新護衛長・ヤンの策
ヤンは目を閉じて待っていた。部下たちも静かにその時を待っていた。
わずかに二十人。少なくも仕方ない。時間がない。
「来たか。」そこにはトッテ、キース、ウッテがいた。
「はいヤンさん。護衛長と呼んだ方がよろしいですか。」とトッテがからかってくる。
「おう、言えるもんなら言ってみろ。」とにやついている。
「冗談ですよ。ヤンさん。えーと無事冒険者達に協力要請してきましたよ。」
「おう、なら良かったぜ。」と笑顔でヤンが言う。
「そっちのもご苦労さん。このままこっちに加われ・・・いや待て、確かキースお前は使用人の所に行け、戦況がヤバそうなら報告に来い。」
「え、俺?」と、戸惑う。
「当たり前だろう。お前がメイドと付き合っているのは知っているからな。」
「はっ?え、なんで?」あーあ言っちゃった。と頭を抱えるトッテ。
「なんでってお前の話なら皆知ってるぞ、それをネタにメイドと話すのが、今の辺境伯の使用人、兵隊達の娯楽だからな。」
「な、なんですと!!!」とキースは驚く。
ウッテはそんなキースの肩を叩く。
そんなウッテを振り返ってみたキース。なぜか笑顔で親指を立てている。
「はっ?」と一瞬思い、そう言えばコイツに色々聞かれて、話したことがあったような気がした。
「いやーメイドや兵隊の人たちがお前とメイドのことをよく聞いてきてな。俺は真剣にあることないこと言ってやった。だいぶ盛ったけど大丈夫だよな!お酒が入っていて仕方なかったんだ。」とドヤ顔をする。今度は両手で親指を立てる。
「お、お前!!」とウッテの肩を掴むキース。そして殴りだした。
「あーあー、ほどほどにしとけよお前ら。」とヤンが言う。
「あーあ、よりによって今バラさなくても・・・」とトッテ。
「あほか、今だからバラしたんじゃないか。見てみろ緊張してた奴が・・・緊張が解けたように、乱闘に加わって・・・ってやめろお前ら、始まる前に怪我すんじゃねー。」と止めに入るヤン。
「あーあこれが策士策に溺れる。か?勉強になりますヤンさん。」トッテ。
「お前も解説してないで、止めるの手伝え、早くしろ!グフ、誰だ俺を殴った奴は!!」とヤンも乱闘に加わっていく。
「前々から気に食わなかったんだキース。あの美人のリンズさんと付き合っているのは、許せないギルティ―。」と目が光っている。
「「そうだそうだ。」」と何人かがキースに殴りかかる。
「なんでヤンが護衛長なんだ!」と言っている人にヤンが殴られている。
こ、こいつら酒飲んでないよな?とトッテは思う。
「ちょっと待て、それを言うならウッテは近所の娘さんと結婚の約束しているらしいぞ!!」一瞬時が止まる。
何か言っていた野郎たちがウッテに振り向く。
ウッテの周りを取り囲む男達。
「その女の子はどういう子なのかな?」とウッテの肩に力が入っている。
「えーと、それはまぁ可愛いかな?」
焦りながら汗を垂らしながら、言った瞬間ボコボコにされ出すウッテ。
「ふざけるなウッテ。」
「お前が勝ち組だと許せない!」
「「そうだそうだ。」」と再び乱闘が始まる。
「キース今の内だ!さっさと行け。大事なもん守ってこい。」と親指を立てるトッテ。
「は、はい!」とキースは逃げるようにここから去って行く。
トッテは追いかける男がいないか確認した。うん、いない。
「おう、おうトッテ。」とフラフラになりながら現れるヤン。その姿は結構ボロボロだ。
「だ、大丈夫ですかヤンさん。」と聞く。
「ああ、俺の策の責任を取らないといけないからな。」と言って、力が抜け倒れるヤン。
「そ、そんなヤンさん。ヤンさん。せ、せめて次の護衛長は私だと言って・・・うん、そうしよう。」とトッテが思いついたように納得した。
「おい、お前たち注目しろ。」と皆がそっちに顔を向けた。
「今日から俺が護衛長だ!」とトッテが言った!!
