本当の敵は誰だ?!
「は、はーい。ああーそうだダストの私兵たちも捕まえて欲しい。」と辺境伯。
「黒いカラスの野盗団ですな。わかりました。」セバスが答える。そうして礼をして裏口から出ていく。どうやら兵舎のほうに向かうようだ。
「皆もうひと頑張りだ!頑張ってくれ。」
「おう!」
「はい!」と屋敷の皆が返事をする。
「その子をこっちに渡してもらいたいんですけどね?」と女将。
ウッテが抱いている赤ちゃんのことを言う。
「え、いやこの子は渡せないんです。」とウッテが返す。
「あん?」とちょっと怒り気味で睨む女将。
「ヒーーーー。」と叫ぶ。周りがこちらを見る。
段々と近づいていく女将。
じりじりと後ずさるウッテ。
そこに声をかける辺境伯。
「その子は私の恩人なのだ。無体は止めてもらいたのだが?」と女将を睨む。
「はっ。その赤ん坊がなんでここにいるかわからんが、色々あるみたいじゃないかい?」
と探りを入れてくる女将。
「君たちほどじゃないがね。影がいったいここに何のようだい?」と視線がバチバチする。
「ふっ、まぁ今は預けとくよ。旦那も来たことだしね。」
「辺境伯様、ご回復おめでとうござます。」と片膝をついて挨拶するヤン。後ろで何人かの兵が挨拶する。
「うむ、新護衛長よ励め!期待しているぞ!」と返した。
「はっ!!」
「それとな、なんでお前がここにいんだよ。」と立ち上がったヤンが声をかける。
「そりゃあれだ。あーなんだっけ。そうそう預かってた子がね。どっか行っちゃって探してたらここに来ちゃったんだ。」と思いついたように言う。
「あん、うんなわけないだろう?またなんか企んでんじゃないのか?シズクも来てたみたいだからな。」と頭を抱える。財布を盗まれた事が頭をよぎった。
「あの子こっちにいるんだ。ふーんそうなんだ。」と近くでビクッてなっている人がいる。
「ああ、金せびりに来やがった。」頭を抱える。
「あん、あの子がお金を?なんか借りでも作ったのか?それにその剣?」と剣に目線を向ける女将。
「さっき聞いてただろう。俺が今の護衛長なんだよ。」と照れくさそうに言う。
「ふーん。」とクーガーを見る女将。
「ああ、俺が譲った。」自信を持っていう。
「そうかい、まぁクーガーさんがそういうんだったら間違いないか?」心配そうにした。
「そこなんで疑問形なんだよ。」と抗議する。
「己の胸に聞いてみな。普段が普段だろう?」
「ぐっ!」と後ずさるヤン。
「やれやれまた夫婦喧嘩か?仲がいいことで!」クーガー。
「はっ、まぁ腐れ縁さ。」懐かしそうに笑う。
「は、そんなこと今はどうでもいい、行くぜ。カラスの野盗団とゴースを捕まえにね。クーガーさんも、もう少し辺境伯の護衛お願いしますね。」と言った。
「ああ、任せろ。」と送り出すクーガー。
「ヤンさん。」と声をかける者がいる。
「おおトッテか。」ヤンさんが近づいてくる。
「はい、お恥ずかしながらここの警備をしていたのですが、抜け出すタイミングを逸してしまって・・・」
「ははは、ならトッテはリース様の護衛、残りの兵は俺と来い、こっから速さが命だ。ゴースを逃がすなよ。」と言って玄関から駆け足で出ていった。
「あたしもとりあえず今回の仕事は終わりかね?」ともう一度赤ん坊をみる。
「この赤ん坊の安全は私、シード・フォン・ラーズが保証する。」と再び右手を胸に持ってきて宣言する。
「はいはい。」と後ろ向きに出て行こうとして。
「そのメイドもう限界だから一緒に面倒よろしく。」と二本の指を外に向けて合図する。
「ああ、わかった。」とそのメイドを見てもう一度見たら、もうそこには女将はいなかった。
「まったくこれは大きな借りかな?」と呟く。
「さて、リース達を安全な部屋に運んでくれ。」と指示を出す。
「すまないな、対応が最後になってしまった。」
「いえ、ですが、もうダメかも・・・女の子?」と支えてくる女の人がいる。リッテの意識はそこで途絶えた。
「お父様、リース兄上達は私たちが運びます。」と強い瞳で言うミーナ。
「そうか、そうか頼むミーナ。」と言って私は領主の執務室に向かった。
「さ、行きましょう。ユリ、リンズも手伝いなさい。」とテキパキと指示を出すミーナ。
「は、はい。」
「はい。」とリッテの両隣を固めるユリとリンズ。
「リース様は私が運びましょう。」と言ってくるトッテ。ウッテも頷く。
「ウッテさんの赤ちゃんは私が客間に案内しましょう。」
「いいのですか?」と疑問を呈するウッテさん。
「私も役立たずではありません。」とはっきり言う。
「は、はい。」と言って大事に赤ちゃんを受け渡す。
トッテとウッテはよいしょとリースを持ち上げる。
「キースさんは護衛をお願いします。」
