辺境伯の名付け・・・
第一章 最終話です。
その後ミーナとミルンは和解をした。
俺は未だ痛い身体に、苦悩の日々を送っていた。
ミルンは時々ミーナの部屋に突撃しては、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
しかし、俺を睨む目を止めてくれないだろうか?こ、恐い!
回復魔法でも、痛みが全然とれなかった。この痛みは何か呪いか?
たまにミーナに抱かれて、リースの所に行くことがある。
リッテがまだ回復をしていないらしく、ベットで甲斐甲斐しくリースの世話になっていた。
うん、たぶん。もう回復しているのだろう。
世話をされることはあまりないので、それを楽しんでそうだ。
そんな笑顔のリッテをじっーと見て、泣かせたらリースを殴ろうと決めた。
「リースお兄様と、リッテは仲がいいですね。羨ましいです。」笑顔のミーナ。
「ミーナ様も今度、公爵家のご子息に嫁がれるとか。」
「はい、そうなんです。私、うまくやって行けるでしょうか?」と何気なくリッテに聞いた。
「うーん。わかりません。ですが、一緒にいて楽しいと思えれば。うまくやっていけれるのではないですか?」とアドバイスをする。
「そうでしょうか?」と俯く。
「ミーナ様、なにかあったらミルンお姉さまに相談すればすぐに解決ですよ。」
「え、うーん。それはなにか違うような?」お姉さまが結婚相手の男性をボコボコにしている姿を、思い浮かべてしまう。そして困惑する。
「政略結婚ですが、辺境伯様がしっかり相手を選んだはずです。」
「そうかもしれませんね。」ちょっとずつ納得する、
「なにかあれば、ここに戻って来てもよいのです。きっと皆さん。温かく迎えてくれますよ。」と、リッテは辺境伯の人たちの温かさを感じていた。
「そうです。ミーナ。何かあれば戻って来てください。」とリースも言った。
「はい、ありがとうございます。」と笑顔のミーナ。
そこにバン!と言う音がしてミルンが入ってくる。
「おお、ここにいたか。」と言ってミーナに抱きついた。
「お姉さま、ちょっと止めてくださいよ。」と抗議する。
「姉妹仲がいいですね。」
「ああ、俺がここにいた時もあんな感じだった。」と懐かしい顔をするリース。
「あうあー。」と一応、存在感をアピールする俺。
まだちょっと後遺症があって痛い。
「はいはい。」とミーナが俺をあやしだす。
そんな俺を羨ましそうにしながら、睨みつけるミルン。
「ふん、そうだった。忘れる所だったが、今から稽古なのだ。リース兄上久しぶりに稽古をつけてやろう。」と睨むのをリースに向けた。
「げっー。」と言う顔になるリース。
「いや、まだ俺疲れが・・・」と部屋を出ていこうとして・・・
首の襟元を捕まれ連行されていく。
「た、助けてミーナ。」と言う声が遠ざかっていく。
「妹に助けを求めるとは情けない。そもそも今回の騒動は、お前が情けないから起こったことだ。その性根を私が叩き治してやる。決してあの赤ん坊にミーナが取られて、むかついているからじゃないからな!」と恐い顔になる。
「それ絶対そうじゃん!た、助けて!」とリースにしては情けない声を出していた。
「・・・」
「・・・」とさっきと違って気まずい。
沈黙が。
「あうあーーあ」と声を出した。
「ふふ。」と笑うミーナ。
「ふふ。」と同じく笑うリッテ。
そこで真剣な顔になるミーナ。
「リッテ様。リース兄上のことをよろしくお願いします。」と頭をさげるミーナ。
そんな姿に驚くリッテ。
「リース兄上は多少不器用な所があります。でも、いざって時にはしっかり立ち向かう事ができる人です。」と真剣な顔でミーナはリッテを見ていた。
「わかっています。私もそんなリース様が好きですから・・・」と返事をする。
「そうですね。任せましたよ。」と俺を抱え、部屋の外に出ていく。
なぜかミーナは涙顔だった。
ああ、やっぱりリースは一発殴っとこうと俺は思った。
それから数日が経ち、俺とリースとリッテは辺境伯に呼ばれた。
その部屋の中、辺境伯が話し始める。
「すまんな忙しくてな、中々会いに行けなかった。」と誤ってきた。
「いえ、そんなことは構いません。」と代表して答えるリース。
あまり父親が好きではないようで顔が険しい。
「そうか、そちらのメイドのことはセバスにも聞いている。」
「はい。」と答えるリッテ。
「君の父上には昔、世話になったことがある。その恩を返させてくれ。」
「父を知っているのですか?」と聞くリッテ。
「ああ。私と同期で爵位を受けたのだ。そして私のライバルでもあり友だった。」と昔を懐かしんでいた。
「そうだな。どこかの伯爵家の養子として、リースに嫁がせよう。」
「ありがとうございます。」と頭をさげるリッテ。
「たぶん。正妻だ。こいつはリッテさん意外、見向きもしないだろう。」
「あ、あたりまえじゃないですか。」と声を出すリース。少しリッテも照れている。
突然別の話をし出す。
「リースよ。貴族と言う生き物は強欲なのだ。権力、お金、女。それだけですめばいいが、領土、国、王位、そして神!」
神?赤ちゃんの俺はその言葉を聞いて戸惑う。
神ってあれ?あの世界を見守っているとかそんな神?と思っていると。
「伝説だ。人が伝説になり語り継がれる。そうして形作った。存在が再び再生する。おとぎ話のように聞こえるが、その存在は証明されている。魔王になって我々に牙を剝くまでな。」と一呼吸置く。
「何が言いたいのですか?」リースは聞く。
一瞬静寂が支配する。
「その子のことだ。」と神妙に言う。ことが大きいからなのか、空気が重い。
「古来より黒髪は恐れられている。それはなぜか?」
立ち上がり答える。
「魔王になりえる存在として語り継がれているからだ。」俺を見ながら言い放った。
「な、そ、そんなにも重いことだったのですか!」
リースはせいぜいが不運な人になったなとの印象だった。
それが今の言葉で覆る。
リッテを見れば知っていたようだな。
「ああ、将来優秀になるのだが、確実に魔に魅入られ易いのだ。好かれると言い換えた方がいいか?」
「あうあー?」ええ、そうなの?
