【声劇台本】あの日の約束
島野 孝弘
男性 二十六歳 サラリーマン
大学卒業後、一人暮らしをしている。彼女いない歴=年齢で童貞。
水田 葵
女性 十六歳 高校生
両親が海外出張に行っているため現在は一人暮らし。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
タカヒロM:あの日、僕は長引いた残業のせいで疲れ切っていた。金曜日ということもあり酔っ払いやゴキゲンな人々が乗った電車の中、微睡みながら降りる駅へ向かっていた。
駅に着き、電車を降り、改札を抜けて帰る中、「こんな日はビールでも飲んでゆっくり休もう」なんて駅前のコンビニを目指す。
店員:いらっしゃいませー。
タカヒロM:ビールを3本、つまみに枝豆と焼き鳥、それから弁当をひとつ買い物かごに入れてレジに行く。綺麗に掃除されたタイルを見ながら財布を出そうとすると、突然、店員に声を掛けられた。
店員:あれ……もしかして、タカ…にい?
タカヒロ:え?
タカヒロM:聞き慣れない呼び方をされて驚き店員の顔を見ると、そこには可愛らしい女子高生が目を丸くしてこちらを見ていた。
店員:私の事、覚えてる? ほら、小さい頃よく遊んだ葵。隣の家の!
タカヒロM:そう言われ、顔と「水田」と書かれた名札を交互に見ると、忘れていた記憶が次第に蘇ってきた。
タカヒロ:あおい……ちゃん? え!? 葵ちゃんなの!?
葵:そうそう! 私が小学校に上がるまで一緒に遊んでた水田葵!
タカヒロ:驚いたな……まさか10年ぶりにこんな所で会うなんて……
葵:それはこっちのセリフ。偶然すぎるよね。仕事帰り?
タカヒロ:あぁ、そうだよ。葵ちゃんは、ここでバイト?
葵:うん。高校入学してすぐ入ったんだ。
タカヒロ:そっか……あ、お会計。
葵:あ、えっと……1376円です。
タカヒロ:じゃあカードで。……よし、会計できたね。それじゃ頑張ってね。
葵:あ、待ってください!
タカヒロ:何?もしかして何か入れ忘れた?
葵:そうじゃなくて……私、もう少しでバイト終わるんです。良ければ待ってもらっても良いですか?
タカヒロ:え? もう少しってことは……あと15分くらい?
葵:はい。
タカヒロ:うーん……分かった。それじゃあ外で待ってる。
葵:……ありがとうございます。
タカヒロM:あの時、何故、彼女のことを待とうと思ったかは覚えてない。今になって考えると僕自身が人肌恋しかったのかもしれない。
コンビニの目の前にある喫煙所でタバコを吸っていると、コンビニ袋を持った彼女が現れた。
葵:あれ、どこに居るんだろう……
タカヒロ:葵ちゃん、こっちこっち!
葵:あ、お待たせしてしちゃいました。
タカヒロ:大丈夫。バイトお疲れ様。
葵:ありがとうございます。それでタカヒロさん、家はどこなんですか?
タカヒロ:家?ここから歩いて20分のところ。駅から西に行くよ。
葵:西ですか?それなら私も同じなので途中まで一緒に帰りませんか?
タカヒロ:良いけど……
葵:それじゃ行きましょ!
タカヒロM:そういうと彼女は軽やかな足並みで歩き始めた。
タカヒロ:ねぇ、葵ちゃん、どうして敬語なの?
葵:え?それは……十年ぶりなので正直、距離感が……
タカヒロ:最初の方はタメ口だったのに?
葵:それは!貴弘さんに久しぶりに会えて……テンション上がっちゃって……
タカヒロ:あははは、そっか。葵ちゃんが良ければタメ口で話してもらっても大丈夫だよ。
葵:え?本当ですか?
タカヒロ:うん、その方が僕も話しやすいし。
葵:分かり……ました。それじゃ敬語はやめる事に……するね?
タカヒロ:うん、呼び方も、タカにいで良いからね?
葵:じゃあ……お言葉に甘えて。
……えっと、タカにい老けたね。
タカヒロ:え、話題のひとつめがそれ?
葵:え、ダメだった?
タカヒロ:ダメじゃないけど……何かメンタルに来るものが。
葵:あ、ごめんごめん!なんか別の話題にしよっか。
タカヒロ:ははは……まぁ最後に会った時は僕、中学3年生だったからね。それは見た目も変わるよ。
葵ちゃんこそ可愛くなって驚いた。
葵:え?えへへ、そうかな。
タカヒロ:うん。
葵:褒め上手。もしかして彼女さんにもそんな感じ?