「はっ。!」
「他のメイドは負傷者の手当を続けなさい、終わったら交代で休みを取るのです。キツイと思いますが、もう少しだけ私に力を貸してください。」とお願いする。
「「はい。」」とメイドたちは元気よく返事をした。
それはこの部屋の怪我を負った人々を明るくさせていく笑顔だった。
「ほう。」と階段を上がり二階についた辺境伯は感心していた。
いつの間にかミーナが凄く成長を遂げ立派になったことに・・・
「ダストは獅子達の尾を踏んでしまったのかもしれないな。」と言葉を漏らす。
「ええ、ここにいた者たちの中の誰かが英雄になったとしてもおかしくはないと思います。」と同意するクーガー。
「誰かがか。」と心当たりを何人か見る。
「その先は言わない方がよろしいかと。面白くありません」と笑って言ってくる。その笑顔は明るい。
「そうだな未来の楽しみにでも取っておこう。」とフッと笑って今度こそ領主の執務室に歩いていく。
ヤンが玄関ホールに来るまで。
「わーわー。お父さん」
「おっとさーん。」
「父上――。」とわけがわからないことを言っている。
兵達とヤンがいた。ヤンはもう勝手にやってくれという感じにやっている。
「おおうセバス。どうした?」
「どうした。ではありませんこれは?」と疑問に思って聞く。
「ああ、威嚇と牽制のつもりで大声を挙げて兵舎の兵を出さないようにしているんだ。あとこれで鉄の盾を棒で叩く。そうしたらもうあいつ等出て来ない。辺境伯家の兵は軟弱だな。」とヤンはやれやれ顔だ。
「いや、あちらの兵は?」と指さしながら聞くセバス。
「あれには関わるな。面倒臭い。」とそれだけ言って喋らなくなるヤン。
「まぁ良いですが・・・」と無理に納得した。
「セバスが来たってことはあっちは終わったのか?」ヤンは玄関ホールの方を見て言う。
「ええ、それと辺境伯様がご回復なされました。」
「おおう、それはすごいな。良かった。」と胸を撫でおろす。
「そうですな。あとは残党の討伐なのですが・・・」としばらく考えてこう言う。
「兵舎の兵を使いたいのです。」と真面目な顔で言う。
「マジで?」と驚きながら聞くヤン。
「ええ、大丈夫です。しっかり挽回のチャンスを与えないといけません。今回の件で色々人事が動きそうなのです。使えるものと、使えないものをしっかりふるいにかけなければなりません。この大事な時に震えているだけとは、少しカツを入れなければなりません。」と考えたことを言う。
「そうだな案外に急いだ方がいいかもしれない。やはり裏に・・・帝国がいるか?」と一応聞いてみる。
「むしろいないと言う方が無理でしょう。そう考えるとダスト坊ちゃまも、ゴース坊ちゃまも被害者になるのですが・・・そう言うわけにもいきませんね。困ったものです。」とやれやれ顔をする。
「最初の手口があまりにも鮮やかだったからな。辺境伯の暗殺未遂。リース様の拘束。完璧すぎた。」と敵に感心するヤン。
「失礼かもしれませんが、あの二人にそんな真似ができるとは到底思えません。」と険しくなる。
「そうだろうな、となると。」とある一人の人物が思いつく。
「ええ、私もあの人物が帝国のスパイだと思っています。」大剣を背に抱えている男、正直強さは未知数。されど謀略の腕は半端ない。
「正直まともに戦いたくありませんな。そして今回捕まえなければ、まずいかもしれませんね。」と考えていることをヤンと共有する。
「そっちも捕まえに行くか・・・ゴースと行動を共にしているんだ。捕まえる理由になるな。俺は行く。ここはセバスに任せた。おい、何人か俺についてこい、残りはセバスの命令に従え。」と言ってヤンは領主邸に歩き出す。
「正直、取り逃がしたくねぇーな。」捕まえるなりするには今回が最大のチャンスだ。
ゴースはその爆発を店の中で聞いていた。
店でいい女を物色していた時のことだ。
「なんだ?」と轟音に驚く。
「申し上げます。ゴース様。屋敷の方で爆発が起こったようです。」と隊長が言ってくる。
「な、なに襲撃か?しかしなぜ?」と考える。
「それはわかりませんが、リース様を救出に来た何者かの犯行じゃありませんか?」と言ってくる。
「む、そうなると・・・わ、わかったぞ!」
「おおう、さすがゴース様。」と褒めたたえる隊長。
「奴等ダスト兄上の命を狙っておるのだ。そしてリースを辺境伯にしようと動き出す。」と悪い顔になる。
「な、なるほど。」と納得した顔をする。
「しかし、奴等も阿保だ。俺にこのダメな父親の遺書があるのに、潰しあってくれるとはな・・・これは俺に辺境伯になってくれと言っているようなものだ。」と拳を握る。
「さすが、ゴース様。天才です。」とよいしょよいしょする隊長。
