思惑
俺達はそのまま次の試合を観戦する。
意外に疲れていて寝てしまう皆。
「ふぁわー。」と俺も赤ちゃん形態で欠伸をした。
なぜか俺を抱いて寝ているナホ。
隣を見ればエイナが遊びたさそうにしているが・・・
俺も疲れているんだ。
ちょっと我慢してくれよな。
試合会場を見れば次の試合は貴族同士の戦いらしい。
貴族にも身分差があり、王族、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵、あとは一応名誉爵なんて言うのもあったりする。
今回の対戦は男爵組以下と子爵組以上の貴族の子弟で作られた者たちの戦い。
「貴族同士の試合ですか?」とミレーヌ。
俺はその隣に座ったゴーレムに腹話術する。
「ああ、どう言う試合になるか楽しみだ。」と無難に返してやる。
その試合は今までと違う試合だった。
上級貴族は遠慮なく魔法を使い。
身体強化系の魔法で素早を上げ、相手を翻弄している。
最初に戦ったあいつ等がまるで子供のように手玉に取られている。
風にスキルを使い圧勝。
スライムボールがスーパー回転でゴールに突き刺さった。
終わってみれば3対0で上級貴族の勝ちだ。
最初に戦った奴等は悔しそうに地面を叩いている。
「くっそー!」と叫ぶ声が俺の所まで聞こえた。
落ち込んでいるあいつ等にジータが声をかける。
「またいつかやろうぜ!」そんな子供らしい声が聞こえる。
「ああ。」そんなあいつは涙を堪えるのに必死だったようだ。
俺達が帰ろうとすると、その前に女の人が現れる。
「まさか、そんな!」と頭を下げるミレーヌさん。
あっもしかして。
「王女様よ。頭を下げなさい。」と皆に言う。
皆が頭を下げようとする。
「いいのよ。これは労いに来ただけですもの。」と遠慮をするなと言ってくる。
そこで俺と目が合う。
「あらあら、まぁまぁ。」と俺の元に近づい来る。
「あうああー。」えっ?えっ?と困惑を言葉にした。
「抱かせてもらっていいかしら?」と言ってナホに許可を取る。
うんうん。と凄い勢いで首を縦に振っている。緊張しているのだろう。
それを優しくゆっくり抱き締める。
そして語りかけてくる。
「私の赤ちゃん元気でね。」とあやしてくる。
周りの空気が凍った。
「あうあうあうー。」何言ってんの?!
「えっ、お母さん?」とミレーヌが口を開けている。
見ればジータ達も驚きで何も言えない。だけど・・・
「はぁーー!」と皆が物凄い声で叫び出す。
この子たちにとっては今世紀最大の驚きだろう。
俺をあやしながらミレーヌさんに話しかける。
「ごめんなさいね。王宮にこの子の居場所はなくて、孤児院に預けるしかなかったの?」
俺はその視線が俺ではなくエイナの方に向いていることに気づいた。
なるほど、なるほど。
この人は俺を人身御供にエイナを守ろうとしているのだな。
一発、何か言ってやりたいが・・・
エイナのためなら言うのを我慢してやろう。
それに奇麗な女性は殴れない。
代わりに俺は今、甘えることにするのだった。
そんなことがまさか!
王女のものをおがむことになろうとは・・・ありがたや。
たぶんエイナを守るためなんだ。
うん、異世界だから仕方ないよね!と開き直った。
そんな俺をジト目で見ているエイナ、俺はそれに心の中で正座する。
これは子供を守るため。
私は演技をする。
いずれ私は地獄に落ちるかもしれない。
こんな可愛い子を私の子と偽り本当の子を守ろうとしているのだ。
「ごめんなさい。」と私はその子と彼女に言った。
「いいってことよー!」とそんな声が私の耳に聞こえたような気がした。
その子を見れば・・・
「あうあうあー。」と言っている。
どうやら気のせいだったようね。
私はこれから公爵領に戻され、そこで幽閉されて一生を過ごすことになる。
最後のお別れよ。もう会うことはないかもしれない。
そう思うと涙が溢れてくる。
「あうあうあー。」と慰めてくる。
もう一人の赤ちゃんも私を見続けている。
この二人はきっと大丈夫。
私はなぜかそんな風に感じられたのだった。
そんな王女様に俺は適当な使い魔ネズミーをつけ。
去って行く王女を見守った。
俺達は今日も宴会をして、そしてチコちゃんを労っていた。
珍しくお酒を飲んで酔っているミレーヌさん。
そんなミレーヌさんにもみくちゃにされるチコちゃん。
二人は一体どう言う関係なのだろうか?
聞いてみたいような、恐ろしいような気がしてならなかった。
子供たちは思い思いに美味しいものを食べている。
俺は元気よくエイナと一緒にミルクを飲んでいた。
「ばぶばーぶ。」と言っているが俺は意味がわからない。
首を傾けるだけだった。
えと、珍しく一応、鑑定。俺の欲しい情報だけ。
エイナは魔法適性上に・・・転生、未覚醒?
未覚醒?と頭を抱える。一体何が起こっているのかな?
まだ魂がここに入ってないってことかな?
俺はそれに触れてしまう。そうしたら・・・
「あれ、これは?ここはどこ?」と喋りだす。そしてきょろきょろしている。
周りが俺達を見る。今赤ちゃん喋らなかった?と。
「おぎゃおぎゃー。」俺は取り敢えず誤魔化すように泣き出した。
エイナは今の自分の状態を確認しているようだ。
まぁ落ち着いたらいつか話そうかな。
そんなことを思いながら俺はもう少し泣いていようと。
「おぎゃおぎゃー。」と泣き続けるのだった。
帝都ダンジョン 最下層
「ここにあったのはこれですか?」
その装置が何なのか私にはわかる。だけどこれを動かすのは出来そうになかった。
一人心当たりがあるけど。
今はまだ赤ちゃんの時を楽しんでもらいたい。
私はそう思いながら主のことを思うのであった。
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