなった。」
「うん?」と疑問に思う。
「そうだ。父上から継承するために王に謁見しなければならない。」
「ちょっ、ちょっと。」と立ち上がるトッテ。
「それはあまりにも早くないか?」と疑問をぶつけた。
「ああ、何度も親父に言ったんだがな。今回の件で責任を取りたいそうだ。」
「そ、それは?」
「トッテ、俺たちは貴族なんだ。どこからか内乱の話が大きくなっていやがる。」と苦虫を噛むトッテ。
「それを聞いた貴族がどうするか、わかるだろう?」と同意を求める。
「責任を追及してくる。」と俺の顔を見る。
「ああ、彼奴らはそう言うのが好きだからな。」とやれやれ顔のリース。
「なら、親父に後ろ盾に・・・」
「親父は公爵領に行く。」現実を突きつけるように言ってきた。
「まぁ兄上ならなんとかやってくれるか。」と苦労するかもだけどその言葉は飲み込んだ。
「俺も何かできることがあれば協力する。」と兄上の手をギュッと握った。
「その言葉を待っていた、そんな弟にお願いしたいことがある。」
「えっ?」と驚くトッテ。
まさかこのタイミングでお願いされるとは・・・
「本来なら俺たちがやらなければならないことなんだが、ある人物を護衛して欲しい。」
腕を強く握り返す。
「?」と困惑するトッテ。
「そしてそれとともに弟クロードを説得して欲しい。」と語る。
そのリースは真剣だった。
今までで一番、よく見れば手に汗をかき、顔にも汗が流れている。
「その護衛する人とは?」俺の喉がなった。物凄い緊張だった。
重要人物なのではないかと思ったからだ。王族か?公爵か?
「赤ちゃんだ!」その言葉を聞いて俺は。
「あ、赤ちゃん?」わけがわからなくなり。
「はっ?はぁーーーー?」と俺は大きな声で叫び、その叫び声は屋敷中に響き渡っていた。
ブックマーク、評価、感想等、よかったらお願いします。