タカヒロ:居ない居ない。
葵:え?……元カノとかは?
タカヒロ:居ないね。正直、女性とは縁がない。
葵:そうなんだ、ふーん。
タカヒロ:え、なになに?
葵:なーんでも?好きな人とかは居なかったの?
タカヒロ:好きな人か……高校の時に一人だけ居たかな。
葵:どんな人だった?
タカヒロ:体育祭実行委員、文化祭実行委員、卒業生を送る会実行委員……とにかくイベントの運営に回って、その中心でガツガツ計画してるような人だったな。
葵:リーダーシップのある人が好きだったんだ。
タカヒロ:うーん、好き……と言うよりは憧れだったのかも。
葵:へぇ……タカにい、仕事は何やってんの?野球選手じゃないんだ。
タカヒロ:野球選手か……そういえば当時はプロになるって息巻いてたっけ。高校生の時も野球部に入ったけど、そこで才能の無さに気付いてね。諦めちゃった。
葵ちゃんは部活に入ってるの?
葵:私?私はテニス部に入ってる。友達に誘われて流れで。
タカヒロ:テニス部か。好きなの?
葵:最初はそんなに好きじゃなかったけど、今は。
タカヒロ:最初は?
葵:うん、入学前はソフトボール部に入ろうと思ってたんだけど、友達が「1人じゃ無理!」って言うから。
タカヒロ:ソフトボール部?なんでまた。
葵:覚えてない?小さい頃タカにいと、よく野球してたじゃない?だから野球部に入りたかったんだけど、女子野球部、無かったから。
タカヒロ:そうなんだ。というか僕って幼稚園生相手に野球してたのか……なんか嫌だな。
葵:いやいや、遊びだったから。
タカヒロ:そっか。
葵:それでサラリーマンになったと。仕事は上手くいってる?
タカヒロ:まあまあかな。仕事内容は難しくないけど、人間関係がね。
葵:人間関係?
タカヒロ:うん。上司は無理難題を言ってきて大変だし、後輩はやる気がないのか指示を聞いてくれないし。同期が二人いたけど、一人は辞めたしもう一人は上に媚び売るけど成果は微妙だし……
葵:ストップストップ!もういいよ……聞いてて辛い。
タカヒロ:ごめんごめん、いつの間にか愚痴になってたね。
おじさんとおばさんは元気?
葵:うん、多分ね。
タカヒロ:多分?
葵:パパとママは今サンフランシスコに居るの、3年前からね。だから今は一人暮らし。
タカヒロ:サンフランシスコ!?……ま、まぁ当時から忙しかったみたいだしね……なんでサンフランシスコ?
葵:ほら、二人とも貿易業じゃん?会社が海外進出するからって出向したんだよね。
タカヒロ:そうなんだ……寂しくない?
葵:ちょっとだけ。家に帰ると寂しいけど、友達も居るし。おばあちゃんとも連絡取ってるしね。
タカヒロ:そっか……
タカヒロM:彼女は笑顔で言ったが、その瞳には何か残した様な光が見えた。おそらくこの時から僕は葵ちゃんを気にかけていたのかもしれない。
タカヒロ:……っと、いつの間にかアパートまで来ちゃった。
葵ちゃん、家どこ?送ってい
葵:割と新しめのアパートなんだね。部屋番号は……105?角部屋なんだ。
タカヒロ:そうなんだよ。で、家はどこなのかな?もう遅
葵:ねえー、早く開けてよー!
タカヒロ:葵ちゃん、ちょっと静かにしようか。近所迷惑だから。それで家は
葵:は、や、く。は、や、く。
タカヒロ:葵ちゃん!
葵:え、何?
タカヒロ:い、え、は?
葵:いーよ。帰っても独りだし。タカにいも独りなんでしょ?じゃあご飯、一緒に食べようよ。
タカヒロ:いやいや、嫁入り前の女の子が男の家に上がり込むなんて……
葵:はいはい、そーゆーのいーから。……早く開けてくれないと、ここで大声出しちゃうから。
タカヒロ:えぇ!?いやいや、そんなことされたら近所にどう思われるか……
葵:はいさーん、にーい、いー
タカヒロ:はいはい!分かった、分かったよ……はい、どうぞ……
葵:お邪魔しまーっす!
タカヒロ:まったく……最近の子はこんなに押しが強いものなのか……
葵:へえ、殺風景……というか絵に書いたような部屋。パンフレットとかにありそう。
タカヒロ:そう?面白いものはないよ。
葵:うん、本当に面白いもの無さそう。趣味とか無いの?