「だからこそ、この国で中心となる者達は、黒髪の子が生まれると忌子として処断したり、捨て子にしたりするのだ。」と頭を抱える。
「私の子も黒髪だった者がいた。それでも授かった事は嬉しかった。だが、初めての子だったのだ。もう取り返しがつかぬ。」と昔を懐かしみながら天井を見上げた。
「その時の私には力がなかった。気付けば家臣の一人が、そのものを捨て子としてどこかの村に預けてしまった。」私たちは静かに聞いていた。
「私は家臣を問い詰め、その村を聞き出した。だが、その村はすでに魔物の襲撃に遭い・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」誰も何も言えなかった。
「だから私は子供を沢山作ることにした。その中には黒髪の人間もいる。いや、黒髪の人間を養子にしたと、言った方が正しいのかもしれない。」
辺境伯が可愛そうだ。そしてカッコいい。
「ただの罪滅ぼしのつもりなのさ。まぁ私は女の子は好きだからね。本当の子供がどこにいるかなんて誰にもわからないものさ。」とカッコつけているのか、つけていないかわからない。
「リース、お前を次期辺境伯にする。」唐突に辺境伯が言い出す。
「そ、それは。」と断るつもりのリース。それを制する辺境伯。
「だからこの話をした。私はそのことが、そこにいる赤ん坊を守ることになると思ったからだ。」と俺に視線を向けてくる。
「愛していたんですね。」とリッテは思わず聞いた。
「ああ、愛していたさ。今でもな、この手に抱いているようだ。」と顔を抑えている。
思い出して泣いているのだろう。
「ダストのことを私はどこかで信じきれなった。私の最初の子と比べてしまった。そして黒髪の子たちが、しいたげられる未来が見えたからだ。」
一拍間を取ってリースを真剣に見る。
「リース覚悟を決めろ!私の大事な者たちをお前なら守れるはずだ。そしてお前の大事なものも、辺境伯を継ぐことで守れるはずだ。」
リースはリッテを見た。リッテは頷く。
リースは俺も見た。コクと頷いて見せた。
トッテと交わした言葉も思い出し、あの場にいた者たちの思いを受け取った。
「そうか・・・俺は辺境伯を継ぎます。」とリースは宣言をした。
「そうか、そうか。」と肩を叩くシーズ。
「俺のすべてを頼むぞ!」と声を掛けた。
誰にも話せなかったと言う肩の荷が降りたのだろう。
泣いて崩れ落ちる辺境伯がそこにいた。
「す、すまんな。恥ずかしい所を見せてしまった。」と誤る辺境伯。
「そんなことはありません。」と声を掛けるリッテ。
「そうです父上。」リースは侮蔑していた父に対して優し気だった。
「リッテさん。」と辺境伯は改まって言う。
「はい。リッテとお呼びください。お父様。」と答える。
「そうか、リッテ、その子を抱かせてくれないか。」と声を掛ける。
「は、はい。」とリッテはシーズ辺境伯に俺を渡した。
あやしながら、声を掛けてきた。
「どことなく、あの子に似ているな。」と思い出して泣き出す。
「そうだこの子の名前はなんて言うんだ?」と聞いてきた。
「いやそれが。」と言い淀むリース。
「まだ決まってません。」とリッテ。
「そうかそうか、もしかしたらあの子がこの子を遣わして、私を助けてくれたのかもしれないな。」
「そうだ。あの子の名前を使って、この子の名は・・・テト。テト・ラーズにしよう。」
辺境伯は何か腑に落ちたような気がした。
この子はきっとあの黒髪の伝承にある生まれ変わり、私の子の生まれ変わりだとそう思えてならなかった。
もしかしたら黒髪の子たちは疫病神なんかじゃなくて、守護神のような存在なんじゃないかと。そう、確信できたのだ。
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