「リースには勝ってもらって、私の踏み台になってもらおう。」と店で格好よく手を広げる。
「やはり私は天に愛されている神の子だったのだ。きっと辺境伯の座も転がり込んでくる。ははははは。」と高笑いをする。
「そうですね。ああ、ですが情報だけは集めておきましょう。」
「情報?そんなもの集めてなんになる?」とゴース。
「そう、ゴース様が最高のタイミングで現れる。これこそが辺境伯の証明でしょう。」と力説する。決まったと思っている。
「はははは、隊長わかっておるのう。お前も飲め。」と酒を注いでくる。
「では、いただきます。」と一気飲みをする。
「ぷはー。」と声を出す。
「良い飲みっぷりだ!」とゴースは褒めた。
「ささゴース様もどうぞ!」とゴース様に注ぎ始める隊長。
「そう言えばお前の名前は何だったか。」ふと気づいたように聞く。
「嫌だな、そんな事よりもどうぞお飲みください。」と注ぎ終わったようだ。
「おうおういただこうかな。ぐびぐび、ぶはーぶはー。」と声に出てくる飲みっぷりだ。
「うん。」と隊長は何かに気づく。
「申し上げます。」と誰かが入ってくる。
「よし、許す。」とゴースが言った。兵は片膝をついて報告する。
「はっ現在ラーズ領主邸は襲撃者の部隊が優勢のようです。冒険者の攻撃で門が粉々にされております。」
「うむ。はっ?」と一瞬で酔いが覚めたゴース。
「門が粉々ですか?」と隊長が聞き返す。
「はい。何らかの魔法が使われたのでしょう。門は粉々に砕かれ瓦礫の山です。」と答える。
「まずいですね。領主邸の門なのです多少の対魔法処理もされているはず。それは相手にとんでもない魔法使いがいるという事です。どうされますかゴース様。そんな所に言ったら殺されてしまいます。」とゴースを見ている隊長。ゴースは判断に迷っているようだ。
そうここで屋敷に行くと言えば、その魔術師に存在のかけらもなく消滅させられてしまう。
いくら遺言書があるからと言って、自分の安全が確保されない場所に行くほど愚かでもない。
「申し上げます。」と膝を付く別の兵士。
「今度はなんだ!」とゴースは言う。
「それが・・・ダスト様の部隊カラスの野盗団が全滅していました。」と答える兵。
「はっいったい何があったのです。」と慌てて聞き返す。あいつ等は帝国ではお尋ね者でそこそこ強く使えると思ったから、今回の作戦に誘ったのです。それが役立たずのように、一瞬のように居なくなるとは、場合によってはここから逃げなければなりません。
「カラスの野盗団のアジトが・・・潰れていました。」
「・・・」
「・・・」私たちは一瞬黙った。コップを落とすゴース。
「いったい、いったい何が起っとるんだ!」と八つ当たりのようにテーブルを叩き出す。
「文字通りアジトが潰れておりました。ただ、不自然なことにその周りが水浸しになっておりました。」と報告してくる兵士。
「な、なんだと。」と叫ぶゴース。
「宮廷魔術師か、しかし?うんもしかして、私たちは何かとんでもない思い違いをしていたのかもしれません。」と隊長が顔をあげながら言う。何かが嚙み合った。
「どういうことだ?」と聞き返すゴース。
「これすべて、こちらの策にはめていたつもりが、我々が嵌められていたのです。」いつからだ。いつからこちらのすべてを見通していたのだ。
隊長は気付いていないだろうがすべて偶然である。
チコの魔法力はある程度高いとカヨが当たりをつけていた。
その威力を推し量れというのは無理な話である。
カヨに取ってはある程度効いてくれればいいや程度だった。
感情のゆさぶりでブーストするように仕向けた女将からしたら、想定以上で混乱しそうになったほどである。
カラスの野盗団を倒したのも、たまたま通りかかり悪い奴だと思って水魔法をぶっぱなしただけ、まだ制御が曖昧でアジトを潰すつもりはなかったがやってしまった。
「恐らく王国がすべてを把握しているなら、エリクサーや万能薬の付与さえもしているかもしれません。」と焦る。そして恐怖する。そこまでも見据える強大な敵がいる。生きて帝国に帰り伝えなければ・・・
「申し上げます。」と再び片膝を付く兵士。
「今度はなんだ!」と頭を抱えながら聞くゴース。
「辺境伯様ご回復!辺境伯様ご回復!」それを聞いた二人の行動は早かった。
「逃げる。」
「逃げましょう。」と店を後にした。
二人に取って幸運だったのは、その兵が裏口に立っている辺境伯を見ていたことだったかもしれない。
そのことが逃げる時間をだいぶ稼いだのだ。
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たまたま起こったことを策だと勘違いしたりするのが好きw