「はっ!お前ふざけるなよ。」
「何言ってのかな?」
「わけがわからないことを・・・」と皆様々なことを言っている。
「悲しいかな、ヤンさんが最後に残した言葉なんだ・・・俺はその意思を継ぎたい!!」と決意を述べるトッテ。
「おおう、そうなのか。」
「ヤンさん、そこまで嫌いじゃなかったのに・・・」
「どうしてこんな奴を・・・」と口々に言いだす。
「「「ヤンさん。」」」皆の心は一つヤンさんの冥福を祈る。
「ヤンさんの志を継ぎ、これから私トッテが指揮を・・・。」
「あ、今なんて言った。」と首筋に刃物が当たっている。
後ろには鬼の形相のヤンさんがいた。
「ヤンさんが鬼になって生き返った!!」とトッテが青ざめる。
「そもそも死んでねぇーよ。勝手に殺すな。」と剣を鞘に収める。
「は、はいすみません。」と頭を下げる。
「まぁ、茶番は終わりだ各々配置につけ。作戦合図はどうするかな?」とヤンは考える。
「そう言えば、なんかでっかい音を出すそうですよ。」と人差し指を立てる。
「なんだ。そのでっかい音とは?」わけがわからず聞き返す。
「さぁ知りませんよ。ですが協力者からの伝言です。」と真剣な顔で俺は言う。
ここが俺の勝負どころだ。と手に汗握る。
「はっ、お前もいっちょ前に戦士の面になりやがって、育てたかいがあるな。」
ヤンは何かを感じ取ったのかもしれない。
「と言うことだお前等、イレギュラーはあるかもしれないが死ぬな!生きろ!そうして明日の栄光を掴みとれ!配置につけ、トッテお前は、ダストの野郎を捕まえる部隊長をやれ。俺は兵舎にいる兵隊を抑える。できるか?」と試すように聞く。
「はい、必ず。」と答えた。
「ああ、それとお前も広めたこと、あとでキースに言っとくからな!」と親指を立てるヤン。
「え?」と顔を青くする。
「当たり前だろう、ウッテだけ責任を取らせてんじゃねぇーよ。」と笑顔で言うヤン。
固まっているトッテ。
「ほら行った行った。」と手で合図をする。
とぼとぼと配置につくトッテ。
「くっ、せっかく喧嘩を止めるのに演技をしたのにこれか・・・いっそあの時、いや面倒ごとになるか、仕方ない。怒られてやるか。」と納得する。
「トッテ隊長しっかりしてください。」
「一緒に護衛長を陥れる策を考えましょう。」
「闇討ちですか、誰のせいにしましょう。」
「お、お前たち・・・わかってくれるのか。」と感動するトッテ。
「ええ(すべての責任はトッテ隊長に)」
「はい(トッテ隊長なら相打ちしてくれる)」
「うんうん(どさくさ紛れでやれるはず)」三者三様である。
「そうだ、すべてをヤンさんのせいにしよう、それがいい!よしまずは目の前の作戦だ!!」と格好をつける。
「む、ウッテを置いて行ったか?」ヤンは言った。
お前をどうする?こいつらの生贄にするか?
なんだかんだでコイツはしぶといからな。
一番危なそうな所に配置したいが・・・
「どうしたんですかヤンさん?」と聞くウッテ。
「いやお前を煮るか?焼くか?さばくか?考えていてな?」とちょび髭を触りながら考えている。心なしか周りの目が本気でそうしたいように見えてくる。
「ひ―。」と青い顔になるウッテ。
うむ、さっき殴られていたのにあまり外傷がない。
いや?あるにはあるがうん?身体全体で攻撃を受け流していたのか?
実は影の実力者なのか?あのトッテがそばに置いているのだ。
無能というわけではないか?
「ふむ、よし決めた。お前は一人で離宮に行け!もしもの時は前護衛長を助けろ!」
「はっ?」とわけがわからない風に聞いてくる。
「今離宮は前護衛長が警備している。一人でだ。お前はここに行ってもらう。今の状況も報告しておけ。もし賊が来たら、身体を張って止めろ!奥には辺境伯様がいる。絶対に傷つけさせるな!お前の首が飛ぶぞ!」
「えーと、は、はい。」しまった思わず。返事しちまった!!
「ほら行ってこい、一番キツイところだ頑張って来いよ!」とヤンは送り出す。
「ガーン。」とぼとぼ離宮に向かっていく。
「うん、誰だ?」と月明かりに照らされた顔を見る。
「どこかで見たことがあるな?」と言って聞いてくるクーガー前護衛長。
「えーと、兵士のウッテです。ヤンさんに言われてきました。」と敬礼する。
「ほう、では状況報告を頼む。」と聞いてくる元護衛長。
「はっ!えーと、まず冒険者達と協力を取り付けました。」
「うん、続けよ!」頷いている。
「今、門の前に冒険者が待機しています。それからヤン護衛長も配置にこれから付くそうです。トッテ別動隊がダスト様を捕える部隊の指揮に向かっています。」
「ほう、あのトッテがな・・・お手並み拝見かな。」
ここから、屋敷の玄関の裏口に待機している影が辛うじて見える。
「中々トッテも様になっているな。あれなら大丈夫だろう。」と頷いている。
「他には何かあるか?ああ、それなら・・・」
そこから言葉を話すことができなかった。
辺り一帯に爆発音が響き渡ったからだ。
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