タカヒロ:趣味に時間使えるほど暇じゃないんでね。
葵:なにそれ、趣味のある人は暇人みたいじゃん。
タカヒロ:ごめんごめん、余裕の方が適切だったね。
ほら、お弁当ちょうだい?温めてあげるから、手を洗ってきな。
葵:はーい。
タカヒロ:はい、どうぞ。
葵:あ、ありがとう!
タカヒロ:それにしてもカレーなんて、結構ガッツリいくんだね。
葵:良い身体作りは良いご飯から!でもなんで?
タカヒロ:いや、年頃の女の子なら体重とか気にして野菜しか食べないイメージがあるから。
葵:たかにい、それデリカシーないよ?
それより、お酒飲まないの?
タカヒロ:未成年の前では飲めないよ。明日にでも飲むさ。
葵:えー、カンパイしようと思ったのに。
タカヒロ:烏龍茶で?
葵:それ以外なにかある?
タカヒロ:いや、ないと思うけど……
葵:ほらほら、プシュッと行きましょう!プシュッと!!
タカヒロ:あー!そんなに乱暴にした……あーあーあー。
葵:うわ……零れちゃった……
タカヒロ:ビールは炭酸が入ってるから、振ったら出ちゃうよ……ちょっと待ってて。拭くもの持ってくるから。
葵:なんか、ごめんなさい。
タカヒロ:良いよ、気にしないで。それより、開けちゃったからには飲まなきゃか……
葵:あ、私、拭く。
タカヒロ:ベタベタするから大丈夫だよ。ありがとう。
葵:……
タカヒロ:さて、拭き終わったし、乾杯しようか。
葵:じゃあ……カンパイ。
タカヒロ:かんぱーい。
ング、ング……はぁ、染みるね。
葵:やっぱりオジサンくさい。
タカヒロ:やっぱり?どういうこと?
葵:いや、帰り道の間、話してるとオジサン臭いなって思ってて。
タカヒロ:うぐっ……またナイフが……
葵:今のはワザと。
タカヒロ:ええぇ……もう。
ングングングング……
葵:うわ、めっちゃ飲むじゃん。
タカヒロ:もうね……飲み始めると止まらないんだよね。
葵:へえ、酔うとどうなる?
タカヒロ:んー、声が大きくなる。
葵:それは気になる。
タカヒロ:そう?
タカヒロM:それから先の会話はよく覚えてない。葵ちゃんの話によると昔話に華が咲いたというが……あんなことは初めてだった。
次に覚えてる記憶は僕が床に倒れていて、その上に葵ちゃんが居た。
タカヒロ:えーっ……と?なんで葵ちゃんが上に?
葵:あの……えっと……これは、事故で……
タカヒロ:と、とりあえず葵ちゃん……ど、どこうか。
葵:……たかにいの心臓、バクバクいってる……手で触ってても分かる……
タカヒロ:それは……お酒、飲んだから……ね。
葵:……ねぇ、なんで私が好きな人とか聞いたと思う?
タカヒロ:え?分からないよ……恋バナとか好きな年齢だからじゃないの?
葵:それだけじゃないよ。
タカヒロ:じ、じゃあなんで……
葵:昔、約束したの忘れちゃった?"大人になったら結婚してくれる"って……
タカヒロ:……そんな約束したっけ?
葵:私は憶えてるよ……だからずっと彼氏、作らないでいた……
タカヒロM:次の瞬間、僕の唇と葵ちゃんの唇が触れ合った。
貴弘M:それから画面の向こうでは男女の交わりが始まった。葵の花から溢れる蜜、高まっていくタカヒロの象徴。
俺はコントローラーを机の上に置いて、スマホでレビュー画面を眺める。
貴弘:「あの日の約束」……星4.2。だいたいのレビューが"抜ける作品"で参考にならないし、どんなものかと買ってみたけど……
にしても酷いゲームだな。帰り道の会話は少ないし、選択肢はほぼ一択。飯を食ってから行為に至るまでを"おぼえてないけど……"で済ませる杜撰な物語。
まぁギャルゲーでもエロゲでもなくノベルゲームって分類の仕方が全てを物語ってたか。
あーあ、クリエイターのオナニーに付き合わされた気分だわ。行為を入れるならプレイヤーを抜かせろよな。
さて……次はどんなの買おっかな……お姉さん物とか良いな。
葵:タカにい……もっと私を見て……